Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年2月9日 No.3578  春季労使交渉・協議の焦点〈2〉 -経営側の基本スタンス

春季労使交渉・協議が本格化するなか、5回にわたり交渉・協議の焦点等を解説する。2回目は、経営側の基本スタンスを取り上げる。

Q 2023年の春季労使交渉・協議の前提となる経営環境をどのように認識していますか。

A 世界経済は持ち直しているものの、エネルギーや原材料価格の高騰による世界的な物価上昇と、その抑制のための金融引き締めを背景に、減速が見込まれています。
一方、日本経済は持ち直し基調の継続が予測されています。しかし、世界経済の減速による下振れや物価上昇の影響などリスク要因への注視が必要な状況にあります。

Q 今次労使交渉・協議の経営側の基本スタンスを教えてください。

A 働き手との価値協創による成長とその分配としての「人への投資」を通じて、賃金引き上げの機運をさらに醸成し、「構造的な賃金引き上げ」と「分厚い中間層の形成」につなげることが必要です。こうした「社会性の視座」に立ち、経団連は、23年の労使交渉・協議を、デフレ脱却と「人への投資」を一層重視した企業行動に転換する絶好の機会と位置付けています。
物価上昇という近年と大きく異なる状況で行われる23年の労使交渉・協議においても、(1)社内外のさまざまな考慮要素による総合的な勘案(2)適切な総額人件費の管理(3)自社の支払能力――を踏まえ、労使交渉・協議を経て自社に適した対応を行う「賃金決定の大原則」に則って検討する方針は変わりません。そのうえで、さまざまな考慮要素のうち「物価動向」を特に重視し、企業の社会的な責務として、賃金引き上げのモメンタムの維持・強化への積極的な検討を呼びかけています。

Q 「物価動向」を特に重視した検討とは、具体的にどう考えたらよいでしょうか。

A 月例賃金(基本給)の引き上げでは、制度昇給に加え、ベースアップの目的や役割を再確認し、前向きな検討をお願いしています。配分方法としては、全社員一律のほか、若年社員や有期雇用等社員など物価上昇の影響を強く受けている可能性の高い層への重点配分も有益といえます。
諸手当では、生活関連手当の増額やインフレ対応手当などの新設が、賞与・一時金では、支給時における特別加算や異なるタイミングでの一時金の支給が考えられます。
最も大事なことは、多様な選択肢のなかから自社に適した対応を検討・実施することにあります。

Q 労使交渉・協議にあたり、特に意識することはありますか。

A エンゲージメント向上の観点からは、賃金引き上げだけでなく、「総合的な処遇改善・人材育成」も重要です。「働きがい」と「働きやすさ」に資する諸施策の導入・拡充が考えられます。
こうした取り組みを進めていくには、働き手や労働組合の協力が欠かせません。企業はさまざまなレベルや階層、チャネルを通じて、積極的に労使コミュニケーションを図っていく必要があります。労使は「闘争」関係ではなく、価値協創に取り組む経営のパートナーとの認識に立ち、各企業において、未来を「協創」する建設的な労使交渉・協議が行われることを願っています。

【労働政策本部】


春季労使交渉・協議の焦点(全5回)
〈1〉連合の春季生活闘争方針
〈2〉経営側の基本スタンス
〈3〉円滑な労働移動
〈4〉エンゲージメントと働き方改革
〈5〉労働時間制度