Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度  平成23年度税制改正に関する提言

2010年9月14日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

わが国経済は、足もとで成長率が鈍化し、雇用情勢も依然として厳しく、デフレも継続しており、未だ本格的な自律回復過程には至っていない。加えて、米国経済の減速などを背景とした企業の想定を上回る為替の急激な変動やその定着、株安は、国内での投資や雇用の創出を阻害し、わが国経済の回復に多大な影響を及ぼしかねない。

一方、わが国の財政状況は、大幅な税収減、景気対策やマニフェストに掲げた新規政策の実施等に伴う歳出増により、足元で過去最高の公債依存度(48%)に達する等、一段と深刻さを増している。国・地方を合わせた政府の長期債務残高は、先進国の中で最悪のGDPの2倍近くの危機的水準に達する見込みであり、歳出・歳入両面からの改革を通じた財政健全化は喫緊の課題である。

また、本格的な少子高齢化、人口減少社会が到来する中で、社会保障制度には綻びが見られ、国民の多くが将来不安を抱いている。さらに、グローバル競争が一層激しさを増す中で、わが国経済の持続的な成長と国内での雇用確保に懸念が持たれている。

このような国民の間に漂う将来不安、閉そく感を払拭し、再び経済を成長軌道に乗せ、豊かで明るい国民生活を実現するためには、まずは「経済対策」に盛り込まれた需要喚起・雇用創出策を早急に講じ、景気を下支えする必要がある。また、「新成長戦略」を前倒しで実行に移すとともに、税制抜本改革を軸に、中長期的な財政健全化の推進、国民が安心できる社会保障制度の確立を一体的に進めていくことが急務である。

経団連は、本年4月の提言「豊かで活力ある国民生活を目指して~経団連 成長戦略2010~」において、税財政・社会保障制度の一体改革に関する考え方を明らかにした。本提言では、その後の状況変化を踏まえ、税制抜本改革のあり方について改めて考え方を整理するとともに、経済活性化等に向け、平成23年度税制改正で措置すべき事項を示すこととする。

II.税制抜本改革のあり方

財政状況が深刻さを増す中、わが国の税制は、財政を安定的に支えるという税制に求められる重要な機能を果たしていない。所得税では課税ベースの侵食が著しく、消費税についても税率が低いため、いずれも十分な歳入を得られていない。また、国税・地方税ともに法人所得課税に過度に依存していることから、景気変動に対して脆弱な税収構造となっている。

本格的な少子高齢化、人口減少社会が到来する中で、現役世代や企業に負担が偏った税体系は、雇用や経済活力を維持する上で阻害要因となっている。また、中長期的に、社会保障制度をはじめとするセーフティネットを支えることもできない。今、求められている税制抜本改革とは、将来世代への付け回しを回避することを念頭に、消費税率を一刻も早く引上げ、所得税の基幹税としての機能を回復し、法人税への過度な依存を改め、社会保障給付をはじめとする中長期的な歳出の増大に対応できる税体系を一体的に構築することである。

これ以上の問題の先送りは許されない。税制抜本改革に関する超党派の議論を速やかに開始し、早期に成案を示すべきである。国民の理解と納得を得て、一刻も早く税制抜本改革を断行する必要がある。

(1) 消費税の拡充

消費税は、他の税目に比べて経済活動への影響が最も中立的である。
また、国民の安心を確保し、持続可能な社会保障制度を実現する上で、現役世代の重い保険料負担を抑え、広く国民全体で制度を支える安定財源として、消費税は最もふさわしい税目である。
そこで、社会保障費用の増加分(高齢化に伴う自然増ならびに公的負担割合の引上げ分)には、消費税率の引上げによって対応するとの原則(消費税の社会保障目的税化)を確立し、景気動向に注視しつつ、速やかかつ段階的に(例えば毎年2%ずつ引き上げ)、少なくとも10%まで早期に引き上げるべきである。その後も、安心で持続可能なセーフティネットを確立するためには、国民の合意を得つつ、2020年代半ばまでに、消費税率を欧州諸国なみの10%台後半、ないしはそれ以上へ引き上げていかざるをえないと考えられる。
逆進性対策としては、カナダのGST(Goods and Services Tax)控除制度が参考となる。社会保障・税共通の番号制度の導入による正確な所得把握を前提に、低中所得者層に対し、生活必需品に係る消費税率引上げ相当額を定額で交付する制度を導入すべきである。複数税率については、事務負担の増大を招き、また、高額所得者にも軽減効果が及ぶことから、慎重な検討が必要である。

(2) 所得税の税収調達機能・再分配機能の回復

所得税については、税収の調達機能を高め、基幹税として立て直すとともに、所得再分配機能を回復する必要がある。このため、給与所得控除、配偶者控除、公的年金等控除等、各種所得控除を見直すとともに、社会保障・税共通の番号制度の導入による公平な所得捕捉を前提に、給付付き税額控除制度を導入し、子育て世帯や低中所得層に対し、重点的な支援を行うべきである。
なお、個人所得課税の最高税率については、経済活力に悪影響を及ぼすおそれがあり、国際的な整合性の観点からも、慎重に検討すべきである。

(3) 法人税負担の軽減

現在、世界各国で法人税率の引下げ競争が行われる一方、日本の法人実効税率は約40%と世界最高水準に貼りついたままとなっている。この結果、外資系企業の撤退のみならず、日本企業についても、販売、生産や研究開発拠点に加え、本社機能までも海外に移さざるをえない事態が現実化しつつある。このまま現状が放置されれば、国内において十分な投資や雇用の水準を維持することは到底、不可能であり、わが国経済がグローバルな競争から劣後し、衰退に向かうことは必至である。
法人実効税率の引き下げの効果は、設備投資や対内直接投資の増加といった直接的な効果だけには留まらない。雇用者数の増加や株価上昇等の資産効果を通じた個人消費の押し上げ、最終的にはGDPの押し上げにも寄与する。EU諸国において、税率を引き下げたにもかかわらず、GDPに占める法人税収の割合が増加していることも、法人税改革による経済活性化の効果を証明している。
かかる観点から、日本としては、まず、先行して少なくとも5%程度の法人税率引下げを行うとともに、早期に法人実効税率を30%まで引き下げるべきである。その後も、さらにアジア近隣諸国と均衡する水準まで、速やかに引下げるべきである。
なお、わが国企業の税と社会保険料を合わせた公的負担は必ずしも高くないとの指摘があるが、社会保障支出の水準に対する企業の公的負担で見れば、高福祉高負担の国家と同等の水準にある。また、わが国では今後、事業主負担も含めた社会保険料が毎年引き上げられていく一方で、欧州では軽減・見直しの動きがあること、さらに、わが国企業が直接競合している東アジア諸国における企業の公的負担は、わが国に比べ明らかに低いことにも留意すべきである。

(4) 社会保障・税共通の番号制度の早期導入

セーフティネットに係る各種給付や減税措置を真に必要とされる人に対し、適切かつ効率的に行うと同時に、公平かつ適正な所得把握を実現するため、社会保障給付や納税等に利用できる番号制度について、平成23年度税制改正において成案を示し、早期に導入すべきである。この番号制度が導入されれば、消費税の逆進性対策をはじめ、所得や家族構成に応じた給付付き税額控除といった社会保障と税を融合させたきめ細かい制度設計が可能となる。また、金融所得課税の一元化の推進にもつながる。なお、制度設計に際しては、プライバシーに万全の配慮を行うことはもとより、住民票コードの活用等により導入コストの効率化や電子行政の推進にも資するものとする必要がある。
企業、行政双方の業務効率化の観点から、納税手続きの電子化を推進することも重要である。電子帳簿保存法の見直し、e-Tax(イー・タックス:国税電子申告・納税システム)の改善・普及促進、年末調整の税額通知の電子化、全地方自治体のeL-Tax(エル・タックス:地方税ポータルシステム)への参画等を実現する必要がある。

III.平成23年度税制改正に関する提言

平成23年度税制改正では、「新成長戦略」実行元年との位置づけのもと、経済の活性化に向けて、法人税負担の実質的な軽減を図るほか、研究開発促進税制の拡充、企業の実態・実情に即した国際租税制度の整備、年金税制の改革等に取り組む必要がある。環境税の安易な導入には反対である。

1.法人課税

(1) 法人税負担の軽減

「税率を段階的に引き下げる」とした「新成長戦略」の必須の柱として、法人税負担をできる限り軽減すべきである。少なくとも法人税率を5%、引き下げる必要がある。税負担の実質的な軽減により、企業の国際競争力が向上し、また、わが国の立地競争力が改善することで、内外からの投資意欲も増大する。企業の海外移転の動きにも抑止効果が働く。結果として、国内雇用の維持・増加につながる。市場関係者に対するメッセージ効果も期待される。
仮に課税ベースの拡大の範囲内でしか引下げが行われないとすれば、負担の実質的な軽減とはならず、上記の効果は期待できない。特に、研究開発促進税制、減価償却制度の見直しが行われれば、熾烈な国際競争を行っている企業の追加的な投資に係る税負担(限界実効税率)が増し、競争力が大きく損なわれる。研究開発促進税制については、後述する通り、わが国が持続的な成長を遂げる上で不可欠の政策税制であり、縮減はもってのほかである。また、減価償却制度についても、250%定率法の導入等、平成19年度税制改正において国際的に見ても先進的な抜本改正がなされたばかりであり、見直しは時期尚早である。税収増を目的とした十分な検討を伴わない安易な課税ベースの拡大は、かえって経済に悪影響を及ぼし、結果として雇用の維持・増加にも結び付かないことから、厳に慎むべきである。
租税特別措置については、租特透明化法を活用した制度の有効性の検証等を踏まえ、見直すことは必要だが、研究開発促進税制、原料用ナフサ免税、鉄鋼・コークス・セメント製造に係る石油石炭税の免税等、真に必要な措置については、国際的な比較も行った上で、本則化・恒久化すべきである。

(2) 研究開発促進税制

グローバルな競争が激化する中で、資源の少ないわが国が持続的な成長を遂げるためには、科学技術の優位性を保ち、イノベーションを創出し続けなければならない。成長戦略の必須の柱として、研究開発投資への支援は極めて重要である。
「新成長戦略」では、官民合わせた研究開発投資を2020年までにGDP 比4%以上とすることが目標に掲げられているが、わが国の研究開発投資総額における政府負担割合は主要国と比較して最も低い水準にある。また、諸外国では競い合って研究開発促進税制の拡充が行われている。こうした中、わが国が他国の追随を許さない先端的研究開発を強力に推し進めていくには、景気変動にかかわらず、研究開発促進税制を常に拡充していくことが必須である。本来、制度全体を法人税法本則に盛り込み、恒久化すべきである。
少なくとも、本年度で期限を迎える税額控除限度額の引上げ(法人税額の20%→30%)を恒久化するとともに、税額控除限度超過額の繰越期間についても3年として恒久化すべきである。

(3) 国際課税

  1. 1. 移転価格税制の見直し
    移転価格税制については、近年、移転価格事務運営要領の改定や事前確認制度の充実等が図られているが、依然として国際的な二重課税が解消されないリスクが存在し、わが国企業の海外展開に支障をきたしている。まずは、事前確認制度および相互協議の一層の迅速化、効率化を行うべきである。また、国外関連者要件について、実際には支配権が及ばない株式保有比率50%の場合を除外し、50%超とする等の見直しを図るべきである。寄附金課税と移転価格課税の境界線をさらに明確化することも重要である。
    なお、先般、独立企業間価格の算定に係るOECDガイドラインの改定版が公表されたが、これに伴う制度改正および執行は、企業の実態・実情を踏まえ、納税者の理解・納得を得ながら進めるべきである。特に、利益分割法を伝統的な取引基準である基本三法(独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法)と同等の基準として位置付けるのであれば、無形資産取引、役務提供取引の取り扱いについてさらに明確に規定する等、納税者の予見可能性を高めることが不可欠である。

  2. 2. 租税条約ネットワークの充実・拡大
    租税条約ネットワークは、国際的な二重課税を排除し、わが国企業の安心かつ確実な海外事業展開を確保するための重要なインフラである。ブラジル、中国、タイ、インド、インドネシア、シンガポール、韓国、ドイツ、ロシア等との租税条約を改定するとともに、アルゼンチン、コロンビア、ベネズエラ、チリ、ナイジェリア等の未締結国との租税条約締結交渉を進め、ネットワークの拡充を図る必要がある。とりわけ、親子間配当および貸付金利息に係る源泉徴収の免除規定、使用料に係る源泉徴収の減免規定、移転価格税制に係る対応的調整規定、仲裁規定等を盛り込むことが重要である。

  3. 3. その他
    直接外国税額控除制度については、繰越期間経過により国際的な二重課税が排除されない可能性が依然として残されているため、企業の海外活動の制約とならないよう、繰越限度超過額・控除余裕額の繰越期間を延長する等、適切な措置を講じるべきである。
    タックス・ヘイブン対策税制については、平成22年度税制改正において、トリガー税率の引き下げ、適用除外基準の見直し等が実現したことは評価できる。今後、法改正を踏まえ、予見性が高く、混乱のない執行が期待される。

(4) 地方課税

  1. 1. 償却資産に係る固定資産税の見直し
    償却資産に係る固定資産税は、企業の設備投資意欲を低下させ、経済活性化を阻害する要因となっている。また、特定の設備型産業に負担が偏重しているため、課税の公平性の観点からも問題が大きい。国際的にみて稀な課税でもあり、縮減・廃止を図るべきである。
    少なくとも、平成19年度税制改正における減価償却制度の抜本改革を踏まえ、残存価額の廃止等、国税の課税標準の計算方法との整合性を図るべきである。

  2. 2. 事業所税の廃止
    事業所税の従業者割は、法人事業税の外形標準課税と類似した課税標準であることから、赤字企業にも課税されており、また資産割は固定資産税及び都市計画税との二重課税となっている。国際的な立地環境競争が行われている中で、都市部への事業所の設置を阻害する事業所税は速やかに廃止すべきである。

(5) 税と会計

企業のグローバルな事業活動・資金調達活動は一層の拡がりを見せており、会計基準の国際化の動きが益々進展している。わが国でも、2010年3月期から連結財務諸表における国際会計基準(IFRS)の任意適用を認めると同時に、2015年ないし2016年からの強制適用を2012年を目途に判断することとされている。
わが国法人税制は、これまで企業会計と密接に関係してきたが、コンバージェンスの流れの中で、国際会計基準の動向が課税ベースの拡大等、わが国法人税における課税所得計算に大きな影響を及ぼさないよう、実務への影響にも考慮しつつ、企業の国際競争力強化の視点から、個別会計基準のあり方については連結先行の趣旨を十分、踏まえるとともに、税制上の対応を図る必要がある。例えば、減価償却については、IFRSにおいては、将来の経済的便益の予測消費パターンを反映した減価償却方法を選択することとされているが、税制上は、損金経理要件の撤廃によって、会計処理にかかわらず、現行のいわゆる250%定率法に基づく償却を可能とすべきである。また、開発費については、IFRSにおいては、一定の要件を満たす社内開発費の資産計上を行うこととされているが、税制上は、わが国の研究開発の促進の観点から、会計処理にかかわらず、発生時に全額損金算入とすべきである。

(6) 欠損金の繰越期間の延長、繰戻還付の復活・延長

わが国の繰越期間は7年間と欧米諸国に比べ非常に不利な制度となっている。一方、欠損金の繰戻還付については、法人税法として規定されながら、中小企業を除き、財源措置として停止されている。欠損金の繰越期間の延長および繰戻還付の復活・延長を実施すべきである。

(7) その他

  1. 1. グループ法人税制の円滑な実施に向けた所要の措置
    わが国におけるグループ経営の進展を踏まえ、平成22年度税制改正においてグループ法人税制が創設された。この税制の円滑な実施に向けた所要の措置を講じる必要がある。

  2. 2. 受取配当金益金不算入割合の引上げ
    受取配当金への課税は、法人段階で課税済みの所得の分配に対する課税である。二重課税排除の観点から、法人の受取配当金における益金不算入割合を引き上げるとともに、負債利子控除を廃止すべきである。

  3. 3. トン数標準税制の適用対象船舶の拡充
    世界の主要海運国においては、全運航船を対象とするトン数標準税制が導入されているが、わが国のトン数標準税制では、その対象が全運航船の4%に過ぎない日本籍船に限られている。国際競争基盤の均衡化のため、わが国トン数標準税制の適用対象船舶を諸外国並みに拡充することが必要である。

  4. 4. 産活法に基づく「事業革新設備導入計画」に関する特別償却制度の延長
    わが国企業の生産性向上と国際競争力強化の観点から、産活法に基づく「事業革新設備導入計画」に関する特別償却制度を延長すべきである。

  5. 5. 事業所内託児施設に係る割増償却の適用期限の延長
    少子化対策の一環として保育サービスの拡充が求められる中、事業所内託児施設の果たす役割は高まっている。活用促進を図るため、事業所内託児施設に係る法人税の割増償却の適用期限を延長すべきである。

  6. 6. 特定同族会社の留保金課税の廃止
    企業の経営戦略における自己資本の充実の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

2.住宅税制

住宅投資は内需の柱として、経済や雇用に対して極めて大きな波及効果を有する。また、国民の豊かな住生活を実現し、地球環境問題、少子高齢化といった社会的課題を克服するためには、社会インフラとしての良質な住宅ストックを形成し、循環させることが不可欠である。かかる観点から、以下の税制措置を講じるべきである。

  1. 新築住宅等に係る固定資産税の減額措置の維持
  2. 省エネ・バリアフリー改修税制の延長
  3. 住宅に係る登録免許税の軽減措置の延長
  4. 高齢者向け優良賃貸住宅建設促進税制の延長

なお、税制抜本改革の際には、住宅の購入に係る諸税の整理・合理化を行うべきである。

3.都市・土地・PFI税制

わが国が持続的な成長を遂げるには、民間のノウハウや資金を活用し、土地や建物の有効利用、流動化を図りつつ、大都市を再生し、地域を活性化させることが不可欠である。また、財政の制約がある中で、効率的に社会インフラの整備、運営等を行うためには、PFI等の積極的な活用が求められる。かかる観点から、以下の税制措置を講じるべきである。

  1. 都市再生促進税制、まち再生促進税制の延長・拡充
  2. Jリート・SPCに係る不動産取得税の特例の延長
  3. 民間活力の活用促進に資するPFI税制の拡充
  4. 市街地再開発事業促進税制の延長
  5. 認定事業用地適正化計画に係る特例の延長・拡充

なお、政策目的が失われた地価税および法人の土地譲渡益重課制度は速やかに廃止すべきである。

4.金融証券税制

高齢化社会においては、金融資産の効率的な運用を促進させ、企業の円滑な資金調達へと循環させる金融資本市場の活力向上が重要となる。国民の資産形成、投資リスク低減等の観点から、実務面の課題に十分に配慮しながら、金融所得について損益通算の範囲拡大および繰越損失の容認等、金融所得課税のさらなる一元化を推進すべきである。
日本版ISA(Individual Savings Accounts: 非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)については、投資家の利便性強化、金融機関の事務に配慮した具体的な制度設計を推進すべきである。
個人投資家が受け取る配当に関して、法人・個人間における二重課税の調整を図る必要がある。
なお、上場株式等に関する配当、譲渡益に係る軽減税率は、平成23年12月末をもって期限を迎えるが、今後の経済情勢ならびに証券市場の動向に留意しつつ、慎重に検討すべきである。

5.年金税制

公的年金の給付水準は、今後、低下が避けられず、企業年金制度の普及・発展を通じた老後の所得確保の重要性が増している。
しかし、企業年金等の積立金に係る特別法人税は、国民の年金資産を減らし、企業年金財政の健全性確保に支障をきたすものである。また、年金税制の基本原則である「掛金の拠出・運用時非課税、給付時課税」に反する国際的にも稀な課税であるため、廃止すべきである。
また、確定拠出年金については、自助努力の必要性の高まりに対応する私的年金制度の中核として普及・発展させるために、従業員による掛金拠出(マッチング拠出)の早期実現、拠出限度額のさらなる引上げ、資産の中途引出し要件の緩和、加入対象者の拡大等を行うべきである。
また、平成24年に廃止される適格退職年金制度については、企業年金制度等への円滑な移行、および既受給者等の不利益回避を行うため、税制上の措置を含めた適切な対応を行うべきである。

6.社会保障・税共通の番号制度に関する具体的な設計

社会保障・税共通の番号制度については、先に述べた通り、早期導入に向けて、具体的な制度設計に関する検討を推進し、成案を示すべきである。

7.環境税、自動車・燃料関係諸税等

(1) 環境税

わが国経済界は、日本経団連環境自主行動計画等の温暖化対策に主体的に取り組み、技術開発や省エネ投資により世界最高のエネルギー効率の実現に努めてきた。その結果、わが国は、世界最高水準の低炭素社会を実現している。環境と経済を両立させつつ地球温暖化問題を真に解決する鍵は技術であり、既存の省エネ技術・製品の普及と革新的な省エネ技術の開発が不可欠である。
環境税は、こうした技術開発に必要な原資を奪うばかりか、エネルギー効率が相対的に低い他国への生産移転を助長し、地球全体では却って温暖化が促進され、また国内産業の空洞化につながる懸念があることから、安易な導入には反対である。特に、環境目的に新たな負担を伴う新税の導入等は行うべきではない。環境税については、現在検討が行われている国内排出量取引制度や再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度をはじめとする他の環境政策の検討状況や既存の税制との関係を十分踏まえた上で、これら全体として、地球規模かつ長期のCO2削減効果や国民生活・産業活動に与える影響等を考慮し、総合的な検討を行う必要がある。

(2) 自動車・燃料関係諸税

自動車・燃料関係諸税については、一般財源化により課税根拠を喪失したにもかかわらず、当分の間、維持するとされた旧暫定税率の廃止に留まらず、自動車取得税・自動車重量税を廃止し、納税者の理解を得ながら、簡素化・軽減の方向で総合的な検討を推進すべきである。

(3) 税制のグリーン化

省エネ技術の開発を促進する観点からは、環境に優しい製品を普及させるインセンティブとしての税制のグリーン化も重要である。エコカー減税の平成23年度までの確実な継続、エネルギー需給構造改革投資促進税制における初年度即時償却制度の延長・対象範囲の拡充、産活法に基づく「資源生産性革新計画」、「資源制約対応製品生産設備導入計画」に関する初年度即時償却制度の延長をはじめ、税制のグリーン化を行うべきである。

(4) 航空機燃料税

わが国の成長のためには、アジア・世界からのヒト・モノの流れ倍増を目指し、徹底したオープンスカイの推進による航空網の拡大が不可欠である。
空港整備の財源として創設され、本邦航空会社が使用する航空機燃料に課されている「航空機燃料税」は、諸外国では極めて稀な課税であり、オープンスカイにより激化する国際競争に必要なイコールフッティングを阻害するものであることに加え、大規模な空港整備が終了した現在ではその役割を終えていることから、廃止ないし大幅な軽減を行うべきである。

8.市民公益税制

今後、わが国では、NPOやNGO、社団・財団法人等の非営利法人、個人、企業、行政等、様々な主体が協働して公益を担っていくことが期待されている。新しい公益を担う法人等が十分に活躍するための財政基盤を強化できるよう、市民公益税制を拡充すべきである。例えば、認定NPO法人等公益活動を担う法人に対する寄附について、所得税額控除の導入を検討すべきである。また、認定NPO法人等におけるみなし寄附金の損金算入限度額の引上げを行うべきである。なお、寄附金控除の年末調整の対象化については、社会保障・税共通の番号制度が導入されれば敢えて実施する必要性はなくなることから、慎重な検討が必要である。

9.その他

(1) 印紙税の廃止

近年、インターネット電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税は合理性が失われており、公平性の観点から廃止すべきである。少なくとも、不動産売買契約書、建設工事請負契約書に係る印紙税の軽減措置は延長すべきである。

(2) 原産地証明に係る登録免許税の廃止

経済連携協定に基づく原産地証明法改正により導入された認定輸出者自己証明制度については、その活用促進の観点から、原産地証明に係る登録免許税を廃止すべきである。

以上