Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年2月16日 No.3579  大国間競争復活の時代の経済と安全保障 -ワシントンレポート

佐橋研究主幹(左から2人目)

米中対立の先鋭化等により国際秩序が動揺するなか、経済安全保障への関心が飛躍的に高まっている。そこで、経団連米国事務所は1月18日、21世紀政策研究所(十倉雅和会長)研究主幹の佐橋亮東京大学東洋文化研究所准教授を招き、経済と安全保障をめぐる情勢認識、日米の政治・政策動向、2023年以降の展望等について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 加速する情勢変化

新型コロナウイルスの世界的流行とロシア・ウクライナ戦争は、オバマ政権末期から顕在化しつつあった米中の不和を加速させた。これにより、冷戦後に謳歌されてきたグローバル経済は急速に危機に陥っている。国際経済秩序の前提となっていた、(1)米国へのパワーの一極集中(2)欧州統合の深化(3)中国・ロシアの参画――はいずれも失われてしまった。グローバル経済は再び政治の影のなかに入ることになる。

■ 懸念が募る米国政治

米国は同盟重視を表向き標榜するが、実際の施策は国内政治への配慮から保護主義色が強くなっている。自由貿易路線への回帰は見通せない。

対中政策をめぐり、ホワイトハウスは競争に対話を織り交ぜて戦略的共存を図るタカ派のアプローチをとっている。米国議会にはさらに強硬な、いわば超タカ派も多い。米国が経済を犠牲にしてでも安全保障を追求する方向へと突き進まないよう、日本の経済界は、着地点を模索しているタカ派との対話を深めるべきである。

■ 日本の針路と課題

動揺する国際経済秩序に関し、日本がとるべきスタンスは、端的にいえば「ルールに基づく秩序」の重要性を訴えることである。しかし、一歩踏み込んで考えると、このスタンスには論点が潜む。企業人であれば、望ましいのは開かれた秩序であり、中国はもちろん、戦争を終えたロシアもいずれ受け入れられるべきと考えるだろう。一方で、同じ標語を使っていたとしても、安全保障の専門家は企業人と同様には考えない。

今の日本は対中政策の方針を明快に打ち出せていないようにみえる。人やモノの流れを組み替え、中国依存から漸次に脱却していくことを政策の軸に据えるべきである。米国はすでに動いている。他の西側諸国が足並みをそろえ、早期に取り組みを始めることが重要である。そうすれば、経済への影響が大きい強硬策を回避できるだろう。

世界が混迷を深めるなか、日本は22年12月に国家安全保障戦略を公表し、経済安全保障が国家安全保障の一つの柱であると明示した。次の課題は、自由な経済秩序の維持と安全保障の確保をいかに両立させていくか考えることである。

新興国など「グローバル・サウス」との連携を探ることも不可欠だ。具体的なプロジェクトに立脚して信頼関係を築き、そこから共通の価値の重要性等についても対話を深め、味方に引き入れていくことが望まれる。

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佐橋研究主幹との意見交換後、日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部米州課の赤平大寿課長代理から、ジェトロが毎年実施している「海外進出日系企業実態調査」のうち北米編の最新結果について説明を聴くとともに意見交換した。同調査結果はジェトロウェブサイトを参照。

【米国事務所】