Policy(提言・報告書) 経済政策、財政・金融、社会保障  待機児童の解消に向けた一層の取り組みを求める

2013年5月14日
一般社団法人 日本経済団体連合会

働く女性の支援策を成長戦略の重要な柱とする総理の方針を歓迎し、企業としても取り組みを進める方針である。一方、少子化対策の推進や男女ともに活躍する社会の構築を目指すうえで、安心して子どもを預けられる保育施設等の整備が急がれることから、政府・地方公共団体には一層の取り組みを求めたい。保育所受入児童数の拡大に向けて種々の施策が講じられているものの、現状では、国民の保育ニーズに十分には対応できていない#1。学校や病院と同様、欠くことのできない重要な社会インフラとして位置づけ、地域毎に細かに需要を見極めて保育環境を整える必要がある。

政府は、「待機児童解消加速化プラン」ならびに「子ども・子育て関連3法」(2015年度本格施行)に基づく施策を通じ、待機児童の解消を図る方針であるが、対策効果を上げるために、特に、以下の施策を求めたい。

1.保育サービスの拡充に財源を振り向ける

政府は、M字カーブの解消や社会の指導的地位に女性が占める割合の引上げを政府方針として掲げて施策を展開しているが、こうした方針と整合させる観点から、保育サービス拡充のための財源確保が重要である。

  1. (1)子ども子育て施策は、保育サービスなどの現物給付を中心とし、所得制限超の世帯への特例給付を見直すなど、現金給付関連の予算を縮減する#2
  2. (2)0~2歳の保育サービス需給の逼迫に対応した予算配分とする。

2.民間活力による保育サービスの整備

保育サービスを拡充するうえで、資本力や事業拡大の基盤・ノウハウを有し全国的に事業展開が可能な株式会社や地域のニーズにきめ細やかに対応するNPOなど多様な事業主体の新規参入を推進する必要がある#3。とりわけ、短期集中的に整備を進める必要がある現状において株式会社の参入が重要であることから、認可手続きや予算配分等の運用面で、社会福祉法人とのイコールフッティングを図るべきである。

  1. (1)株式会社には認可保育所の設置を認めないケースや、公設民営の保育所の運営事業者や公有地の貸付等の応募要件において株式会社を排除するケースなど、一部の地方公共団体の運用実態を改める。
  2. (2)保育所の建築・整備費用に関する設置主体による格差#4を是正するため、建築費経費を補助する形から運営費に減価償却分や家賃を上乗せする形の補助に見直す#5
  3. (3)新制度において幼保一体施設として給付対象となる「幼保連携型認定子ども園」への株式会社の参入を認める。

3.事業所内保育施設の活用

待機児童解消に向けて、国や地方公共団体の取り組みに期待するところであるが、都市部での保育所不足を補うため、企業自ら、事業所内保育施設を設置するケースも増加している#6。本来、行政が中心となって担うべき保育環境の整備に、特に待機児童の多い自治体において企業が一定の貢献をしていると言える。こうした状況に鑑み、現状、事業所内保育施設への助成は、財源・助成規模ともに限定的である点を改め、保育施設の設置に前向きな企業を後押しすることが望まれる#7

  1. (1)税財源による支援を拡充#8し、事業所内保育施設の活用を進める。
  2. (2)新制度への円滑な移行に向け、国・地方公共団体が連携して事業所内保育施設の実態把握と制度周知を図る。
  3. (3)新制度で助成対象となる事業所内保育施設の施設・給付の要件や給付水準は、運営実態を踏まえた内容とする#9
以上

  1. 保育所待機児童数は、2012年4月時点で24,825人、0~2歳が約8割を占める。待機児童数が500人を超える市区町村:名古屋市1032人、札幌市929人、福岡市893人、世田谷区786人、大阪市664人、川崎市615人、神戸市531人、練馬区523人。
  2. 現金給付(児童手当の2013年度予算)は約2兆2600億円に対し、現物給付(認定こども園、幼稚園、保育所、放課後児童クラブ、延長保育などの多様な保育、地域子育て支援拠点、一時預かりに係る2013年度の給付費推計)は約1兆8600億円に留まる。
  3. 株式会社立の認可保育所は、全国で376か所(2012年4月)、全体の約1.5%に留まる。
    横浜市の事例:待機児童数は、ピーク時の1552人(2010年度)から2012年度には179人まで削減。
    市内の認可保育所579園(2013年4月)のうち株式会社立の保育所は、142園(24.5%)。2013年度開所の認可保育所(72園)については、半数の36園にのぼる(3月21日開催の規制改革会議会合における横浜市の提出資料より)。
    国に先立ち、株式会社立の民間保育所も対象とする内装整備助成事業を設けるほか、土地所有者とのマッチング事業により企業にも物件紹介を行うなど、民間活力を活かして保育サービスの拡充を推進している。
  4. 認可保育所の新設に係る補助(建築工事費の3/4を補助)は、社会福祉法人に限定されている(児童福祉法第56条の2)。*幼保連携型認定こども園を設置する学校法人には施設補助あり
  5. このほか、保育所の運営費の使途制限の問題、事実上の配当制限(配当した場合には民間施設給与等改善費の対象外となり、運営費補助金の一部カット)なども株式会社立の保育所設立の障壁となっている。
  6. 事業所内保育施設(院内保育施設は含まない)は、2012年3月現在、施設数1,610施設(前年比-5施設)、入所児童数15,540人(同+150人)。2004年度以降増加傾向(2005年3月:1,233施設12,468人)。
    入所児童数の多い市区町村は、仙台市22施設289人、神戸市31施設278人、名古屋市26施設244人、大阪市29施設241人など。厚労省資料:「平成23年度認可外保育施設の現況」より、同調査過程で把握できた事業所内保育施設のみ集計した参考データ)
  7. 事業所内保育施設(病院や介護施設内の保育施設を除く)への助成
    企業が設置する事業所内保育施設に対する国の助成制度は、雇用保険事業(事業主の保険料が原資)による制度のみ(2011年度実績34億円)。助成対象は一企業一か所のみ。助成率(大企業1/3設置費上限1500万円)、助成期間(5年)など限定的である。この他、事業所内保育施設の設置や運営を推進する独自の施策を有する地方公共団体もある。
  8. 「待機児童解消加速化プラン」には、税財源による事業所内保育施設への助成は盛り込まれていない。
  9. 地域の子どもを受け入れ、市町村の認可を得た事業所内保育施設については、新制度の給付の対象となる(給付規模や施設要件等は新制度発足までに決定)。保育環境の整備に協力する企業を増やすためには、新制度における認可・確認に係る基準に柔軟性を持たせると同時に、行政手続き面で簡素であること、給付水準を引き上げることが求められる。