Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年3月23日 No.3584  バイオものづくりへの挑戦 -バイオファウンドリーの成功戦略/バイオエコノミー委員会

経団連のバイオエコノミー委員会(小坂達朗委員長)は2月28日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の山本一彦教授から、バイオものづくりの現状と課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 勃興するバイオエコノミーと合成生物学ベンチャーの台頭

わが国は2019年に国家戦略としての「バイオ戦略」を策定した。産学官を挙げて巨大市場を創出し、30年に世界最先端のバイオエコノミー社会の実現を目指す。また、岸田文雄内閣総理大臣が掲げる「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、社会課題の解決と経済成長の両立を可能とする「バイオものづくり」が、科学技術・イノベーションの重点投資先として盛り込まれ、グリーンイノベーション基金や令和4年度第二次補正予算によるバイオものづくり産業振興支援が進む。

バイオものづくりは広範な産業分野に関連するが、その中核となるのは「合成生物学」の活用である。DNA合成やゲノム編集技術等を活用し作成されたスマートセル(高機能な生物)を用い、目的物質を効率的に産生する。スマートセルを創出するプロセスは、Design(設計)、Build(構築)、Test(試験)、Learn(学習)の四つの工程の頭文字をとって「DBTLサイクル」と呼ばれる。ロボティクスによる自動化とデータ駆動型のシステムによって、迅速かつ網羅的な仮説・検証が可能となった。

バイオテクノロジーが先行的に産業実装された医薬品のみならず、消費財、食品・飲料、農業、素材・燃料など、多様な領域・事業分野で合成生物学ベンチャーが誕生して成長を続けており、投資熱は年々高まっている。合成生物学ベンチャーへの投資額は、21年に過去最大の180億ドルとなった。

■ バイオ製品の価値と分野ごとの見通し

バイオ製品は、(1)機能価値(2)コスト価値(3)イメージ・環境価値――を発揮することが重要である。なかでも代替生産プロセスが存在しない(1)の重要性が最も高く、(2)、(3)と続く。(2)が不在のなかで、(3)のみが発揮されるためには、ユーザー・消費者が、進んでプレミアムを支払う性質を有する製品であることが求められる。

分野ごとのバイオ製品の普及の見通しについて、産業実装が先行しているのは医薬品だが、需要が高まりつつある化粧品原料やニュートリション(注1)といった分野でも早期の収益化が期待される。時間軸を見極めながら、将来の大本命である農業・食品・素材分野へ軸足を移していくことが重要である。

■ わが国に求められるバイオファウンドリーの成功戦略

バイオ産業のプラットフォーマーであるバイオファウンドリーの取り組みは、米国が先行する。しかし、黎明期である現段階では安定的な利益創出に至っておらず、現時点において明確な勝者は存在していない。わが国でバイオファウンドリーの構築・育成を拒む理由はない。ただし、先行勢は約10年前に参入しており、積み上げられた「データアセット」には相応の差が存在する可能性が高い。そこで、後発組だからこそ取り得る戦略を実行し、早期に競争優位の源泉となる「データアセット」の蓄積を進めるべきである。わが国にとって重要なのは、宿主(注2)・事業分野・活動範囲の絞り込みや基盤要素技術(設備)の共有である。

(注1)栄養食品や病者向け食品など

(注2)ウイルスなどの寄生体が感染し、その生体内の一部を利用して子孫を増やすために利用する生物体

【産業技術本部】