Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年2月11日 No.3487  日本型ワーケーションのあり方等について聴く -観光委員会

経団連は1月22日、観光委員会(菰田正信委員長、新浪剛史委員長、武内紀子委員長)をオンラインで開催し、山梨大学の田中敦教授から日本型ワーケーションのあり方について、また、観光庁の小林太郎観光戦略課長から今後の観光政策の方針について、それぞれ聴くとともに懇談した。講演の概要は次のとおり。

■ 山梨大学・田中氏

「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語であるワーケーションが注目を集めている。個人が主体的に仕事と休暇の要素を組み合わせて、日常的な業務を非日常的な環境で行う柔軟な働き方であり、実現には旅行やボランティア先など、さまざまな場所で働くことができる仕組みが不可欠となる。

これまで、働く時間の自由度を高めるために「フレックスタイム制度」を取り入れる企業が多くみられたが、働く場所の自由度を高めるための「フレックスプレイス制度」はあまり議論されてこなかった。ワーケーションの推進には、会社が制度として認めていくことが重要である。コロナ禍によるリモートワークの普及により、実現できる環境が一気に整った。労務管理や費用負担の面などグレーゾーンはまだ残っているが、テレワーク規程等を一部変更する程度で実現している企業もあり、導入のハードルはさほど高くない。また、働く場所の自由を保障するための法制化が欧州で進んでおり、グローバルな潮流でもある。

個々の従業員でみれば、年に数回行う程度のものであるが、企業が推進することによる波及効果は大きい。従業員は、旅行先での業務が認められることで、長期休暇が取りやすくなる。若い世代を中心に、休暇取得により前向きな姿勢になれると考える人は多く、企業にとっては、採用市場における優位性につながる可能性があるほか、働き方改革や健康経営の視点からの取り組みにも効果がある。関係人口創出を通じた地域活性化、観光産業における平日やオフシーズン等の需要の平準化にも寄与する。また、ワーケーターが集まる地域は、インバウンド需要回復後、世界中からノマドワーカーが集まるバリ島のウブドのような、新たな旅のスタイルの時代における聖地となる可能性もある。

コロナ禍を機に、従業員の働く場所に対する価値観が多様化している。ワーケーションとは、テレワークを行う場所を地域なども含めて自ら選べる自由度を高め、多様な働き方、休み方を認めることで、自分で新たな価値を創造する制度であり、結果として地域での活動を増やすことにもつながる。「ダイバーシティ」「インクルージョン」「働き方改革」等は、人材戦略上の選択肢の一つとなることから、単なる休暇取得の促進を超えた新たな経営マターととらえ、変革のチャンスとしてほしい。

■ 観光庁・小林氏

昨年12月に菅義偉首相の指示のもと、観光戦略実行推進会議において「感染拡大防止と観光需要回復のための政策プラン」を取りまとめた。大変厳しい状況が続くなかで、観光業界の雇用維持と事業の継続の支援が極めて重要であり、感染防止策の徹底を大前提に、当面は国内旅行の需要を強力に喚起していく。Go To トラベル事業は現在停止しているが、感染状況を踏まえ、適切に推進していく。また、ワーケーション等の普及に取り組み、旅行機会の創出や旅行需要の平準化を図る。さらに、将来を見据え、宿泊施設や観光街等の再生や体験コンテンツ等の造成、観光地の受け入れ環境整備等に、必要な予算を確保し、取り組んでいく。

2030年に訪日外国人旅行者数を6000万人とする目標は堅持している。足元は困難な状況だが、アフターコロナのなかで外国人旅行者をどう呼び込んでいくか、着実に検討を進めていく。

【産業政策本部】