Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年10月22日 No.3472  ポスト冷戦後の世界と日本の選択 -田所慶應義塾大学教授と意見交換/外交委員会

経団連は9月30日、東京・大手町の経団連会館で外交委員会(片野坂真哉委員長、大林剛郎委員長)を開催し、慶應義塾大学法学部の田所昌幸教授(経団連21世紀政策研究所研究主幹)から、経済安全保障をめぐる動向やわが国の対応策について説明を聴くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 米中対立の性格

米中対立は「お山の大将」を決める覇権競争や、東アジアを舞台とした地政学的対立という性格もある。しかし、ここ数年で、全面的な体制間競争・制度的対立の性格が急速に強まってきた。ただし、米ソ冷戦とは異なる点がある。米中は経済的につながっている。また、中国が米国の世論に働きかけ、民主的な意思決定にまで関与しているとの警告が多く出されている。

■ 米中両国の現状と今後の見通し

米国内では党派対立と社会的な分断が進んでいるが、対中意識は超党派で悪化している。民主党はウイグルの人権問題を重視しているため、バイデン政権が誕生した場合でも、米国の対中強硬姿勢は大きく変わらないだろう。ただし、同盟国とより協調する可能性はある。

一方の中国は、内政面に脆弱性を抱えつつも、対外的には強硬姿勢を取っている。ロシアや一帯一路関係国など数少ない友好国と関係を強化すると同時に、米国の同盟国を切り崩し、中国に好ましい国際環境をつくることを目指すだろう。

■ わが国およびわが国企業に迫られる選択

仮に日本が米中間で「中立」となったとしたら、それは米国の同盟国から日本が抜けるということを意味する。国際社会のパワーバランスに劇的な変化をもたらし、中国が支配する東アジアが形成されることとなる。これまで米国が提供してきた自由や法の支配等の制度インフラは、中国と組む秩序では維持されないので、これまでのようなビジネスもできなくなる。

今後日本は、米国離脱後もリーダーシップを発揮してまとめ上げた環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)のように、安定した国際関係を求める国々と連携して多国間の秩序を構築していくことが求められる。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)についても、ルールに基づく秩序であることを強調し、ルールに従うのであれば、中国を含むどの国も排除しないことを明確に訴えるべきである。

<意見交換>

米中対立への対応策について聞かれた田所教授は、米国は中国への機微技術の流出を問題視しているが、日用品の取引まで禁止しているわけではないとしたうえで、国として、取引が禁止される技術・製品を明確化することが必要と指摘した。

また、米国の輸出規制の域外適用に対しては、立案段階からの相談を求めることに加え、有志国間のルール形成を進めるべきだとの認識を示した。

さらに企業に対しては、中国ビジネスと他のビジネスを区分することも検討すべきではないかと問題提起した。

【国際経済本部】