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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 日米インターネット・エコノミー民間作業部会 共同声明2013

2013年10月22日
一般社団法人 日本経済団体連合会
在日米国商工会議所

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わが国において本年6月、安倍政権が閣議決定した新しいIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」は、政府の成長戦略の柱のひとつとなるもので、産業界の意見を踏まえてまとめられ、クラウド技術の活用促進についても言及されている。

米国では、IT産業が経済成長のドライバーとなっており、IT政策は第二期のオバマ政権における国家の優先施策として位置付けられている。

両国において、今後施策の実行や課題の克服に力が注がれるなかで、民間のイノベーションを活性化させ、インターネット・エコノミーを一層発展させるために、政策面での日米協力の重要性はさらに高まる。さらに、CBDF#1 (Cross Border Data Flows) などに関する国際的な議論が進むなか、日米両国の民間部門がアジア太平洋地域におけるルールづくりをリードしていきたい。

こうした観点から、日米産業界は今年度の政府間におけるインターネット・エコノミーに関する日米政策協力対話に向け、共同声明をとりまとめ、両国政府に提言する。

1.オープンで透明なインターネットの堅持

インターネットは、イノベーションの源泉であるとともに、現在では必要不可欠な社会のインフラである。インターネットがどうあるべきか、またインターネットが存在するサイバー空間をどのように利用・活用・管理していくのかについては、日米両政府が協力して、オープンで透明なインターネットの堅持とサイバー空間の平和的利用を図るべきである。その目的に向かって両政府が一致協力し、国際的な場でイニシアティブをとり、アジア太平洋地域をはじめとする新興国に対しても、リーダーシップを発揮することを望む。特に、インターネットはあらゆる分野・業種に関わることから、日米両政府は、省庁の枠にとどまらず、総合的・一体的に取り組む体制を整えるべきである。

この観点から、現在、国際機関で検討されている事柄、たとえば国連CSTD#2 (開発のための科学技術委員会) で議論されている Enhanced Cooperation (協力強化) は、新しい監視機関を必要とするような義務命令の強化・構築というアプローチではなく、協力を促す信頼の醸成を目的に議論されるべきである。また、開発途上諸国のインターネットへのアクセス拡大、自由なデータの流通、技術に関する専門的知識の獲得などにあたり、各種の支援なども、ともに取組むべき事項であると考える。

2.国際的に調和のとれたデータ越境移転ルール

インターネット上に展開されるデータサービスが国境を越え自由かつ円滑に提供されるためには、各国における自由・公正・透明な市場作りに向けた取組みと、国際的なルールの調和が必要になる。まずはTPP#3交渉の場において、日米両政府がデータ活用とプライバシー保護とのバランス、及び情報セキュリティを確保しつつ、自由かつ円滑なデータ流通に向けた積極的な取組みを行うことを望む。国際的に提供されるデータサービスは、市場原理により選択されるべきで、保護主義的な規制によって、安全面、機能面、価格面において優れたサービスの提供が阻害・制限されることはあってはならない。

データ越境移転ルールは、国際的に調和の取れたものであるべきである。APECのCBPR#4 (Cross Border Privacy Rules system) は、制度の異なる多国・地域間での協議により合意されたものだが、このような取組みをさらに推進し、EUをはじめAPEC外の経済圏との実効性ある共通ルールへの適用を目指すことにつなげるべきである。

一方、厳格な法規制による統治を目指すEUデータ保護規則案を注視しつつ、日米両政府においては、産業界に過度な負担にならないよう積極的な意見を述べていただきたい。加えて、日米両国の国内法制度を国際的な調和のとれたものに見直しをしていただきたい。これに際しては現法制の基礎であり今年改訂されたOECD「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン」#5の項目を踏まえるべきである。

3.日米政府CIO#6の協力による電子政府の推進

日本では、新しいIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」に加え、内閣情報通信政策監(政府CIO)の根拠法やいわゆる番号法が成立した。政府CIOの役割は電子政府の推進やオープンデータの拡大に留まらず、IT戦略全般の遂行とされている。産業界としては、政府関係機関が従来の縦割りを乗り越え、地方公共団体も含め、政府CIOの活動に全面的に協力することを期待する。また、産業界としても政府CIOに積極的に協力する。

米国では、オバマ政権の第二期が開始され、それに呼応する形で連邦CIOも新たなIT政策の優先事項を発表した。IT政策の中核を担う、効果的なIT投資を実現するためのポートフォリオ管理、誰もが政府のデータを利用できるデジタルガバメント戦略、そして各省庁間のセキュリティを確実なものとする CyberStat #7や、認証システムである FedRAMP #8 (Federal Risk and Authorization Management Program) なども導入された。また、連邦CIO協議会を通じて各省庁CIO間の情報共有を推進するとともに、21世紀の電子政府のあり方を検討する委員会を新しく設立した。

これらの取組みの成果を日米両国の政府CIOが共有し、さらにアジア太平洋地域の電子政府の先端的な取組みとして日米両国がリードすることを期待する。

4.安心して利用できるインターネット環境の確保

日米産業界が利用者にとって安心なインターネット環境を保つためには、民間同士が共通知を高め合う仕組みをつくる必要がある。さらに日米両政府もその仕組みを支援し、官民が一体となって、情報セキュリティに対する対応能力を高めていくことが重要である。そのためには、日米両政府および政府間において、政府機関の情報セキュリティに関する役割と権限を整理し、知識を共有する体制をつくるとともに、プラットフォームの共通化、相互運用性の確保、共同研究の推進など世界をリードするようなインフラの整備が待たれる。

インターネットの世界では、新しいデバイス・ソフトウェア・サービス・適用分野などが続々誕生しており、これらの組み合わせは、情報セキュリティの脅威だけではなく、それまで考えられていなかった脅威を生み出しうる。インターネットが普及した日米両国にとっては、短期間に大規模の被害をもたらすリスクである。インターネットの悪用を防ぎ、利用者の安心感を高め、事業者にとっても望ましい環境を作りあげるために、情報セキュリティに加えて、ビッグデータの取扱い、知的財産権の保護、プライバシーの保護等について、社会的なコンセンサス形成を重視しつつ、イノベーションの創出に取組むことが重要である。日米両政府は、新しい脅威や課題に対して官民協力のもとに迅速に対処するとともに、関連する情報を適切に共有・公開する体制を整備・発展させるべきである。

5.世界規模でのクラウドビジネスの促進

国境を越えた様々なサービスがクラウド上で展開されるなか、世界規模でのクラウドビジネスの促進には、日米間で国境を越えてクラウドサービスが発展できる基盤を作り、それを第三国へ展開することが必要である。具体的には、クラウドビジネスを促進する制度的な枠組み作り、海賊版対策等のデジタル流通時代のリテラシー向上、先進的サービス事業を提供する際の責任範囲の明確化等に関する日米協力、特に官民の協働が重要である。これらの協議を通じて、例えば医療、金融、エンターテイメント、レジリエントな社会等に関連する事業においてクラウドサービスが伸長することが期待される。日米両政府が上記のようなクラウドビジネスに係る基盤整備を行いつつ第三国に展開するとともに、民間が実際のビジネスを通じてクラウドの普及・利活用を促進することが求められる。

おわりに

経団連とACCJは昨年10月、「日米クラウドコンピューティング民間作業部会報告書」を取りまとめ、日米両政府への共同提案を行った。その後、両国においてクラウド技術の活用促進に向けた検討が行われ、サービスの普及・拡大に向けた環境整備が進みつつある。しかし、国や地域を容易に越えるインターネット・エコノミーのさらなる拡大が見込まれるなか、技術進歩や新サービスへの敏速な対応に向けた課題も山積しており、日米両国において共同研究や教育・訓練の推進が必要である。日米産業界は、この政策対話の継続を支持するとともに、世界経済のさらなる発展に向け、日米両国の政府と産業界が連携を深めつつ調和のとれた制度的な枠組み作りを目指し、実効的な課題解決にあたることを願うものである。

以上

  1. CBDF (Cross Border Data Flows):越境データ移転。他にも様々な用語を用いることがある。例えばCBDT (Cross Border Data Transfers)、TBDF (Trans-border Data Flows)など
  2. CSTD (Commission on Science and Technology for Development):国連経済社会理事会に属し、科学技術に関する課題について助言を行うことを目的とする委員会
  3. TPP (Trans-Pacific Partnership):環太平洋パートナーシップ
  4. CBPR (Cross Border Privacy Rules system):越境プライバシールールシステム
  5. OECD「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン」:複数主義的民主主義、人権尊重、開かれた市場経済というOECD加盟国を拘束する3 原則をサポートするためOECD 閣僚理事会の勧告として採択され、1980年9月23日に発効したもの
  6. CIO (Chief Information Officer):最高情報責任者
  7. CyberStat:国土安全保障省により運営される情報セキュリティプログラムを確立する手法のひとつ
  8. FedRAMP (Federal Risk and Authorization Management Program):米国政府においてクラウドサービスに対する「セキュリティ評価、認証及び継続的モニタリング」の標準的アプローチを策定した政府横断のプログラム

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