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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 B7東京サミット共同提言

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B7東京サミット共同提言

〔仮訳(英文正文)〕
2016年4月21日
(PDF版はこちら

2016年4月20~21日、われわれ先進7か国および欧州の経済界首脳は東京の経団連会館に会し、世界経済や貿易・投資、デジタル革命、地球規模課題等について議論を行った。

われわれは、来月開催されるG7伊勢志摩サミットにおいて各国首脳が以下の提言を優先的に検討し、首脳宣言に盛り込むとともに、速やかに実行に移すことを強く求める。自由、民主主義、法の支配、基本的人権、市場経済といった基本的価値観を共有する課題解決先進国の集まりであるG7が、緊密な政策協調を通じて提言の実現に取り組むことにより、世界経済が安定的かつ持続的な発展を遂げることを強く求める。今やグローバルな課題の解決には新興国の関与が不可欠であり、G7以外のG20諸国にも、以下に掲げる考え方、方向に沿って行動するよう要請するものである。

1.強靭な経済と包摂的な成長の実現

  • 世界経済は、新興国経済の減速、原油価格の大幅な下落、その他の懸念を背景に金融資本市場に混乱が見られるなど、先行き楽観を許さない状況にある。また、EUとの関係をめぐる英国の国民投票に関わる不確実性は下振れ圧力となっている。こうした中、G7は、新興国を含めたG20各国の政策当局およびマーケット参加者とも緊密なコミュニケーションを図るべきである。
  • 同時に、G7各国が、金融政策のみに頼ることなく、経済の状況に応じて、持続可能性を確保しながら、機動的な財政政策を実施するとともに、生産性向上のための大胆な構造改革を断行することが、強靭な経済を達成する上では不可欠である。また、あらゆる分野で女性や若者が活躍する包摂的な社会を実現すべきである。さらに、G7として、以下に掲げる課題に着実に取り組むことが求められる。

(1)過剰生産能力の解消に向けた働きかけ

新興国における特定産業の過剰設備を原因とする輸出の急増が他国の当該産業に深刻な影響を及ぼしている現状を踏まえ、過剰生産能力問題を取りあげるとともに、過剰設備をもたらす市場歪曲的な補助金その他の政府支援措置を制限するよう働きかけるべきである。また、国際・多国間のレベルで十分に調整して対応すべきである。さらに、国有企業による物品・サービスの購入・販売に係る無差別待遇や国有企業に対する優遇措置に関する規律の確立に向けて協働すべきである。過剰生産能力に起因する市場の歪曲が見られる場合には、効率的な貿易救済措置も活用して対処するとともに、G7として協力すべきである。

(2)質の高いインフラ投資の推進

新興国・途上国において、インフラが、経済成長や連結性の向上等に重要な役割を果たしていることに鑑み、長期的な投資を後押しするインセンティブを生み出すべく、投資協定の締結および新興国・途上国の投資環境の整備を促すべきである。同時に国際開発金融機関との緊密な連携の下、地元経済への雇用の創出や環境保全にも貢献する、持続可能で質の高いインフラ投資を推進すべきである。また、これにより、質の高いインフラ投資の重要性、ならびに公的投資における高い効果と透明性に関する国際的な合意を形成すべきである。

(3)公平で現代的な国際課税システムの確立

企業間の競争条件を均衡化させ、経済成長に対する負の影響および追加的な事務負荷の最小化、納税者に対する二重課税の防止・排除、多国籍企業間で公平で現代的な国際課税システムの確立のため、G7はOECDが提案したBEPS勧告のグローバルな協調的実施のための包摂的枠組みを支持すべきである。とりわけ各国は、不開示を含む守秘、一貫性、適正な利用こそが国別報告事項の入手および利用の前提であることを改めて認識するとともに、既にコミットしている通り紛争解決メカニズムを一層効率化することが重要である。協調を欠く行動(例えば国別報告事項の公開に関する欧州委員会提案)は、不可避的に納税者にとっての不確実性を高め、国境を跨ぐ貿易・投資を阻害する。

2.貿易・投資に関するグローバル・ルールづくり

  • 根強い保護主義は世界貿易停滞の原因の一つである。近年、世界貿易の伸びは世界経済のそれを下回るレベルにまで減速している。新興国を中心に、強制的な現地化措置など新たな形態の保護主義が広がりを見せている。
  • 自由な貿易・投資は成長と雇用を創出するために重要であり、その環境整備は本来WTOが担うのが最も適している。しかしながら、昨年12月にナイロビで開催された第10回WTO閣僚会議ではドーハ・ラウンドの妥結に至らず、積み残しの課題に関する交渉を前進させることで一致する一方、今後の交渉の進め方については合意できなかった。また、WTO交渉アジェンダに新たな課題を載せるか否かについても合意に至らなかった。
  • ドーハ・ラウンドの残された交渉課題に区切りをつけることに努めると同時に、適切であれば複数国間による交渉も活用しつつ、新たな課題に取り組むことが不可欠である。
  • 具体的には、G7に対し、以下について迅速に取り組むよう求める。

(1)あらゆる保護主義への対抗

今後のG20サミットにおいて保護主義の抑止が最優先課題の一つとして取り上げられるよう促すべきである。あらゆる形態の保護主義を抑止するため、G20諸国へのスタンドスティル(新規の保護主義措置の不導入)合意を強化、恒久化すべきである。また、WTOの協定履行監視機能を強化する必要がある。

(2)メガFTA、複数国間協定の推進

日EU EPA、TTIPを野心のレベルを下げることなく速やかに合意すべきである。また、TPPの参加国は国内手続きを完了し、迅速な発効を確保すべきである。規制協力などを通じてメガFTAのルール(原産地規則を含む)ができる限り乖離することのないようにすべきである。また、サービスおよび環境物品に関する複数国間協定等の交渉については、経済界の利益を考慮する形で締結すべきである。さらに、これらの成果を最終的にはWTOの協定に反映すべきである。

(3)多角的貿易投資体制の再構築

多角的主義とWTOを引き続き自由な貿易投資の基盤とすべきである。第10回WTO閣僚会議の採択事項を速やかに履行するとともに、貿易円滑化協定を早期に発効させるべきである。また、ドーハ・ラウンドで積み残しとなった課題について、とりわけ市場アクセスに関する交渉の進め方に合意した上で、速やかに妥結すべきである。さらに、経済界との緊密な連携の下、新たな交渉事項やその効果的な進め方を見出すべきである。新たな交渉事項には、複数国間交渉やメガFTA交渉の成果や以下の分野におけるルールづくりも含める必要がある。特に投資に関し、外国直接投資の拡大を促すべく、G7は多国間での国際投資ルールの整備をリードすべきである。

  • -デジタル貿易(関税不賦課、越境データフロー、データローカライゼーションの禁止、ソースコード開示義務の禁止、デジタル製品の無差別化、デジタルを活用した越境サービスの分類等)
  • -投資(市場アクセス、保護、ISDS等)
  • -競争政策(国有企業の透明性向上、輸出補助金・輸入代替補助金の撤廃等)

3.デジタル革命の推進

  • 今日、デジタル技術を活用することによって、環境・エネルギー問題、安全で快適な都市開発、高齢化社会におけるヘルスケア等の諸課題の解決を志向する超スマート社会を実現することが可能になってきている。超スマート社会とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の新しい社会、即ち、“Society 5.0”である。
  • それを現実のものとできるか否かは、「21世紀の石油」とも言える生産・消費等に係るあらゆるデータを、いかに企業・業界・国境の壁を越えて収集・解析・活用できるかにかかっている。
  • デジタル時代を迎え、高速・大容量のITインフラを提供することも極めて重要な課題となっている。G7諸国は、緊密な官民連携の下、そうしたインフラ実証実験を促進することが求められる。
  • かかる観点から、G7に対し、とりわけ以下に取り組むことを求める。

(1)越境データフローの確保

国際的に提供されるデータサービスが保護主義的な規制により阻害・制限されることは避けなければならない。TPP協定の電子商取引章に規定されるように、関係国際機関の原則および指針を考慮に入れた各国の法的枠組みに基づいて個人情報を適切に保護することを前提に、自由な越境データフローを認めるとともに、国際的なルールづくりをリードすべきである。同時に、新興国を中心に顕著にみられるデータローカライゼーションの撤廃に取り組むべきである。

(2)サイバーセキュリティ対策の強化

“Society 5.0”の発展には、安全なサイバー空間の確保が必須である。世界中でサイバー攻撃による被害が深刻化している。G7はサイバーセキュリティに係る国際的な議論を主導し、官民を挙げた国際連携を推進すべきである。この点、既存の対話の枠組みをさらに充実させ、ベスト・プラクティスやサイバーセキュリティに関する専門性の共有、共同訓練、技術開発を推進することが効果的である。さらに、強力な安全対策を講じるため、官民が緊密に協力すべきである。

(3)データの公平な利活用に係る競争環境の確保

インターネットを通じたデータの公平な利活用が妨げられることのないよう、市場の状況を不断に監視し、競争環境を確保する必要がある。

(4)規制協力の推進

現行の規制・制度は必ずしも近年の技術革新を想定しておらず、イノベーションを阻害する事態も生じている。また、IoTのようにあらゆるものがつながる世界において、各国・地域独自の規格・基準は成長の阻害要因である。将来に向けて規格・基準の調和や相互認証等の規制協力を推進するとともに、第三国に協力の輪を広げていくべきである。

4.地球規模の課題解決に向けた政策協調

  • SDGs(持続可能な開発目標)が策定されてから初めて開催されるG7サミットとして、とりわけ以下の地球規模課題に主導的に取り組んでいくことが期待される。
  • 2016年4月22日に署名式が行われるパリ協定の成否は、全ての参加国による効果的な実施如何にかかっている。今後新興国・途上国においてより多くの温室効果ガス排出が見込まれることから、知的財産の十分な保護を確保しつつ、これらの国々もより低炭素の技術を導入することが極めて重要である。全てのG7諸国ならびに主要排出国にとって、気候変動問題の究極的な解決に資する革新的技術の開発・普及が不可欠である。
  • 持続可能な経済社会の構築にあたり、天然資源を効率的に利用することは重要な課題であり、積極的に推進する必要がある。産業界としても、資源効率や循環型経済を促進する取組みを強化していく。
  • エネルギー・アクセスが限られたアフリカをはじめ途上国において、低炭素成長・持続可能な開発の観点も踏まえ、無電化地域対策を積極的に実施していくことが喫緊の課題となっている。
  • さらに、グローバルヘルスを改善するために必要な行動が不断に変化する中、いくつかの感染症や非伝染性の疾病は、国際社会が経済界と緊密に連携して取り組むべきとりわけ喫緊の課題である。

<気候変動>

  • 全ての主要排出国によるパリ協定の速やかな実施を通じて、レビュープロセスの早期開始を確保することが極めて重要である。
  • パリ協定は気候変動へのグローバルな対応に向けた重要なステップであり、今後、具体的な行動に結び付ける必要がある。全ての主要排出国が参加する包括的な国際枠組みは、実効的な気候変動対策を講じる上で必要であり、グローバルな市場における公平な競争条件の確保や、予見可能性ならびに透明性の高い政策、開かれた貿易・投資の原動力となるものである。
  • パリ協定の成功裡の実施に対する経済界の重要性に鑑み、UNFCCCが民間セクターの経験と専門知識を活用できるよう、既存のビジネス対話に基づく経済界とのチャネルの制度化を模索すべきである。
  • 加えて、エネルギー効率が高く低炭素型の技術・製品等の商業ベースでの普及は、環境とエネルギー安全保障、経済を両立させつつ、地球規模での排出削減を実現する推進力となる。このため、環境物品等も含めた貿易障壁の撤廃に向けて国際的な取組みを強化する一方、知的財産の実効ある保護を前提とした、途上国への技術移転促進が実現する仕組みを構築する必要がある。
  • 世界の温室効果ガスを抜本的に削減するためには、既存の低炭素技術の導入促進と併せて、ブレークスルーとなる革新的技術の開発・実用化が不可欠である。ただし革新的技術には、基礎研究から開発・実用化までに巨額の費用と長い期間を要するものが多く、個々の企業や産業で全てのリスクを負うことは困難であることに鑑み、G7各国政府は、研究開発投資を拡大することが求められる。

<循環型社会>

  • 各国政府は、経済成長との両立に十分留意し、各国の文化や社会、経済の多様性を尊重しながら、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進など、ライフサイクルを通じた資源生産性を高めていく施策を推進すべきである。とりわけ環境配慮設計の促進など、企業の技術・製品開発の推進が重要である。また、企業をはじめ全てのステークホルダーの自主的取組みの有効性を認識すべきである。
  • 資源の効率的な活用のために、異業種間の新しい形の協力を促すべきである。この点、昨年のG7エルマウ・サミット首脳宣言により設置された「資源効率性のためのG7アライアンス」を活用していくことが有効である。

<アフリカの電化促進>

  • SDGsやCOP21において、エネルギーへの普遍的なアクセスに関する重要性が認識されたことなどを踏まえ、「アフリカ50」(アフリカ開発銀行とアフリカ22カ国により最近設立された汎アフリカインフラ投資プラットフォーム)や「アフリカグリッド」の取組み等、国際開発金融機関による広範な金融支援が行われている。こうした中、産業界としても、アフリカはじめ途上国における地熱資源の開拓と最新技術の適用、全ての効率的なエネルギー源の活用によるグリーン電源の開発促進、無電化地域における電化促進等、プログラムの具体化に向けて取り組んでいく必要がある。

<グローバルヘルス>

  • 健康は、豊かで安全な経済の土台である。ゆえに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を前提とした持続可能な医療制度を構築すべく、G7に主導的役割を発揮することが期待されることを歓迎する。
  • 併せて、パンデミックや動物由来感染症に関する国際的な危機管理体制や途上国の保健システムの強化に向けて取り組んでいく必要がある。
  • さらに、薬剤耐性(AMR)や顧みられない熱帯病(NTDs)への対応の一環として、満たされないニーズや新たな病原体に対する新薬・ワクチンの継続的な研究開発を促進するとともに、人間・動物に係る新たな薬の承認手続きの効率化や国際基準へのハーモナイゼーションが望まれる。
  • その際、ビッグ・データを活用し、新たな治療法の開発や患者中心の最適医療に供するなど、デジタル技術の進展をヘルスケア分野に応用するとともに、ICT企業とヘルスケア企業の連携を促すことが有効である。
  • 医薬品の開発のコストとリスクを担う民間セクターにとって、医療分野のイノベーションに対するインセンティブや、特許・知的財産の十分な保護および施行は重要な要素である。今日、社会に財政上ならびに心理上甚大な負荷を与えている感染症のような疾病について、その新薬やワクチンを確保すべく、公的セクターにおいても、民間セクターとの緊密な連携の下、研究開発を推進する必要がある。
以上

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