Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  名古屋議定書に関する検討の視点

2015年7月3日
一般社団法人 日本経済団体連合会
知的財産委員会 企画部会

生物多様性条約の目的の一つである「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS: Access and Benefit-Sharing)」を進めるため、2010年10月に名古屋議定書(以下、「議定書」)#1が採択され、昨年秋に発効した。わが国政府においても、議定書の締結に向けた検討が進められている#2。しかし、議定書はその内容や影響が一部不明確であることや、議定書の実施にあたってのルール作りが各国の裁量に委ねられていること等に対する懸念の声も強い。

以下に関して、政府としての考え方を早急に明らかにされたい。われわれとしては、政府の見解を踏まえ、今後の産業界の対応について改めて検討する所存である。

1. 議定書における重要事項の定義等の明確化

  • 議定書は、例えば「遺伝資源」「遺伝資源の利用」等の文言の定義や、「派生物」「一般流通品」等の取り扱い、また従前に取得された遺伝資源の利用についても遡って利益配分を求めることが出来るいわゆる「遡及効」の存否など、極めて重要な事項について、具体的な内容が必ずしも明らかでない。

  • 政府には、わが国にて適用する場合のそれらの定義等についてまず明確にすべきである。

  • その際、非商業的な目的の研究、健康に損害を与える緊急事態、ならびに、食料及び農業に関し、特別に考慮する必要がある。

2. 議定書の適用による影響の公表

  • 議定書の重要事項が不明確であることから、実際に影響を受ける産業・ビジネスの範囲が明らかでない。

  • 政府には、定義等の明確化により適用範囲を明らかにした上、例えば適用を受ける産業、ビジネス、ひいては国民生活に対し、実際にどの程度の影響を与えるか試算するなどにより、予測される影響の大きさを示すべきである。

  • 併せて、議定書の締結によりわが国の産業界が得ることができるメリットについても示すべきである。

3. 各国の対応の見通し

  • 議定書の実施にあたっての各国の国内措置はその裁量に委ねられている。各国で策定された措置によって、わが国の国内措置の内容によらず、大きな影響を被る可能性がある。

  • 政府には、欧州等の先進国における利用国措置、アフリカ・南米・アジア諸国等の新興国における提供国措置の状況や今後の見直しについて、詳細な情報の収集を図り公表すべきである。

4. 各国との連携・対話の見通し

  • 利益配分という事柄の性質上、今後も先進国と新興国との利害が対立することが十分考えられる。こうした事態に備え、先進国間の連携は不可欠である。また、生物多様性条約への主要な資金拠出国および生物多様性条約第10回締結国会議#3の議長国として、新興国との対話を通じ、理解を得る働きかけも重要である。

  • 政府には、それらの国との連携・対話の見通しについて明確にすべきである。

5. 政府としての対応

  • イノベーション促進の観点からは、わが国企業における遺伝資源を用いた研究開発の途が閉ざされないようにするためには、利用者としての経済的な負担を負うこととなったとしても、合理的かつ予測可能な範囲にとどまることが必須である。

  • 政府には、関係省庁間の連携を深め、速やかな意思統一を図り、わが国産業に与える影響を最小限度に抑えるための具体的対応について明確にすべきである。併せて、必要な国内措置についても検討を進め、早い段階で産業界との意見交換の機会を設けるべきである。

以上

  1. わが国を含む91カ国及びEU(欧州連合)が署名。その後、59カ国が締結(2015年6月現在)。なお、米国は不参加。
  2. 「生物多様性国家戦略2012-2020」(2012年9月閣議決定)において、「可能な限り早期に名古屋議定書を締結し、遅くとも2015 年までに、名古屋議定書に対応する国内措置を実施することを目指す」とされている。
  3. 名古屋議定書は、同会議において採択された。