Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  新たなエネルギーミックスの策定に向けて

2015年4月6日
一般社団法人 日本経済団体連合会

政府は現在、総合資源エネルギー調査会の下に長期エネルギー需給見通し小委員会を設置し、将来のエネルギーミックスの策定に向けた検討を行っている。エネルギーは、国民生活や事業活動の基盤であり、エネルギー資源の大部分を海外に依存するわが国としては、エネルギー政策は極めて重要な国家戦略である。また、エネルギー起源CO2がわが国の温室効果ガスの9割を占める現状を踏まえれば、気候変動問題への対応策としても大きな意味をもつ。そこで、新たなエネルギーミックスの策定にあたり経団連としての提言をとりまとめる。

1.基本的な視点

新たなエネルギーミックスは、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安定供給、経済性、環境適合性(S+3E)の適切なバランスがとれたものとする必要がある。とりわけ、成長戦略との整合性を確保する観点からは、経済性ある価格でのエネルギーの安定供給の実現が極めて重要な課題である。

二次エネルギーである電力は、東日本大震災後、産業用の料金が約3割上昇しており、経済や企業の産業競争力に大きな影響を与えている。経団連が実施したアンケートでは、電力料金について、製造業の7割以上が震災前あるいは震災前よりも低い水準が負担可能限度であると回答し、負担可能限度を超えた場合6割近くが国内設備投資を減少させる、5割が雇用を減少させると回答している。

震災前の時点においても、高いエネルギーコストがわが国の産業競争力の低下を招いていたことを踏まえ、新たなエネルギーミックスにより、相対的な国際水準でみて、電力料金は震災前の水準以下となるようにすることが重要である。そのためには、ベースロード電源#1の比率について、欧米並みの6割を確保することを目指す必要がある。

2.2030年におけるエネルギーミックス

提言をとりまとめるにあたり、RITE((公財)地球環境産業技術研究機構)に対し、電源構成について再生可能エネルギー15%~30%・原子力15%~30%のシナリオを示したうえで、2030年における電源構成とその経済影響・環境影響について、モデル分析を依頼した。

モデル分析結果のポイントは次のとおりである。

  1. 2030年時点でも、化石燃料は一次エネルギー供給において引き続き重要な役割を果たしている。
  2. 再生可能エネルギーに関しては、比率が5%ポイント増加すれば、6,000億円~1兆1,000億円コストが増加する。とくに、現状みられるように導入が太陽光に偏った場合には、価格競争力の高い順に再生可能エネルギーが導入される場合と比べ、3,000億円~5,000億円コストが増加する。
  3. ゼロエミッション電源(再生可能エネルギー+原子力)比率が5%ポイント増加すれば、エネルギー起源CO2は2~3%ポイント減少する。
  4. 全般的な傾向として、「原子力比率が高いほど+再エネ比率が低いほど」経済に好影響を与える(悪影響を与えない)という分析結果が観察される。
  5. 再生可能エネルギーのうち価格競争力の高いものから順に導入されれば、15%以下の場合には経済に与える悪影響は極めて小さい。

以上を踏まえれば、S+3Eの観点から、2030年における電源構成は、再生可能エネルギー15%程度、原子力25%超、火力60%程度とすることが妥当である。モデル分析によれば、その際のベースロード電源比率は62%超(原子力:25%超、石炭:27%、地熱・水力:10%)となる。

ただし、わが国の国家戦略としては、エネルギー安全保障を確保しながら地球温暖化問題の解決にも貢献するため、ゼロエミッション電源比率やエネルギー自給率のさらなる向上#2を目指し野心的な取組みを行っていくことが重要である。これまでの技術の連続性を超えた革新的技術も含め研究開発に重点的な支援を行うことにより、技術の低コスト化を実現し、一層の省エネルギーや再生可能エネルギーの拡大を図るべきである。その際の目標として再生可能エネルギー比率20%程度を掲げて取り組む必要がある#3

これらの成果を海外に普及させることを通じ、わが国は、エネルギー安全保障、地球温暖化問題といった地球規模の課題の解決に貢献するとともに、新たな市場を開拓することが可能となる。

3.2030年のエネルギーミックス実現に向けた取組み

「1.基本的な視点」を踏まえ、以下の取組みが必要である。

(1)適切なエネルギー需要想定

エネルギーミックスを検討するにあたっては、将来のエネルギー需要を適切に見通す必要がある。一般にエネルギー需要は、経済規模と正の相関関係にある#4ことから、適切な経済成長率を想定することが重要となる。これまでの政府のエネルギー政策における検討では、他の政策分野と異なる経済成長率が設定されたこともあったが、このたびの検討に際しては、成長戦略や年金財政等で想定されている成長率と整合性のとれたものとすべきである。

省エネルギーは3Eのすべてを満たす取組みであり、産業界としても省エネ技術の開発・普及に最大限取り組んでいく。民生分野でも省エネを促進するため、節電や省エネ機器への買い替えが促進されるための国民運動の展開が求められる。

しかし、過大な省エネ効果を見込んだ非現実的なエネルギー需要を想定することは、企業等に対する過剰な省エネ投資負担や生産抑制を強いることとなりかねない。経団連では、温暖化対策、省エネ推進の観点から、2030年に向けた主体的な取組みとして低炭素社会実行計画フェーズⅡを推進しており、将来のエネルギー需要を想定する際には、各業種の低炭素社会実行計画を踏まえるべきである。

資源の乏しいわが国にとって、省エネは極めて重要な課題であるが、非現実的な需要見通しは、エネルギー供給不足・価格の上昇、省エネコストの上昇を招く懸念がある。そこで、エネルギー需要について、過去のトレンドを踏まえた適切なGDP弾性値を設定することはもとより、省エネバリアの存在、残された省エネの限界費用の高さなどに留意するとともに、非現実的な投資回収年数の設定、マクロフレームの省エネと個別の省エネ対策のダブルカウントを排除し、現実的な想定を行うべきである。併せて、製品の高付加価値化に伴う製造プロセスの高度化、電化・情報化の進展など、今後のエネルギー需給構造の変化にも対応できるようにしておく必要がある。

(2)エネルギー供給構造の強化

①原子力

原子力については、環境適合性が高く、準国産エネルギーであることに加え、経済性・出力安定性の面でも優れており、ベースロード電源として大きな役割を果たすことが期待される。原子力発電所の停止に伴う火力発電の焚き増し等により、2014年度の燃料費は約3.7兆円増加し、経常収支黒字は3年連続で減少している。人材や技術の維持・強化の観点からも、安全性の確保を大前提に、既存のプラントを最大限活用するとともに、リプレースを視野に入れる必要がある。

そこで、原子力に対する信頼性を確保することに加え、安全審査の予見可能性の向上、安全性の確認されたプラントの運転期間延長、電力自由化の中であっても安全投資を含めた新規投資・投融資回収が円滑に行われる仕組みの構築が不可欠となる。政策変更等に伴う原子力発電所の廃止を円滑に進めるための環境整備、核燃料サイクルの確立や放射性廃棄物最終処分場の確保、原子力損害賠償制度の見直し#5等を着実に進めていく必要がある。

わが国がエネルギーミックスの中に原子力を明確に位置づけ、核燃料サイクルを着実に推進していくことは、2018年に有効期間が終了する日米原子力協定を円滑に延長し、わが国が世界の原子力の平和利用に引き続き貢献していくためにも重要となる。

上記を推進するにあたり、政府として積極的な理解促進活動を行っていく必要があり、経団連としても政府の取組みを最大限支援していく所存である。

②再生可能エネルギー

再生可能エネルギーは、エネルギー安全保障や地球温暖化防止の観点から、高いポテンシャルを有する重要なエネルギーであり、将来を見据え持続可能な形で着実に導入を促進していく必要がある。そこで、地元の理解の増進や環境規制の緩和などを最大限行い、一般水力や地熱のようにベースロード電源として活用できる再生可能エネルギーの積極的な導入に取り組むとともに、非効率・不安定・高コストといった課題の解決に向け、研究開発の推進が求められる。現状のまま再生可能エネルギーの導入を進めれば国民負担が極めて大きくなることを踏まえ、今般のエネルギーミックスの策定において、エネルギー基本計画に記載された目標の見直しも検討すべきである。

2012年に導入された固定価格買取制度は、再生可能エネルギー導入策として費用対効果が低いうえ、国民負担の急増、太陽光に偏った導入といった事態を招いている。既に認定されている設備の取扱いも含め制度の不合理を是正するとともに、コストが高くベースロード電源とならない電源に導入量の上限を設けるなど抜本的見直しを行う必要がある。また、ベースロード電源としての石炭火力の活用を阻害しないよう、現行の優先給電ルールを早急に見直すべきである。

なお、再生可能エネルギーは、地域活性化や地域の安心・安全確保にも資することから、小規模木質バイオマス発電や小水力発電等の有効活用により、エネルギーの地産地消を推進すべきである。

③化石燃料

化石燃料は、2030年においても、引き続き国民生活、事業活動を支える極めて重要なエネルギー源であり、高効率化・低炭素化を図りながら、引き続き有効活用すべきである。原油やLNGを中東からわが国へ海上輸送する過程でホルムズ海峡などの要衝を通過せざるを得ず、これらの地域で緊急事態が発生した際には、わが国のエネルギー供給に重大な支障が生ずる懸念がある#6。また、最近では原油価格の低下がみられるが、新興国の経済成長が続くことを踏まえれば中長期では再び価格が上昇する蓋然性も高い。安定的調達のため、積極的な資源外交や国内資源の開発に取り組む必要がある。

わが国の一次エネルギー供給の相当部分を占める石油は、発電燃料として経済性に課題があるものの、電力需要に応じて出力を機動的に調整できるピーク電源として重要な機能を担うとともに、輸送用・暖房用燃料として国民生活を支えている。さらに、工業原料としても大いに活用されており、将来世代のためにも効率的使用に努める必要がある。

石炭にはCO2排出量が多いという課題はあるものの、経済性および出力安定性で相対的に優れている。また、可採年数が長く、世界各国に幅広く分布していることから、安定供給にも資する。特に、発電燃料としては、高効率利用を図り環境問題に配慮しながら、引き続きベースロード電源として大きな役割を果たすことが期待される。こうした取組みを国内で行うことにより、高度な技術を国内で培い、産業競争力の強化を図りながら、引続き大きな需要が見込まれる海外での石炭火力の高効率化に貢献することも極めて重要である。

天然ガスは中東以外の地域にも広く賦存しており、CO2排出量も少なく、安定供給や環境適合性の面で優れたエネルギーである。

4.エネルギーの安定供給確保に向けた環境整備

(1)エネルギーシステム改革

エネルギーシステム改革の目的は、一層安価な価格でのエネルギーの安定供給であり、その実現なくして改革は成功とは言えない。改革の実施にあたり、諸外国の経験も十分踏まえ、上記の目的を実現し、価格の高騰や供給の不安定化といったことがないよう、法案の附則に定められた検証を着実に実施し、必要な取組みを行うべきである。

(2)地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)の抜本的見直し

エネルギーコストの抑制が課題となる中、地球温暖化対策税は、エネルギーコストの上昇に拍車をかけており、廃止を含めた抜本的見直しが必要である。ましてや、使途拡大や森林吸収源対策等のための新たな課税は到底、容認できない。

(3)地球温暖化対策

本年末にパリで開催されるCOP21においては、すべての主要排出国が参加する公平で実効ある国際枠組みを構築する必要がある。わが国は、新たな枠組み構築に向けた国際交渉に積極的に貢献するとともに、温室効果ガスの約9割がエネルギー起源CO2であることに鑑み、国内の温暖化対策はエネルギーミックスに基づくものとする必要がある。

以上

  1. 発電コストが低廉で、安定的に発電することができ、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源。地熱、一般水力、原子力、石炭。
  2. RITEの分析結果では、2030年時点の一次エネルギー自給率(原子力含む)は約23%となっている。
  3. 経団連では、政府の「環境エネルギー技術革新計画」の改訂に向けて、2013年7月、アンケートを実施し、省エネ14技術分野、再生可能エネルギー6技術分野、蓄電池・送配電2技術分野、CCS(Carbon Capture and Storage)を含む化石燃料高度利用7技術分野など、エネルギー・低炭素化技術において今後注力すべき分野をとりまとめている。今後、これらの分野での技術開発支援を一層拡充する必要がある。
  4. 過去40年間にわたりGDPが1%伸びれば電力需要も1%以上の伸びを示してきた。2001年~2010年の弾性値は1.0である。
  5. 2011年8月に施行された原子力損害賠償・廃炉等支援機構法附則第6条第1項には、「政府は、法律の施行後できるだけ早期に、・・・賠償法の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとする。」とある。法案の附帯決議では「できるだけ早期に」は「1年を目途」とされている。
  6. わが国は原油の83%を中東地域に依存しており(2013年)、そのほとんどがホルムズ海峡を通過するタンカーによって輸送されている。ホルムズ海峡通過後も、航行量の多いマラッカ海峡を通過することとなるが、2008年以降、同海峡のある東南アジア海域において海賊事件の発生件数が増加傾向にある。