Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年12月8日 No.3570  人的資本の可視化 -金融・資本市場委員会ESG情報開示国際戦略タスクフォース

籠氏

経団連は11月10日、金融・資本市場委員会ESG情報開示国際戦略タスクフォースを開催した。内閣官房新しい資本主義実現本部事務局の籠康太郎参事官から、8月に公表された「人的資本可視化指針」(指針)について、説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

指針は、(1)指針策定の背景、指針の役割(2)人的資本の可視化の方法(3)可視化に向けたステップ――の三つの柱により構成される。

(1)指針策定の背景、指針の役割

人的資本が企業経営に極めて重要である点に疑いの余地はなく、人的資本可視化への関係者の期待は高まる一方である。

人的資本を可視化するための前提として、経営者が、明確な経営戦略、人材戦略を策定していることが挙げられる。また、人的資本の可視化に向けては、策定した経営戦略に合致する人材像の特定、当該人材の獲得・育成のための方策、関連する指標・目標の設定等が必要となる。

指針は、特に人的資本に関する情報開示のあり方に焦点を当てている。既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について、包括的に整理した手引きとして編さんしている。企業が自社の業種やビジネスモデル・戦略に応じて積極的に活用することを推奨する。

(2)人的資本の可視化の方法

人的資本の可視化において企業・経営者に期待されることは、「人材育成方針や人的資本に関する社内環境整備方針等について、企業が直面する重要なリスクと機会、長期的な業績や競争力と関連付けながら、目標やモニタリングすべき指標を検討し、明瞭かつロジカルに説明すること」である。

その際、人的資本への投資と経営戦略の関係性(統合的なストーリー)を既存のフレームワーク等も活用しつつ構築し、すでに実務でも一定程度浸透しているTCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures)フレームワークの4要素(「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」)に沿って開示することが効果的かつ効率的であると考える。

なお、具体的な開示項目を検討する際は、企業間の「比較可能性」と、個々の状況に応じた「独自性」の両者のバランスを取ることが重要である。

(3)可視化に向けたステップ

最初から人的資本の可視化について高い完成度を求めるのではなく、対応可能な領域から段階的に進めるのが現実的と考える。

効果的なのは、「基盤や体制づくり(トップのコミットメントや経営層レベルの議論、部門間の連携、情報基盤の構築、取引先との連携など)」「可視化戦略の構築(統合的なストーリーの構築、人材版伊藤レポートの活用、TCFDの4要素の検討など)」の二つの観点を一体的に検討することである。さらに、「投資家との対話を踏まえ磨き上げていく」という循環的なプロセスを経ることが重要である。

この点について、指針では、「基盤・体制確立編」「可視化戦略構築編」に大別したうえで、詳細に説明している。あわせて参照してほしい。なお、指針の「開示事項の階層(イメージ)」で記載される19項目(人材育成、ダイバーシティ、健康・安全、労働慣行等に関連するもの)は、あくまで開示事項の例示である。

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意見交換では、会員企業から、「企業による人的資本投資のみならず、従業員との対話、各従業員自身の意欲向上への取り組みが重要である」「個々の企業、それぞれの事情(業種や事業規模など)に応じた柔軟性を認めることが重要である」などの意見やコメントがあった。

【経済基盤本部】