Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年12月3日 No.3478  「国際秩序の変容の中の東南アジア」について聴く

大庭氏

経団連は11月16日、オンライン会合を開催し、神奈川大学の大庭三枝教授から、「国際秩序の変容の中の東南アジア―今後の日ASEAN関係へのインプリケーション」と題する講演を聴くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ リベラル国際秩序とASEAN諸国の発展

ASEAN諸国は、冷戦終結後、米国をはじめとする先進国が主導する「リベラル国際秩序」の広がりのなかで、民主化・人権保護を掲げるASEAN憲章を制定するなど、一定程度リベラルな規範や価値を受け入れてきた。また経済的には国境を越えた生産ネットワークの展開に自らを位置付けるなど、リベラル市場経済の拡大に乗るかたちで発展を遂げた。

しかし、2010年代に入り、新興国である中国の台頭、排外主義を伴う欧米各国内での一国主義の表面化などによりリベラル国際秩序は動揺し、ASEAN諸国も揺れている。他方、近年、米中対立が激化するなかでも、ASEAN諸国は、米中両国との関係を維持しつつ一定の距離を取ることで自らの外交的自立性を確保するという、彼らの伝統的な多方向バランス外交を展開している。その一例が、「インド太平洋」に関する構想が大国を中心に議論されるなかで、彼ら自身のビジョンを示した19年の「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の公表である。

■ 新型コロナ危機によって強化されたASEAN諸国の権威主義体制

2010年代にリベラルな価値・規範が国際的に揺らぐなかで、ASEAN諸国においても、タイにおける軍事政権の誕生、カンボジアのフン・セン首相による権威主義体制の強化など民主化の逆行とみられる動きがあった。

ASEAN諸国において、新型コロナウイルスの感染拡大対策が、政権の権威主義体制の強化の方策として利用されている側面がみられる。新型コロナ対策の一環として、統治者の権限強化や言論統制が行われているが、それらの手法は国内の統治に一定程度効果を発揮する実例を示した点で重要な意味を持つ。これは、今後、ASEAN諸国における自由や民主主義を是とする価値観や規範が揺らいでいく可能性を内包している。こうした権威主義的な流れは、必ずしも中国からの影響ではなく、ASEAN各国の国内政治の文脈に起因するものである。また、中国に対する姿勢は、各国ごとに異なっていることに留意し、今後の動向を注意深くみていく必要がある。

■ 諸課題に連携して取り組み、日ASEAN関係の一層の強化を

日本とASEAN諸国は、米中との距離の測り方という点で共通の立場にある。また、気候変動やエネルギー問題などのグローバルなリスクに対しては、互いに連携しながら取り組んでいく必要がある。経済社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進にあたっては、とりわけ民間部門がいかに主導的な役割を果たしていけるかがカギとなる。さらに、自由で公正な社会秩序を国際社会に広げていくうえで、わが国がASEAN諸国に民主化の推進と人権保障の強化を積極的に呼びかけていくことも重要な課題となっていくだろう。

【国際協力本部】