Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年9月2日 No.3512  コロナ禍で変化した観光動向と今後の取り組むべき課題 -観光委員会企画部会

経団連は7月28日、観光委員会企画部会(今泉典彦部会長)をオンラインで開催し、日本コンベンション協会の藤泰隆事務局長からMICE振興に向けた課題と取り組みについて、また、京都市観光協会の堀江卓矢DMO企画・マーケティング専門官から、観光地域づくり法人である地域DMOの経営課題と対応について、それぞれ講演を聴くとともに懇談した。講演の概要は次のとおり。

■ 日本コンベンション協会

MICEは、Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Eventの頭字語である。その開催・実施を通じて、新たなビジネスやイノベーションの機会を創出するだけでなく、地域での消費拡大など、経済面での波及効果も生み出している。また、開催に際しての関係者の連携がレガシーとなり、国や都市の競争力向上に資する可能性も秘めている。

2020年はコロナ禍で世界の国際会議の開催件数が前年比75%減となり、形態も、オンラインやハイブリッド形式が中心となるなど、MICEを取り巻く環境は大きく変化した。MICEの回復に向けて、(1)対面開催の復活(2)国際競争力の強化(3)地域への経済効果の拡大――に注力していきたい。

対面開催の復活に向けて、一つの大会場に集まるだけでなく、開催地の会場とハブとなる複数の地域の会場をオンラインでつなぐなど、開催形態を見直している。また、感染症対策を講じた会合の実績を積み上げ、安心安全な開催が可能であることを発信したい。さらに、ワクチンパスポートの活用などにより、ビジネストラックの再開を政府に働きかけていきたい。

国際競争力強化では、国際的な第三者機関が実施する感染予防対策に関する認証の取得促進のほか、開催時のCO2排出削減など、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを進める。

地域への経済効果の拡大には、MICEの前後での滞在延長が重要であり、地域の魅力のPRのほか、ワーケーションやブレジャーとの連動にも取り組んでいきたい。

■ 京都市観光協会

日本版DMOの課題を考える際には、地域の観光振興を担ってきた従来の観光協会と欧米のDMOとの違いを理解することが大切である。わが国の観光協会は、国内向けのプロモーションや会員支援など、限られた範囲での業務を担い、予算は行政の管理のもと、補助金として支給されてきた。一方、欧米では、地方政府はインフラ整備や税金の徴収事務のみを行い、権限を委譲されたDMOがプロモーションはもちろん、市場・顧客分析や商品開発等をすべて担う例もある。

日本国内において17年以降登録が始まった日本版DMOも、欧米のDMOと同様の役割を志向するべきと認識している。行政区を越えて旅行する観光客のニーズに対応していくことに加えて、裾野が広い観光産業においてさまざまな業界を巻き込んで横断的な取り組みを進めるには、行政の縦割り組織はなじまない。また、地方財政は厳しさを増しており、目まぐるしく変化する観光業界に対して適切な施策を行うためには、民間企業に近い経営方式を採用する業界団体が必要である。さらに、観光客の争奪戦はグローバル化しており、ダイバーシティ対応等、観光に特有のテーマ・ニーズに対応できる専門的見地からの取り組みが必要である。このため、分野外からの異動が多い行政組織による観光振興では、国際競争力を高めにくい。

京都市では特に、企業、団体、市民を交えた合意形成がなければできない事業を通じて、DMOが観光業界の生産性向上につながる事業に取り組むことを重視している。具体的には、マーケティング・統計事業、個人情報の管理など観光客データベースの開発、オーバーツーリズムなど市場の失敗を是正するためのガイドライン整備などに取り組んでいる。

なかでも、マーケティング強化の観点から、これまで事業者単位で行われてきた京都観光のファンの囲い込みを、エリア単位で行えるようにしていくことに注力している。こうした情報基盤を構築することで会員企業の経営を支援し、観光業界を盛り上げる組織として世の中から認知されることで、宿泊税を財源とした事業の実施主体としての地位を確立していきたい。

また、観光地における混雑、マナー違反などコロナ禍前からの課題を解消し、持続的な観光を実現するためには、観光客数や消費単価といった従来の指標だけでなく、観光客と地元とのつながりを評価するような指標を設定していくことが必要である。

【産業政策本部】