Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年3月2日 No.3581  春季労使交渉・協議の焦点〈5〉 -労働時間制度

春季労使交渉・協議が本格化するなか、5回にわたり、同交渉・協議の焦点等を解説する。最終回は、労働時間制度を取り上げる。

Q 労働時間制度の活用におけるわが国企業の課題は何ですか。

A 産業構造等の変化に伴う働き方の多様化に十分対応できていないことです。デジタルやグリーン、バイオ・ライフ、モビリティーなど、産業横断的な新領域においてグローバル競争が激化するなか、労働時間と成果が必ずしも比例しない仕事に従事する働き手が増えています。働き手には専門性・創造性を発揮し、イノベーションの創出が期待されます。
しかしながら、イノベーションは長時間働いたから生まれるものではありません。そのため、現行の画一的な労働時間制度、つまり労働時間と成果の大部分とが比例する工場労働のような働き手を前提とした制度はなじみません。

Q 課題解決には何が必要ですか。

A 特に、裁量労働制の活用促進が挙げられます。裁量労働制は、使用者から業務遂行方法や時間配分などに関する具体的な指示を受けず、自律的・主体的に働くことを前提に、あらかじめ労使で定めた時間を労働したものとみなす制度です。まさに労働時間と成果が必ずしも比例しない仕事に従事する働き手に適した制度です。
しかしながら、対象業務の範囲が狭いことなどから、制度適用者の割合は極めて低いのが現状です。経団連は対象業務の拡大など、制度の見直しを政府に訴えてきました。

Q 2024年4月から裁量労働制が見直されると聴いています。どのような内容でしょうか。

A まず、経団連が対象業務への追加を主張していた、(1)事業運営の企画、立案、調査、分析をしたうえで、その成果を活用し、実施状況の把握や評価のための業務までを一体的に行う「裁量的にPDCAを回す業務」(2)特定の顧客向け商品・サービスを企画、立案、調査、分析したうえで、それに基づき開発・提案までを行う「課題解決型開発提案業務」――は、個別企業の業務ごとにみていくと、現行規定においても対象業務となり得るものがあることが明確になりました。さらに、「銀行・証券会社における合併・買収等に関する考案及び助言の業務」が専門業務型に新たに追加されます。また、制度適用時の本人同意の取得や、同意の撤回を認めることの要件化、健康・福祉確保措置の複数適用など、制度の趣旨に沿った適切な適用・運用に向けた規制強化がなされます。

Q 裁量労働制の導入にあたっての留意点を教えてください。

A 今回の制度見直しも踏まえつつ、制度の趣旨に沿った適切な適用・運用が求められます。そのためには、働き過ぎを防止するため労働時間が一定時間を超過した場合に制度の適用を自動的に解除する、制度適用者に対して一律の手当を支給することで相応の処遇を確保するなど、自社の実態に応じてさまざまな工夫を図ることが重要です。留意点を踏まえつつ、自社の労働時間制度についても労使でしっかり議論することが求められています。

【労働法制本部】


春季労使交渉・協議の焦点(全5回)
〈1〉連合の春季生活闘争方針
〈2〉経営側の基本スタンス
〈3〉円滑な労働移動
〈4〉エンゲージメントと働き方改革
〈5〉労働時間制度