Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年6月2日 No.3546  足元のマクロ経済と今後のあるべき経済財政運営 -経済財政委員会

中空氏

経団連は5月13日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、永井浩二委員長)をオンラインで開催した。BNPパリバ証券の中空麻奈グローバルマーケット統括本部副会長から、マクロ経済や金融市場の動向、今後の経済財政運営について説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 2022年下期に向けたリスク

ロシアによるウクライナ侵攻、債務膨張、金利上昇・金融引き締めの三つを主なリスクとしてとらえている。ロシア発の金融危機が懸念されていたが、市場は、仮にデフォルトが生じたとしても、大きな危機には至らないとみている。ロシアによるウクライナ侵攻は金融よりも実需面の影響が大きく、ロシアの輸出シェアの大きいエネルギーや食料等の資源価格が足元で高騰している。

特に新興国では、米国の金利上昇や中国の景気低迷に加え、資源価格の高騰に伴うインフレ圧力が景気を下押ししている。中国との貿易関係が深い国、資金繰りに問題のある国は要注意である。加えて、供給ショックによる企業業績への影響も注視しておきたい。

債務膨張のリスクは、来年以降さらに重みを増すことになろう。その際、各国のどの部門の債務がたまっているかをみなければならない。世界的に政府債務が積み上がり、EUでは財政規律が緩むリスクがある。韓国、香港、タイなどでは家計債務が拡大している。今後の金利上昇局面において、不良債権化とその影響の広がりが懸念される。

他方、今のところ、クレジットスプレッド(デフォルトリスクに応じて上乗せされる金利)は拡大していない。グローバルレベルのデフォルトリスクがなく、今後もスプレッドのワイド化は限定的と考えられるため、クレジット投資は買い持ちが望ましいだろう。

■ ESG市場のアップデート

サステナブルボンドの発行額は年々増えてきたが、今年は昨年を超えることは難しいだろう。ロシア・ウクライナ情勢や金利上昇に加え、エネルギー価格の高騰を受けて、ポートフォリオを従来型の産業に戻そうか悩んでいる投資家も多い。

しかし、国際的なESG(環境・社会・ガバナンス)市場の整備は引き続き進められている。足元で一時的に停滞しているが、大きく後戻りということはないだろう。

■ あるべき経済財政運営

日本は、デフレから抜け出せない状況が続いている。むしろ、足元のインフレ圧力に対し、経済対策でガソリン等の価格上昇を抑え込んでいる。各国が利上げに踏み切るなか、日銀は金融緩和を続けざるを得ず、円安が進んでいる。

さらに、財政健全化も大きな課題である。もともと政府債務残高対GDP比が世界的にも極めて高かったところ、新型コロナウイルス対策でさらに上昇している。大災害などの際、海外勢がこれまでどおり日本国債を買い支えてくれるとは限らない。

日本の成長戦略の柱は、サステナブルファイナンスと環境技術にあると考える。グリーントランスフォーメーション(GX)に向け、国が資金を提供しつつ、レバレッジをかけて国内外から投資を呼び込むことができれば、貿易黒字に復することも夢ではない。その一環として、排出権取引を導入し、新たな市場をつくり上げていくことも有効である。

【経済政策本部】