Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年1月28日 No.3485  対米外国投資委員会(CFIUS)の近年の動向 -米中安全保障関連規制に関するウェビナーを開催〈上〉

経団連は12月2日、米中安全保障関連規制に関するウェビナーを開催し、米国のモルガン・ルイス法律事務所のジョバンナ・M・チネリ弁護士、ケン・J・ヌネンカンプ弁護士、ナンシー・山口弁護士から、米国の安全保障関連規制を中心に説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ CFIUSの概要

対米外国投資委員会(CFIUS)は、財務長官を議長に、関連する複数の省庁により構成される組織であり、米国の国家安全保障の観点から、米国の企業・事業・技術に対する外国投資の審査を行っている。2018年8月に成立した「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」では、外国の敵対者による脅威を防ぐために、CFIUSの権限が強化され、外国投資家は、特定の産業分野の取引については、事前にCFIUSに届け出を行う法的義務が課せられた。

■ CFIUS審査の現状

近年、CFIUSは、米国の国家安全保障上の脅威につながる産業分野への外国投資を、FIRRMAで規定した対象基準に基づき厳しく審査している。

特に昨今は、新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立の影響を受けて、(1)半導体(2)量子コンピューター(3)人工知能(AI)(4)ロボット工学(5)検査技術(6)品質管理技術(7)医薬品および医療機器(8)バイオテクノロジー等――の分野に着目している。

これら米国にとって重要な技術の中国企業等への不適切な技術移転や情報漏洩リスクを防ぐために、CFIUSは省庁横断で外国投資の審査を行っており、例えば、国防総省、国務省、商務省、運輸省、司法省がCFIUSの常任委員となっている。

そのため、外国投資家は、投資先が中国の軍民融合政策や中国製造2025に関連していないか等を事前に精査する必要がある。最近は、外国企業の資本金や合弁事業の出資金に、最低限の数パーセントでも中国資金が含まれる場合は、CFIUSは厳しく審査するため、注意が必要である。一方、このような状況下でも、中国企業による対米投資は継続しており、CFIUSの審査に時間はかかるが、最終的に取引が承認されている事例もある。

バイデン新政権下で、CFIUSの動きがどのように変化するかを見通すことは難しい。金融政策の専門家であり、CFIUSにはおそらく精通していないイエレン元FRB議長の財務長官就任が、CFIUSに与える影響を注視していく必要がある。

■ 企業のサプライチェーン

コロナ禍で、世界的にさまざまな分野のサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになった。米国でも「国家安全保障」の範囲が拡大され、これまでは重点的にチェックされてこなかったヘルスケア関連製品のサプライチェーンや、川下だけではなく川上のサプライヤーまでも、米国の国家安全保障の観点からCFIUSは厳しく審査するよう求められることとなった。

■ 企業の情報管理体制

投資先となる米国企業・事業が保有している個人情報等のビッグデータや情報管理体制についても、CFIUSは厳格な審査を実施している。企業が保有する情報が、加工された匿名の個人情報であっても、CFIUSはその情報へのアクセス方法やアクセス権限を入念に確認するだろう。

■ 諸外国の外国投資規制の動向

日本やEU諸国でも米国のCFIUSのように、外国投資を事前に審査する強固な制度を構築し、対内投資の規制強化を図っている。

米国政府は今後、日本やファイブアイズ(米国のほかに英豪加NZ)等の同盟国へ働きかけを行い、米国単独ではなく多国間で、中国等の特定国からの投資規制を強化することを検討するだろう。

次号に続く)

【国際経済本部】