Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年11月5日 No.3474  米国社会の分断・分裂の歴史と先行きについて聴く -アメリカ委員会

説明する渡辺教授

経団連は10月16日、東京・大手町の経団連会館でアメリカ委員会(早川茂委員長、植木義晴委員長、永野毅委員長)を開催し、慶應義塾大学環境情報学部の渡辺靖教授から、米国社会の分断について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 米国分断の歴史

米国は歴史的に分断、分裂してきた。1789年の憲法批准時には、強力な中央政府の是非をめぐる対立が、また、1861年から始まった南北戦争の際にも、連邦制や奴隷制をめぐる対立がみられた。その後、1929年の大恐慌を経て、33年にニューディール政策が始まって以降、「大きな政府」を志向する、リベラルな民主党が優勢な時代が続いた。そうしたなか、60年代から「何のために共和党は存在するのか」という疑問が呈され、共和党は「小さな政府」を志向し始める。共和党としてのアイデンティティーを確立するなかで、シンクタンク、財団、メディアが設立され、知識人を含めて理論武装が意識的に行われるようになった。この流れは、80年代のレーガン革命で結実、その後強固なものになっていく。

今日的な党派対立の原因は、94年の中間選挙にある。40年ぶりに上下院ともに共和党が過半を占め、存在感を帯びるようになったため、ビル・クリントン大統領(民主党)は右旋回を迫られ、96年の一般教書演説において、大きな政府の時代の終わりを宣言する。一方で共和党は、選挙戦略としての側面も含め、中絶、ヒト胚性幹(ES)細胞、尊厳死、同性婚など価値観にかかわる部分をリトマス紙として、民主党との違いを際立たせていく。その結果、国は分裂し、党派対立は過激化してきた。

■ 社会文化から見た米国

米国の2大政党を動かしてきたエスタブリッシュメントへの反発が起こっている。民主党では、クリントン大統領が共和党・ビジネスに寄り添ったことで格差が拡大したとする不満が高まってきた。これは、バーニー・サンダース氏の躍進に象徴される。

共和党では、トランプ旋風が例となる。米国第一主義のもと、米国を壊した張本人こそブッシュファミリーをはじめとする主流派である、と主張している。

新型コロナウイルス感染症のような国家的危機やBLM(Black Lives Matter)のような米国理念を揺るがす事態を通じても、米国は団結できなかった。政治的に分断した社会が対話モードになった例は、歴史的にも少ない。

■ 先行き

米国社会の先行きについて、楽観・悲観それぞれのシナリオを紹介する。

  1. (1) 楽観シナリオ
    現在6割を占める白人人口は、2045年までに5割を切る。また、ミレニアル(現在24~39歳)・Z世代(8~22歳)は社会正義に対する意識が高く、リベラルである。この層が増えていけば、共和党もデモグラフィー(人口統計)に合わせ、白人・中高年・キリスト教中心から変化していく可能性がある。また、市場の力にも期待できる。企業としても、若い世代を逃すと顧客や優秀な人材を失いかねないことから、彼らに合わせた市場開拓に取り組むことが予想される。それにより社会全体の価値観が変わり、対立のトーンダウンにつながり得る。

  2. (2) 悲観シナリオ
    AIやロボットによる情報革新が進み、生産性が高い社会が現出するなかで、情報革新から取り残された人の不満や被害者意識が強大化し、トランプ大統領よりも過激な発言をするリーダーを待望する可能性がある。

【国際経済本部】