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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 BEPS行動8~10 利益分割に関する改訂ガイダンス 公開討議草案に対する意見

2016年9月5日

OECD租税政策・税務行政センター
 条約・移転価格・金融取引課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

BEPS行動8~10 利益分割に関する改訂ガイダンス 公開討議草案に対する意見

1.総論

取引単位利益分割法(PS法)の取り扱いの明確化はBEPSプロジェクトの残された課題の中でもPE帰属利得と並び最重要課題と認識しており、今回、OECD移転価格ガイドラインの具体的な改訂案が提示されたことを歓迎する。

PS法はOECDが公認する移転価格算定方法の1つであり、日本の企業実務においても、バイラテラルAPA(事前確認)を通じた双方合意に基づく適用を含め、相手国によっては一部経験がある。PS法の適用が妥当な場合において、納税者が十分なグループ取引情報をもとに自ら判断し、主体的に採用した場合には、課税関係の安定に資することもある。

一方、PS法には、国外関連者に係る情報の入手、取引に係る切り出し損益の算出、適切な利益分割ファクターの選定など、適用の難しさがあり、課税当局による恣意的な執行がなされれば、相互協議によっても紛争解決は困難となり、その結果、二重課税が解消されないという重大なリスクが存在することが経験上指摘されている。

また、コンパラを用いることなく国外関連取引に係る価格を設定するPS法の発想は、いわゆる定式配分方式に近接しており、独立企業原則を基礎とする移転価格ルールを曖昧にしかねない。したがって、我々はその無限定な適用拡大に懸念を表明するとともに、適用するにあたっては具体的なガイダンスの洗練が不可欠と指摘してきた。

今回の公開討議草案は、PS法が依然として極めて限定的な環境でしか適用されないことを示唆しており、方向性は評価できる。特に「コンパラの不足だけでは実際利益に対するPS法の使用を保証するには不十分である」(パラ18)との記述は、今後も最適手法アプローチを維持する観点から支持する。また、適用に際して「後知恵を避ける必要がある」(パラ3)とされたことも重要である。

ただし、公開討議草案では、いくつか説明の明確化、事例の拡充を要する部分がある。以下、具体的にコメントを行う。

2.各論

(1) 実際利益の分割と予測利益の分割

今回の公開討議草案は、現行のガイドラインに比べ、実際利益の分割と予測利益との分割の対比を際立たせ、特に前者について記述を拡充させている。実際利益の分割は、予測利益の分割に比べ、取引当事者による高水準のリスク・シェアを求めていることから、それだけ、適用ハードルが上がっているとも考えられ、その効果に注目するならば、両者の区分明確化は有用と言えるかもしれない。

ただし、実際利益の分割の事例(パラ5)が適切か否かについては判断が難しい。ここでは、A社がB社に無形資産の権利を譲渡するとともに、B社もA社に無形資産の権利を譲渡し、両社がそれぞれ双方の無形資産をコンビネーションで使用して製品を商業化していることが描かれているが、無形資産の本社集中開発を基本とする日本の多国籍企業ではあまり想定されていない取引形態である。また、A社・B社とも製造・販売を行っていると見られるところ、その機能の付加価値のウェイトによっては、PS法に頼らずとも他の一方向の手法によって適切な解決策を提供できるかもしれない。

一方、予測利益の分割については、さらなるガイダンスの拡充が必要である。公開討議草案では、国外関連取引における一方の当事者から他方の当事者への無形資産の権利の譲渡価格を決定するため、譲渡先における予測利益に対してDCF法を活用しつつPS法を適用することが描かれているが(パラ4)、事後の結果が予測利益と乖離した場合の対応を含め、どのように利益を分割するのか、所得相応性基準に関するガイダンスの策定作業とも関連すると思われるが、今後、数値を用いた事例が提供されることを期待する。

なお、各国は、公開討議草案において「利益に対する参照は、損失についても平等に適用されると解釈されるべきである」(パラ1)と記載されていることを再認識する必要がある。法域によっては、多国籍企業グループの利益率が検証対象企業の利益率に比べ高い場合にはPS法の適用によりその検証対象企業に利益の配分を求め、多国籍企業グループが赤字の場合又はその利益率が検証対象企業の利益率に比べ低い場合にはTNMMの適用によりその検証対象企業に最低利益の保証を行うといったプラクティスが見られる。このような一貫性のない移転価格算定方法の選択は慎むべきであり、さらなるガイダンスの拡充が望まれる。

(2) PS法の長所と短所

公開討議草案は、現行のガイドラインを基礎としてPS法の長所と短所を記述しているが(パラ11~15)、特に適用の難しさに代表される短所について、よく整理している。付け加えるならば、取引における無形資産の存否、その価値の測定についても、納税者と課税当局で争いが生じやすい、ということも指摘したい。また、「ほとんどの場合、課税当局は納税者の全面的な協力なしには情報を分析・証明することはできないだろう」(パラ15)とされている通り、PS法が納税者に多大な負担を強いることも改めて認識されるべきである。

この他、実際のPS法の適用方法の差による、その結果としての独立企業間価格における乖離の大きさも短所といえよう。こうした乖離リスクがあるからこそ、PS法がOECDにおいて事業体単位ではなく「取引単位」利益分割法とされていることに改めて留意する必要がある。

(3) リスクのシェア

公開討議草案では、実際利益に対するPS法の適用が最適手法かもしれないことを示すファクターとして、取引の当事者による「経済的に重要なリスクのシェア」を提唱している。潜在的に有益な分析枠組みと思われる一方、さらなる改善・明確化が必要と考えられる。

例えば、公開討議草案では、「実際利益に対するPS法の適用は、当事者が事業機会に関する同一の経済的に重要なリスクをシェアしているか、或いは緊密に関連するリスクを別々に負っており、それゆえ結果としての利益又は損失をシェアすべきという関係を反映している」(パラ16)との説明があるが、その解釈によっては広範な適用対象を許容するものとなりかねない。

まず、「経済的に重要なリスクのシェア」とあるが、多国籍企業グループの構成企業であれば大なり小なりリスクのシェアを行っている。何が「経済的に重要」かについては事実認定の部分もあるため、リスク・シェアの実態に着目してPS法の適用拡大が行われることを懸念する。

むしろ、PS法が適用されるほどに「経済的に重要なリスクのシェア」が行われている状況とは、より具体的には、「経済的に重要なリスクに関する支配機能をシェア」している状況と言い換えることができるかもしれない。そのような場合には事業活動の結果もシェアすることになるだろう。

また、「緊密に関連するリスクを別々に負っており」とあるが、何をもって緊密に関連するかについては、判断が分かれるところであると思われる。例えば一方の課税当局が親会社の開発・製造リスクと子会社の市場リスクは全く異なるものと判断していたとしても、他方の課税当局としてはグループを一体として見れば緊密に関連するリスクを別々に負っている、と見なすことになるかもしれない。「緊密に関連するリスク」の具体例の提供が必要である。

なお、多国籍企業グループの構成企業として事業結果をシェアする中で、結果としての利益又は損失を分析の出発点とし、リスクのシェアがあったと安易に認定を受けることが懸念される。もちろん、リスクは顕在化しない限り可視化しにくいものであるが、「実際利益の分割は、事業活動の結果やその結果に関連するリスクをシェアすることを要求する」(パラ9)としている部分も含め、事業結果のみに基づいた分析を行わないよう、ガイダンスを明確化すべきである。

(4) 高度に統合された事業活動

公開討議草案は、ある取引が高度に統合された事業活動の一部であるケースにおいて、重要なリスクのシェアが行われている可能性を示唆した上で、バリューチェーンにおける連続統合と並行統合の概念を提示し、後者において高度に統合された事業活動が見られるとした(パラ21)。

仮に親会社と子会社の機能・リスク・資産が異なり、明確な役割分担が行われている場合には、開発と改善、製造と販売などの関係を含め、連続統合が生じていると考えられる。このようなケースではPS法の適用が限定的になるという意味では、並行統合との区分は一定の意義があるだろう。

一方で、例えば親会社事業部と海外の販売子会社が協働して、バリューチェーン全体のPSI(生産・販売・在庫)を管理し、在庫の最小化と利益の最大化を図っているケースもあることから、概念的には連続統合と並行統合が混在していることもある。ただし、この場合でも、親会社と子会社の貢献が等価といえず、依然としてTNMMを中心とする片側検証でも充分に対応できることもある。

(5) ユニークで価値ある貢献

公開討議草案は、リスクのシェアは双方当事者によるユニークで価値ある貢献を伴うかもしれないとした上で(パラ19)、ユニークで価値ある貢献とは、独立当事者による貢献と比較可能でなく、経済的便益の主たる源泉となる貢献と定義した(パラ22)。

この定義は依然として恣意的な解釈を招くものとなっている。例えば、販売子会社がルーティン機能しか果たしていない場合においても、子会社所在地国の課税当局がマーケティング無形資産の存在を主張し、ユニークで価値ある貢献の認定を行うかもしれない。

このような場合には、まずは無形資産の有無や価値を検証すべきであり、TNMMやそれに調整を加える手法が本当に採用できないか、検討を行うことが重要である。OECDには、PS法に関するガイダンスの洗練に加え、コンパラの調整を含むTNMMの機能強化についても、引き続き検討を期待する。

なお、この事例において、仮に販売子会社にユニークで価値ある貢献が存在するとしても、「経済的に重要なリスクのシェア」(或いは我々の考えによれば「経済的に重要なリスクに関する支配機能のシェア」)が行われているかどうかについては、別の議論であると考えられる。一般的に、ユニークで価値ある貢献と経済的に重要なリスクのシェアの関係は正比例の関係にはないと思われる。

(6) グループ・シナジー

公開討議草案における「グループ・シナジーのみを理由として、当事者のトータル利益を合算し、PS法を適用する必要はない」(パラ23)との結論は合理的に見える。ただし、シナジーに起因する限界的なシステム利益を特定し、抽出するのは、特に定量化できない質的シナジーの場合、実務上、困難と思われる。グループ内企業に対する当該利益の配分方法を含め、具体的な事例の提供が必要ではないか。

(7) バリューチェーン分析

公開討議草案では、バリューチェーン分析は関連者間取引の描写を助けるツールとされ、PS法との関係についても一定の説明がなされていると思う(パラ24~27)。ただし、企業のバリューチェーンは様々である。すべてが関連者で構成されているわけではなく、非関連者も含んだ複雑なものになっており、単純にモデル化することは難しいことに留意する必要がある。

また、主たるバリュー・ドライバに関する機能・リスク分析など、マスター・ファイルと類似の内容も見られる。今回の公開討議草案は各国におけるバリューチェーン分析の法制化までは求めていないものと理解しているが、実際に法制化を行っている法域があるため、その速やかな明確化に期待する。

(8) 利益分割ファクター

原価ベースの利益分割ファクターに関するガイダンスの拡充を歓迎する。例えば、原価のリスク・ウェイトについては、開発の段階におけるリスクのほうが、改善の段階におけるリスクに比べ高いことが示されており(パラ51)、製造業のビジネス実感に合致する。

このセクションにおける課題は、リスクのウェイト付け、従業員補償原価の調整、ロケーション・セービングの分割に関する計算例の提供である。特にロケーション・セービングについては、「独立企業がどのように配分したのかという態様が利益配分において反映される必要があるだろう」(パラ52)としているが、比較対象分析においてどのように取扱うかを含め、具体的な指針がなければ国によって解釈に齟齬が生じるであろう。

以上

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