Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年2月25日 No.3489  21世紀政策研究所がシンポジウム「国際経済秩序の将来とEUの再定義」を開催

須網研究主幹

21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は2月9日、欧州研究プロジェクト(研究主幹=須網隆夫 早稲田大学教授)の一環としてシンポジウム「国際経済秩序の将来とEUの再定義」を開催した。同研究プロジェクトは、2016年以降、Brexitの動向、移民政策やポピュリズム、対中関係を研究してきた。現在は、コロナ危機対応を切り口にEUの求心力を分析しており、同シンポジウムではEUのコロナ危機対応の評価、EUと米国・中国との関係を議論した。概要は次のとおり。

■ EUのコロナ危機対応(須網研究主幹)

EUは、加盟国と協力して広範な新型コロナ対策を市民の目に見えるかたちで実施しており、EUへの信頼につなげている。具体的には、市民保護メカニズムの発動(自国領事館がないEU市民の本国帰還支援)、移動制限・封じ込め措置(国境管理措置のガイドライン)等である。また、EU予算からの対策費用捻出、医療物資の共同調達、研究開発支援、各種規制緩和(財政規律、補助金)、加盟国への財政援助、復興基金設立等も実施した。一方、域外に対しては、中東・アフリカへの財政援助、人員・医療物資の緊急輸送等を実施した。

■ 対米関係(渡邊啓貴 東京外国語大学名誉教授)

トランプ政権時には、NATO脱退の示唆等により米欧間の信頼関係は大きく毀損した。欧州は「戦略的自立」(米中ロに追従せず主体的に外交安全保障政策を決定し、制度・政治・物質的要求を満たすこと)を目指している。欧州常設軍事機構(PESCO)はその具体的な措置であり防衛上のインフラとなっている。

欧州諸国は、バイデン政権誕生を歓迎しているが、4年後には強硬政策に戻るのではないかとの懸念を抱いており、対米不信は払拭されていない。20年12月に欧州委員会は「グローバルチェンジに向けたEU米国新アジェンダ」を大統領就任前のバイデン氏に提案するなど、先手を打つかたちで自立志向を表明した。

■ 対中関係(田中素香 東北大学名誉教授)

EUは、中国から域内への直接投資の増加や「一帯一路」「中国製造2025」を受けて国境炭素税、補助金規制、直接投資の審査制度の導入等「攻撃的防衛」を試みており、EU全体として中国に対応する姿勢を示し始めた。

他方、国際情勢の変化を念頭に軍事面での統合強化も重視されはじめたが容易ではない。独仏英による東アジアへの空母派遣が予想されるなか、EUは欧州の三大国が東アジアに関与することで、長期的に域内の世論を変えていく戦略をとるものと考えられる。

<パネルディスカッション>

パネルディスカッションでは、渡邊頼純 慶應義塾大学名誉教授、佐藤俊輔 國學院大学専任講師が加わり検討を深めた。議論の概要は次のとおり。

EU域内では、Brexitの混乱でEU離脱の困難さが明らかになり、米中対立の激化もあって統合モーメントが強まっている。また、グリーンリカバリーも市民レベルに定着しており、EUの気候変動政策はさらに積極化するだろう。統合の方向性については、英国不在のなか、独仏間のパワーバランスを注視する必要がある。なお、EU・英国間の通商関係については、原産地規則の適合を条件に関税免除の措置がなされており、混乱が回避されている。

米欧関係については、EUは米国に自由貿易促進を求めているが、バイデン政権も22年の中間選挙まではかじを切れないだろう。中欧関係では、包括的投資協定(CAI)の暫定合意により中国内でのEU企業の待遇改善が期待される。

日本はロシア、インド太平洋といった地域にも目を向けて陸と海の地政学的視野を持つ必要がある。また、Brexitは欧州民主主義の崩壊を想起させたが、欧州は民主主義の代償として自らこうした危機に臨んでいるのであり、欧州統合の醍醐味と考えるべきである。

【21世紀政策研究所】