Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年3月9日 No.3582  通商政策をめぐる現状と課題 -通商政策委員会

松尾氏

経団連の通商政策委員会(中村邦晴委員長、早川茂委員長)は2月17日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。経済産業省の松尾剛彦通商政策局長から、通商政策をめぐる現状と課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 経済安全保障

ロシアによるウクライナ侵略や、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーンの寸断等を受け、世界において、経済安全保障の重要性が再認識されている。例えば、欧州は、「開かれた戦略的自律」を掲げ、サプライチェーン強靱化や、技術・インフラの保護等にかかる政策を進めている。

このようななか、米国では、議会下院において「中国特別委員会」の設置を決定し、重要なサプライチェーン構築に向けた政策の推進を議論する予定であるほか、中国向け半導体等の輸出管理も強化している。一方、中国は、サプライチェーンの主要部分を国内に取り込む国産化を推進することで、他国の中国への依存を強化する政策を実施している。中国との完全なデカップリングは不可能であり、目指すべきでもない。日本としては、半導体などの重要新興技術への投資を通じた特定国への過度な依存リスクの軽減、同志国との連携強化、デュアルユース技術の開発により、抑止力を強化することが重要である。

サプライチェーンにおける人権尊重の促進に向けて、米国では、強制労働由来の製品に対する輸入規制がすでに実施されている。欧州は、人権デュー・ディリジェンスの実施や開示を法律で義務付けている。日本としては、人権デュー・ディリジェンスにかかるガイドラインを策定したほか、2023年1月には、米国との間でタスクフォースを立ち上げ、情報交換、企業の予見可能性の向上に向けた議論を行うこととしている。

■ 米国、欧州との関係

米国の「インフレ抑制法」(IRA)(22年8月成立)では、電気自動車に対する税額控除の要件として、最終組み立て地等が北米域内や自由貿易協定(FTA)締結国であることが定められている。日米貿易協定は米国側でFTAとみなされておらず、このままでは日本は対象外となる。有志国間の連携によるサプライチェーン強靱化を推進すべく、米国に善処を促している。欧州も23年2月、IRAに対抗し、クリーン技術を欧州にて確保する目的で、「グリーンディール産業計画」を公表している。いずれも有志国との連携を可能なものとすべきである。

他方、日米、日欧間の連携の機運も高まっている。日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)の「重要・新興技術と重要インフラの促進・保護」に基づき、半導体、バイオ、量子、AI分野での産業協力に合意している。経済版「2+2」を立ち上げたのを契機に、欧州からも同様の取り組みに関心が示されている。ドイツ、フランスを中心に先端分野での研究開発の可能性も模索すべきではないか。先端技術については、輸出管理が厳しいため、米欧が有力な市場となる。

岸田文雄内閣総理大臣は、1月にG7諸国を歴訪し、気候変動、エネルギー、食料、保健、開発等のグローバルな諸課題の解決に貢献するとともに、特にグローバルサウス(途上国)への関与を強化すべきとの認識を共有した。5月のG7広島サミットを見据え、米欧をはじめとする同志国と連携を深めることがますます重要である。

【国際経済本部】