Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年12月10日 No.3479  バイデン政権のエネルギー温暖化政策<下> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

バイデン氏は選挙公約のなかで前述(前号既報)の7つの政策に加え、(8)ゼロエミッション車の導入を加速するための基準強化(9)建物のカーボンフットプリント基準を2035年までに50%強化、4年間で600万の建物を改修(10)電気自動車、再エネ、省エネ、CCUSに対する税制インセンティブの導入――等を打ち出した。これらを実施するため、(11)4年間で2兆ドルの気候変動関連政府支出を行うとしている(その財源は法人税増税等であろう)。

国際面では、(12)クリーンエネルギー輸出の推進、国際金融機関と協力し、温暖化対策に取り組む途上国に対して債務免除(13)パリ協定に再加入(14)将来の貿易協定においてパリ協定の目標へのコミットを条件付ける(15)温暖化防止義務を満たさない国に対して炭素調整課金・割当を導入――等の項目が並ぶ。

他方、バイデン政権の温暖化政策実施には制約要因もある。大統領選直前に保守派のエイミー・バレット氏が最高裁判事に任命され、最高裁の勢力分布が保守派6、リベラル派3となったことにより、法律解釈における行政府の裁量の余地が制限的に運用される可能性が高い。このことは大気浄化法を「拡大解釈」し、クリーンパワープランを導入したオバマ政権のようなことがやりにくくなることを意味する。また、上院で民主党が多数を取れるか否かがバイデン政権の政策実施の自由度を大きく左右する。選挙前には「ブルーウエーブ」が吹き、大統領、上下両院を民主党が制するとの世論調査もあったが、本稿の執筆時点では共和党が半数の50議席確保を確実にしている。仮に共和党が上院での過半数を維持すれば、気候変動関連の新法導入や4年間で2兆ドルといった大規模予算措置の実施が極めて困難となる。

温暖化問題に関する米国のリーダーシップはトランプ政権のパリ協定離脱によって大きく毀損したが、バイデン政権下でそれがどの程度回復できるのか。パリ協定の成立に向けオバマ政権は中国と密接に協力してきたが、米中関係はトランプ政権下で大きく悪化し、貿易、安全保障面における中国脅威論は超党派の支持を受けている。オバマ政権時代の旧に復することは難しいだろう。欧州諸国等は米国の戦線復帰を歓迎するだろうが、米国がCOP26までに野心的できちんとした政策に裏付けられた30年目標を出せるかは未知数だ。トランプ政権時代の不作為により、25年26~28%減というオバマ政権時代の目標への進捗は足踏みしている。さらにトランプ政権が拒否したグリーン気候基金への出資等のツケも払わねばならない。

バイデン氏は国境調整措置を公約に掲げており、米国で何らかのカーボンプライスが導入されれば国境調整措置を伴うものになることは確実だ。しかし、上院で過半数をとれなければ炭素税のような明示的カーボンプライスを導入することはできない。EU-ETS(EU排出量取引制度)に立脚した国境調整措置を検討しているEUとの調整は容易ではないだろう。

バイデン政権発足はこれからだが、まず注目されるのは上院選挙の結果、ホワイトハウス、国務省、エネルギー省、環境保護庁等においてエネルギー温暖化政策を担うキーパーソンが誰になるのか、サンダース氏のプログレッシブ色がどの程度前面に出てくるか等が注目される。

【21世紀政策研究所】

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