Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年12月8日 No.3570  米中間選挙結果分析と新議会への展望 -ワシントンレポート

2022年米国中間選挙は、多くの専門家が予想していた共和党の圧勝には程遠く、民主党が健闘する結果となった。共和党は、上院で過半数に必要な1議席増にも届かず、下院で多数派を奪還するも数議席差の過半数にとどまった。その原因について検証してみたい。

■ 勝敗を分けた無党派層の動き

歴史的に大統領1期目の中間選挙において政権与党が苦戦してきた背景があるなか、選挙前の主な政治指標のほとんどは共和党優位を示していた。バイデン大統領の支持率は低迷し、有権者の3分の2が米国の方向性に不満を示していただけでなく、有権者が重視していたインフレ対策などの経済政策については共和党の方が信頼されていた。

このような状況にもかかわらず、共和党は予想に反して伸び悩む結果となった。その大きな要因は、共和党が無党派層の支持を得られなかった点にある。出口調査によると、投票者の31%を構成した無党派層の投票先は、民主党が49%と、共和党の47%を上回った。過去の中間選挙において、通常、無党派層は政権与党を否定してきた。この動きと比較すると、驚くべき結果といえる。トランプ政権(共和党)下の18年も、オバマ政権(民主党)下の10年も、無党派層の大多数がそれぞれ政権党に反対票を投じ、野党が躍進した。

この無党派層の共和党忌避は、上院選挙の接戦州において特に顕著に表れている。アリゾナ州、ペンシルベニア州、ニューハンプシャー州など、トランプ前大統領が推薦した共和党上院候補らは、無党派層において現職民主党候補に大差をつけられ、敗れた。

今回の中間選挙も最終的に政権与党に対する信任投票になるとの選挙前の大方の予想に反して、民主党は共和党との比較選択投票に持ち込むことに成功したといえる。大統領と連邦議会の上下院を握る民主党が政権与党であることは間違いないが、人工妊娠中絶を憲法上認めた「ロー対ウェード判決」を覆した最高裁で、保守系判事が過半数を占めている点で、共和党が「与党」的に映り、与野党の差別化が不明瞭になった可能性がある。

■ 予想以上に傷んでいた共和党のブランド

民主党政権下の現状に強い不満を抱いていても、有権者にとって、共和党は現状を改善するどころか撹乱要因として、より大きなリスクと映ったといえよう。この事実は、共和党として重く受け止める必要がある。それほどまでに共和党ブランドは毀損していた。

すべての共和党候補がこのブランド問題に足を引っ張られたわけではない。デサンティス・フロリダ州知事、ケンプ・ジョージア州知事、デワイン・オハイオ州知事は、対立候補に大差をつけて再選を果たした。これらの共和党知事は、知事としての独自の実績があり、評価されていた。

しかし、ジョージア州やオハイオ州の共和党上院議員候補は、自州の知事の得票数を大きく下回った。選挙期間中に挙げられていた「候補者の質」問題がここに表れたといえる。接戦州における共和党の上院議員候補の多くは、公職経験の全くない「アウトサイダー候補」であり、共和党ブランドの弱さを克服するだけの材料に乏しかった。

この撹乱要因としての共和党ブランドはどこから生じたのか。選挙戦終盤にバイデン大統領以下、民主党がトランプ支持者を民主主義への脅威と糾弾したことが一定程度奏功したといえる。共和党支持者は、21年1月6日の議事堂乱入事件の暴徒と同一視されることに強く反発した。しかし、無党派層にとって、トランプ氏の推薦を受けた共和党候補らをトランプ氏の20年大統領選挙結果の否定と結び付ける効果はあった可能性がある。つまり、彼らは、トランプ氏本人と同様に撹乱要因とみなされ、現実的な選択肢と映らなかったと考えられる。

共和党は、中間選挙が民主党に対する信任投票になれば、与党の政策への不満から民主党は否認され、消去法で自然に共和党が選ばれると考えていた。しかし、無党派層による共和党の評価は民主党よりもさらに低く、結果として消去の対象になったのはむしろ共和党の方だったといえよう。

■ 求められる有権者の信頼回復

20年の大統領選挙は、トランプ大統領が敗北しながらも、共和党が下院で議席を伸ばし、上院で50-50の互角という、メッセージとしてわかりにくいものであった。有権者はトランプ大統領の2期目を拒否したが、民主党に完全に任せるものでもなかった。同様に22年中間選挙も不明瞭なメッセージを発したといえる。バイデン政権の方針にストップをかけるために下院過半数を僅差で共和党に与えたが、上院は引き続き民主党に委ねた。いずれの政党にも任せきれず、決めかねているようだ。

僅差とはいえ、共和党が下院を奪還したことにより、バイデン政権の議会アジェンダが困難に直面することは想像に難くない。大きな立法成果が望めない状況のなか、これからの2年間に両党の姿勢が有権者の目にどう映るかが重要になる。バイデン政権は議会を諦めて、規制などの行政措置によりアジェンダを一方的に追求するのか。下院共和党は建設的な立法を諦めて、政権攻撃のための監督・調査活動に明け暮れるのか。これでは、今回有権者が両党を見比べて下した「該当なし」の裁断を再び無視することになりかねない。

米国民は、予測不能な政治にも、イデオロギー先行の政策にも疲弊している。相手を攻撃するだけではなく、国民が直面する問題に真剣に取り組むことが最低限期待されている。そのような正常化への道をどちらの政党が先に示せるかが、24年大統領選挙のカギとなろう。

【米国事務所】