Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年2月2日 No.3577  医療DXの推進状況と各国比較 -イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会

経団連は1月11日、イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会をオンラインで開催した。「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームアドバイザーの葛西重雄トリエス代表取締役から、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進状況と各国比較について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 医療DXの推進状況

政府は、医療分野におけるDXを通じたサービスの効率化や質の向上を目指して、内閣総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部」を設置している。具体的な施策の検討を進めている厚労省の推進チームでは、全国で共有する医療情報のあり方などについて議論している。例えば、発症予防、電子処方箋を含む処方箋、診断書、診療報酬請求、地域医療との連携、研究開発への利活用などに関係する情報を、一つのプラットフォームに集約することを検討している。プラットフォーム上で共有するメリットのある医療情報や診療報酬の計算情報も標準化していく予定である。標準化する医療情報は、保険者や医療機関、自治体、介護事業者も関係するため非常に多岐にわたっており、各主体のシステムの相関図を作成しつつ着実に進めている。

医療情報の標準化の他に、電子処方箋の普及を推進している。現在、電子処方箋が利用可能な病院では、患者が顔認証とマイナンバーカードを持参すれば、診療が終わると処方箋データが届くため、紙の処方箋を薬局に持参する手間がかからなくなっている。また、重複投薬のチェックなども可能である。医療情報の共有は、今のところ医療機関内の共有にとどまっていることが多いが、将来的には医療機関間や医師・患者間の共有も可能にしていく。このためにも、厚労省は薬局の調剤・電子カルテのシステム改修やオンライン資格確認ネットワークへの接続などを推進している。このような取り組みが拡大すると、「文書情報(3文書)および電子カルテ情報(6情報)」(医療3文書6情報)(注1)の共有が視野に入ってくる。医療3文書6情報の共有がAPI(Application Programming Interface)(注2)によって可能になると、救急患者のより効果的な処置や転院に伴う患者データの引き継ぎ、医療ミスの回避が可能になる。

■ 各国の医療DXに関する取り組み

EUは、EHDS(European Health Data Space、欧州ヘルスデータ空間)規則案を提案し、診断時の患者情報や電子処方箋が各国間でやりとりできるよう、「MyHealth@EU」という医療情報の研究開発等への活用に向けた越境デジタルインフラの整備を進めている。

フランスは、DMP(医療方法資格管理)を推進しており、国民自身が医療情報を把握しやすいように「マイ健康情報スペース」というサービスも開始したところである。これにより、全国の医師・患者間で電子カルテ等の健康医療情報を共有できるようにしている。同様にイギリスも、「GPオンライン」という一般診療用の電子カルテ共有サービスを全国で提供しており、イスラエルでも、「EITAN」という医療情報交換基盤を活用して、患者の生体データを医療機関の間で共有している。

日本は、ようやくデータの提供が進み始めた段階にある。個人のデータがどのように政策に利用され、どのように生活が向上しているのかを国民に伝えながら、各国の取り組みも参考に医療情報の活用を進めていくことが重要である。

(注1)3文書=診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、
6情報=処方、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査(救急、生活習慣病)。
緊急性のある処置やアレルギーなど70項目以上の情報がこれに該当する

(注2)ウェブサービスやソフトウエア、プログラムの間をつなぐインターフェース

【産業技術本部】