Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策  デジタルエコノミー推進に向けた統合的な国際戦略の確立を

2018年5月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.はじめに -Society 5.0の実現

現在、スマートフォン等のモバイル機器の爆発的な普及、クラウドやセンサーの活用拡大などを背景にして、社会のあらゆる場面でデジタルトランスフォーメーション(デジタル革新)が進み、革新的な製品やサービス、新たなビジネスモデルが次々と生み出されている。そして、デジタル化を通じて得られたモノ・ヒト・コトの膨大なデータはインターネットを介して瞬時に国境を越えて流通し、データによって可視化された課題やその解決法などの知識・知恵が共有され、新たな価値創造や社会的課題の解決に寄与している。

しかし、米中企業が中心となって革新的なデジタルサービス展開とさらなるデータ集中の好循環による躍進を続ける一方、わが国はデジタル化の波に乗り遅れていると指摘されている。わが国は、この遅れを挽回する切り札として、デジタルテクノロジーとデータを高度に活用して社会全体の最適化を図るSociety 5.0というコンセプトを掲げ、官民挙げてその実現に取り組んでいる。

経団連は、2016年以降、Society 5.0のコンセプトの明確化や具体的なプロジェクト提案、実現の基盤となる施策等について提言を取りまとめてきた#1。また、2012年以来、在日米国商工会議所(ACCJ)と共に、グローバルな視点から国境を越えるデータの流通、個人情報の保護と利活用の両立、サイバーセキュリティ等に関する産業界の意見を発信してきた#2

これらの提言を踏まえ、本提言では、デジタルエコノミーをめぐる状況を振り返りつつ、わが国が目指すべき方向性や具体的に取り組むべき施策、政府の戦略・推進体制のあり方などについて、とりわけ国際的な戦略に焦点を当てて示すこととしたい。

Ⅱ.デジタルエコノミーをめぐる基本的な認識

1.デジタルエコノミーの進展

デジタルテクノロジーは日々進歩を遂げ、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)・機械学習・ディープラーニング、ブロックチェーン、VR/AR/MR、5G、量子コンピューティング、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)などさまざまな革新的技術が生み出され、実用化されてきている。

デジタルテクノロジーやデータを活用した経済活動(デジタルエコノミー)は、今世紀、業態や規模に関わらずあらゆる企業にとって成長のエンジンとなってきたと言える。時価総額ランキングを見ると、米中のデジタルエコノミーに関連する企業が急成長を遂げ、上位を独占している#3。また、非上場で評価額が10億ドルを超えるユニコーン企業も米中のデジタルエコノミー関連企業がその多くを占め#4、その他多数のスタートアップ企業が生まれ続けている。

これら米中の企業は、言語話者数を多く抱える#5ことも背景に、主にスマートフォン利用者に対して、インターネットを介したサービスやアプリケーション(eコマースやソーシャルメディア、検索、FinTech、シェアリングエコノミー、APIエコノミー等)を提供してきた。そして、サービスを通じてクラウドに収集された個人データを活用することによって、さらにユーザー体験を向上させる革新的な製品・サービスの提供を続けている。生み出されるデータ量は年々増加し、データによってAI(人工知能)の技術を向上させて競争力をさらに高めるなど、データ争奪戦とも言われるグローバル競争が繰り広げられている。

2.デジタル時代の課題

膨大なデータの活用が世界経済の成長を牽引し、人々の生活を豊かにする一方、新たな課題も生まれている。

最も大きな課題としてプライバシーの問題が挙げられる。個人に関するデータが活用されることにより、その個人のニーズに合ったサービスが提供される一方、プライバシーが侵害されたり、悪用されたりするのではないかという懸念が広がっている。データが不正な目的で使用されることで、人々の行動を恣意的に支配する問題も生じている。さらに、サイバー空間は政府がコントロールすべきという考えのもと国家が一元的に他国のものも含めたデータを管理することなどがあれば、安全保障上の問題に発展することも懸念されている。

また、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代には、サイバー空間で価値が生み出される一方で、悪意を持ったサイバー攻撃の対象や起点が無数に広がるという、新たなリスクを抱えることとなった。サイバー攻撃によって、個人情報をはじめ知的財産、機密情報、金融資産が窃取されるばかりか、サービスの停止や物理的な機能障害などまでもが引き起こされている。価値創造とリスクマネジメントの観点からサイバーセキュリティ対策に取り組むことが必要となっている。

3.各国・地域による規制の動き

デジタルエコノミーの進展によりデータの流通量は年々増加しており、容易に物理的な国境を越えて流通することから、各国・地域の制度体系内に閉じた規制ではもはや規律できない。しかし現実には、各国によるデータ争奪の思惑に加えて、安全保障、政治体制維持、人権保護などの事情が複雑に絡み合い、データの越境移転を規制する「データローカライゼーション」に関する法制度の制定・施行の動きが、ブルネイ、中国、インドネシア、ナイジェリア、ロシア、ベトナム等で進みつつある#6(図表1 参照)。とりわけ中国は、2017年、インターネット安全法(サイバーセキュリティ法)を施行し、自国産業保護・育成や安全保障を口実にして、データの国外移転を禁止する政策をとり、東南アジア等の一部でも同様に国内へのサーバーの設置を義務づける法規制の導入が進みつつある。

〔図表1 世界的に広がりを見せるデータローカライゼーション〕
出典:ALBRIGHT STONEBRIDGE GROUP, "DATA LOCALIZATION: A CHALLENGE TO GLOBAL COMMERCE AND THE FREE FLOW OF INFORMATION"

また、プライバシー保護の観点から、個人データの越境移転等に条件を設ける規制も存在する。EUが従来の2018年5月に施行を予定している「一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」は、域外への個人データ移転、プロファイリングやデータポータビリティに関する厳しい規定を設けている。またEUは、電子通信データの保護強化を目的として、「eプライバシー規則」案の検討も進めている。

このように世界中で繰り広げられるデータ争奪戦に対して各国・地域でさまざまな対応がとられ、新たな世界秩序の構築が始まりつつある。

〔図表2 データに関する各国の基本戦略〕
出典:経済産業省「新産業構造ビジョン」

4.わが国の立ち位置

わが国の国際的な政策対応としては、G7・G20、その他の多国間の枠組みを活用し、基本的な価値観を共有する米欧などと協調して、情報の自由な流通の確保に取り組んでいる。2016年には、G7の枠組みで約20年ぶりの開催となるG7香川・高松情報通信大臣会合の議長国を務めた。近年、世界中にデータローカライゼーション規制が広がり、情報の自由な流通を主導してきた米国もトランプ政権への移行により保護主義的な動きを見せる中、わが国政府が果たしてきた役割は大きい。2017年に施行された改正個人情報保護法では、グローバル化への対応も図り、これをベースに現在、EUとの間で、日欧の制度下で個人データの双方向の自由な流通を確保する新たな枠組みの整備に向けて対話を進めている。

このように政策面で国際的な取り組みが進められている一方で、わが国の企業は高度経済成長期のモノづくりの成功体験に固執してデジタル革新に乗り遅れ、各国によるデータ争奪の動きに追いつけていない。米欧との比較においてのみならず、アジア太平洋地域15カ国を対象地域とした調査#7でも、わが国企業がアジアのリーダー企業に大きく遅れを取っている結果が示された。こうした現状への危機感を背景に、わが国でも2016年12月に「官民データ活用推進基本法」が施行され、国としてデータ活用を積極的に進める基本姿勢が示されるなど機運が高まりつつあるものの、世界のデジタルエコノミー市場の中で存在感を示せている企業は依然として少ない。バブル崩壊以降、世界の時価総額ランキング上位からわが国企業は姿を消し、ユニコーン企業も数えられる程度しかない。サイバー空間に関するマルチステークホルダーの議論に対応できている企業も多くはなく、国際的なプレゼンスを発揮できていない。

世界がデータ争奪にしのぎを削る中、わが国政府はデータの自由な流通の確保に向けて国際的な議論を主導しつつも、企業は世界の中での立ち位置を見出せていない状況にある。

Ⅲ.わが国がとるべき戦略

本章では、こうしたデジタルエコノミーをめぐる基本的な認識を踏まえて、今後わが国がとるべき戦略として「1.経済界が目指す方向性」、それを実現する「2.対外政策 -越境データ流通の確保」および「3.国内政策 -公平・公正な競争条件の確保」に関する考えを示した上で、「4.統合的な基本戦略と推進体制」の整備を提言することとしたい。

1.経済界が目指す方向性

(1)基本コンセプト -Society 5.0 for SDGs

デジタルエコノミーは世界の経済成長を牽引する一方、既存産業を破壊するデジタル・ディスラプションを起こしている。ディスラプションに直面するすべての既存企業は、自らも変革に対応・先導しなければ思わぬところから出現しデジタルテクノロジーを駆使した新たなビジネスモデルで従来のプロセスを破壊するディスラプターによって、一気に市場を奪われることとなる。わが国としても、次代を担うベンチャー企業の創出・育成に国を挙げて取り組みつつ、既存のあらゆる企業が破壊に対応し、デジタル革新を遂げなければならない。

デジタル革新を起こす上で、わが国が官民で進めるSociety 5.0が全体の基本コンセプトとなり得る。Society 5.0はデジタルテクノロジーとデータの活用により経済成長と社会課題解決の両立が図られた社会である。それは、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)が達成された社会でもある。特にわが国は少子高齢化や災害、エネルギー、地方衰退など困難な課題を抱える課題先進国であることから、課題解決のショーケースとなって、デジタルテクノロジーとデータを社会全体で活用し徹底的に効率化を進めることで、デジタル時代のフロントランナーに立つ余地は残されている#8

〔図表3 Society 5.0によるSDGs達成への貢献〕
(2)日本の強みを活かしたデジタルエコノミー

国内外に言語話者を多く有し、消費者向けに革新的なデジタルサービスを展開してきた米中と比べて、日本語の話者は少ない。その上、わが国はデジタルテクノロジーに不慣れな高齢者や現金志向の消費者が多いなど、国内外の消費者向けサービス展開が難しい状況にあった。今後、わが国のコンテンツ力も活かしたデジタルエコノミーの拡大によって、積極的に海外の市場を狙う姿勢が欠かせない。とりわけ世界的にまだテクノロジーとの融合が進んでいない産業(たとえば医療・介護・ヘルスケア#9、教育等)において主導権を握る余地は残されており、そうした分野を牽引するベンチャー企業の創出・育成に取り組む必要がある。

また、ヒト以外のモノやインフラなど実世界情報については、これまでわが国が競争力を保ち、データを蓄積してきている。今後、IoTの普及によって、わが国が強みを持つモノも含めた多様な産業のデータが実世界技術を起点に生み出され、データの主戦場が産業分野に移ることが予想される。おもてなしや職人技能などわが国が強みを持ってきた現場についても、経験則・暗黙知をデジタル化し、データ活用による効率化を進めることにより、より高度な技能やきめ細かいサービスを必要とする領域でさらに付加価値を高めることもできる。

このようにして得られたあらゆるヒト・モノ・コトのデータを、産業横断的なデータ流通・利活用のプラットフォーム上で連携し、社会全体で上手く組み合わせることによって、国際競争に立ち向かうことは十分可能と考えられる。その際、競争領域と協調領域をよく見極め、組織や産業の枠を越えた連携・オープンイノベーション#10に取り組む観点が必要不可欠である。米中欧などとのグローバルな協調・連携を念頭に置くことも重要である。

また、デジタル時代に課題となるプライバシーとサイバーセキュリティの確保において、「安全・信頼・高品質」といった日本の強みが真価を発揮する。企業が個人データの活用を進める際には、国内外の各種法令等を遵守しプライバシー保護を徹底するとともに、消費者に対する丁寧な説明により信頼を獲得し、それを競争力向上につなげるべきである。サイバーセキュリティ確保に向けては、「経団連サイバーセキュリティ経営宣言」#11で掲げた趣旨に則り、経営者のリーダーシップのもと安心・安全なエコシステム構築への貢献を図っていくことが求められる。

2.対外政策 -越境データ流通の確保

(1)データローカライゼーション規制の撤廃の働きかけ

デジタルエコノミーを世界に展開する上で大前提となるのが、越境データ流通の確保である。デジタルエコノミーの基盤はデータがインターネットを介して瞬時に国境を越えて流通することにあり、グローバルな展開によって世界中の人々に利便性の高いサービスを提供できることに意義がある。今後、デジタルサービスを展開し、モノやヒトに関わる多数のデータをクラウドなどで扱うにあたって、国境を越えて情報が自由に流通できることはビジネスの大前提となる。

中国インターネット安全法(サイバーセキュリティ法)に代表されるデータローカライゼーション規制は、国外企業に追加的なコストや過度なビジネスリスクを生じさせる非関税障壁となりうるばかりか、規制国の経済成長を阻害する要因となり得る。なお、TPP協定の電子商取引章は、国境を越える情報の自由な移転の確保やサーバー等のコンピュータ関連設備の自国内設置要求の禁止、ソースコード開示要求の禁止等を規定している。アジア太平洋地域をはじめとする新興国に過度な規制がスタンダードとして広がることのないよう、TPP協定の考え等をベースにして、わが国政府がリーダーシップを発揮し、各国と協力して規制の緩和・撤廃を働きかけるべきである。

(2)グローバルな制度の構築・調和の重要性

越境データ流通を基盤としたデジタルエコノミー推進による持続可能な世界の実現のためには、過度なプライバシー保護あるいは軽視の両極に陥ることなく、個人データの活用と保護の両立によって、イノベーションを起こし続けることが重要である。その観点から、イノベーションとプライバシー保護のバランスをとりながら個人情報を含むデータが国境を越えて流通する制度・仕組みを、グローバルスタンダードとして構築していくことが求められる。高いプライバシー保護意識を備えつつも、イノベーションとのバランスを重視するわが国は、これを主導するにふさわしい国といえる。官民が一体となって諸外国の立場を見極めながら、同じような立場をとる国々との連携を深めつつ、徐々に各国間の隔たりを埋め歩み寄りを図るべく、マルチステークホルダーによる対話を重ねていかなければならない。APECやTPP等の地域圏で、個人情報を含むデータが適切に保護されながら国境を越えて流通する仕組みが拡大されることへの期待も大きく、これらの枠組みにおいてわが国が果たすべき役割も大きい。

また今後、IoTの普及により、生み出されるデータは多様なものになり、個人と結びついたモノのデータも多数生み出される。こうしたデータの取り扱いやプライバシーとして守るべき情報の範囲に関する議論も重視すべきである。

プライバシーに関する制度のほか、安心してデータを活用できる環境確保に向けて、サイバーセキュリティやインターネット公共政策の議論などサイバー空間をめぐる諸課題に対し、イノベーションや企業活動を促進する方向で、グローバルな視点で制度の調和を進めていく必要があり、わが国政府のイニシアチブを期待する。

(3)例外として守るべき情報の特定と不正流出の防止

サービス貿易に関する一般協定(GATS)では、プライバシー保護等に関する一般的例外と安全保障のための例外が規定されている。

わが国としてデータの自由な流通に向けて国際的に調和のとれた制度の構築を主導する一方で、国家機密や安全保障に係る情報など例外として越境移転が望ましくなく、守るべき情報を特定し、国としての方針を策定することが必要である。また、不正に個人情報や営業秘密が国外流出することなどを防ぐため、契約による保護のほか、不正競争防止法、不正アクセス禁止法、個人情報保護法等の既存の法令の規定を適正、明確かつ透明に適用・執行することにより、実効性のある保護を図ることが重要である。

3.国内政策 -公平・公正な競争条件の確保

(1)デジタルイノベーションを創出する法制度・環境の整備

インターネットを通じたサービスは、容易に国境を越えて提供されるため、わが国の消費者に向けて国内外の企業が同一のサービスを提供し、データを収集することができる。デジタル時代に未対応の法制度が存在し、わが国企業のみに規制が適用されることなどがあれば、わが国発のデジタルイノベーションの阻害となりうる。デジタルエコノミー促進の観点から、「官民データ活用推進基本法第七条」に明記されている「政府は、官民データ活用の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。」の趣旨にも則り、不適切な規制が障害となることのないよう、適時適切に制度や規制を見直す必要がある。

また、改正資金決済法の施行により世界に先んじて暗号通貨(仮想通貨)への法的対応を行ったように、新たに生まれるイノベーションを促進する観点から制度・規制を適切に整備し、世界を先導していく姿勢も必要である。AI(人工知能)の開発や利活用に関しても、原則等を官民で検討することで、適切にイノベーションを促すことが重要である。こうした新たな技術への対応は即座に完全なものを導入することは困難であり、アジャイルに試してフィードバックし、適宜修正を施していくことが求められよう。

(2)厳密かつ透明な法執行・適用

消費者はインターネットを通じたサービスを国内外の事業者を問わずに利用するため、執行や適用に関しては国内外を問わず厳密かつ透明に行うべきである。消費者保護の観点からはもちろん、国内外の事業者が同一条件下で適切にデータを扱い、公正・公平に競争できる環境確保という観点からも重要である。たとえばEUのGDPRは、日本を含むEU以外の企業への適用の規定も設けられており、同様にしてわが国の法制度についても適用範囲の見直しや厳格な適用を検討する必要がある。

(3)周辺環境の整備

わが国発のデジタルエコノミーが生まれやすくするためには、公平・公正な競争条件の確保の観点から、法制度整備のほかの周辺環境の整備が必要となる。たとえば国内のデータセンターの運用には多額のコストがかかっており、競争上不利な条件となっている。特に電気料金#12は、主要国と比して非常に高い水準に留まっており、国内サーバー市場拡大の阻害要因となっている。クラウドを活用したデータビジネスが一層拡大し、さらには、ブロックチェーン・暗号通貨関連市場の勃興も見込まれる中、エネルギーコスト・土地代等の周辺環境のコストを国際的に見て遜色ない水準とすることも重要である。

また、国境を越えるデジタルエコノミーが進展する現状を踏まえ、税制等のあり方の見直しの要否を含めて検討を重ねることが必要となろう。

4.統合的な基本戦略と推進体制

(1)統合的な戦略の確立

わが国の成長戦略としては、2017年6月に、Society 5.0の実現を中心とする「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革」が策定され、IT戦略としては「官民データ利活用社会」を目指す「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が策定されている。また、経済産業省は「新産業構造ビジョン」を策定し、「Connected Industries」というコンセプトを提唱している。これらは目指すべき社会像としては同趣旨のものを想定しながら、各府省で別々のコンセプトが打ち出され、戦略間の整理もなされていない。

デジタルエコノミー推進とデータ獲得に向けたわが国の基本方針・戦略と各府省の役割分担を明確に定め、打ち出すコンセプトを統一した上で、統合的な戦略を確立すべきである。その際、既存の戦略において欠落している、または優先順位が低く位置づけられている国際戦略を、最新の国際情勢を踏まえて明確に打ち出し、優先度を高く位置づける必要がある。

(2)情報経済社会省(デジタル省)への統合

政府として戦略が統一されない理由は、情報・デジタル関連分野を扱う組織が各府省に散在しており、それぞれの根拠法令に基づき戦略が策定されていることにある。急速に進んだデジタル化によって分野の垣根がなくなりつつあるため、複数府省により類似の関連施策が統合されないままに別々のプライオリティに基づいて実施されている。さらに施策推進と予算配分・役割分担の司令塔機能を果たすことを目的に内閣官房に設置されている戦略策定組織も、予算権限に乏しく施策実行のリーダーシップを発揮することができていない。

また、国際的な政策に関しても、複数省庁により類似施策が未整理のまま実施され、対外的な窓口や役割が不明瞭となっている。こうした状況もあってか、G7の情報通信関係の大臣会合においても、わが国のみ二つの省(総務省・経済産業省)から代表者が出席している#13

経団連は、情報・デジタル施策の一体化に向けて内閣官房機能の強化を繰り返し求めてきたが、現在各府省に散在している情報通信・デジタルエコノミー等の関連政策を一元的に所管し、標準化や国際展開等も含めた施策や予算措置を迅速に推し進める省として、情報経済社会省(デジタル省)を創設(図表4)すべきである。同省には、知的財産やデジタル外交、地方自治体も含めた政府業務のデジタル化、他省庁所管分野のデジタル化支援等も強力に推し進めることが期待される。

併せて、個人情報保護の重要性の高まりを鑑みて、個人情報保護委員会の体制強化も図るべきである。

省庁再々編には議論と時間を要するが、デジタルエコノミーをめぐる状況は日々刻々と変化するため、統合を待たずして各府省による優先順位の共有、施策連携、役割分担にさらに取り組み、わが国が官民のマルチステークホルダーの連携のもと一体となって施策を推進できる体制を改めて整備することが必要である。

〔図表4 情報経済社会省(デジタル省)への統合〕
(3)戦略に基づく国際対話・連携

統合的な基本戦略と推進体制を整備した上で、越境データ流通の確保などに向けて各種の国際対話を有効的に活用し、戦略的パートナーシップを構築することが求められる。その際、各国・地域の規制強化のトレンドを長期的視点で捉え、対応を図っていくことが重要である。

具体的には、米国やEU、英国、中国、東南アジアをはじめとする各国当局やステークホルダーとの間で戦略に基づく対話を重ねて連携を図るとともに、G7やG20、WTO、OECD、APEC、TPP等の多国間の枠組みを活用し、より高いレベルでバランスのとれた制度の構築や調和に向けて日本政府が主導的役割を果たすことを期待する。特に2019年に大阪で開催するG20サミットでは、デジタルエコノミー分野における議論を日本政府が主導することが求められる。

経済界としても各国のステークホルダーとの協調を通じて議論の後押しに貢献するとともに、国際会合等でのマルチステークホルダーの議論において特にデータの自由な流通の確保などに関するテーマ提起や議論の牽引など、早い段階から積極的に参画し、貢献していく。また、具体的な事例を示すことでより良い社会の実現を訴えかけていかなければならない。

こうした取り組みによりわが国の官民が一体となって、ルールメイキングを主導していくことが望ましい。

Ⅳ.おわりに

デジタルエコノミーは組織や産業、国境などのさまざまな壁を越えたつながりを実現することで、革新をもたらしてきている。各国はデジタルエコノミー政策を国の最重要戦略と位置づけて官民一体の取り組みを進めており、デジタル化によって世界が日々大きく変動している。直面する危機から目を背け旧来の制度・慣習・権益を維持し、改革を先送りしていては、日本に未来はない。

わが国としてもデジタルエコノミー政策を国家戦略の中心に据えて推進することが期待される。企業は、国民生活の質を向上させるサービスを生み出し、消費者の信頼を築きながら、デジタルトランスフォーメーションに向けた積極経営に取り組む必要がある。

経団連としては、企業と企業を支える個人や地域の活力を引き出し、日本経済の自律的な発展と国民生活の向上に寄与するという使命を果たすためにも、Society 5.0の実現に向けてデジタル革新によるイノベーションを自ら推進・主導していくとともに、グローバルな議論への参画を続けていく。

以上

  1. 経団連「新たな経済社会の実現に向けて~『Society 5.0』の深化による経済社会の革新~」(2016年4月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/029.html
    経団連「Society 5.0実現による日本再興~未来社会創造に向けた行動計画~」(2017年2月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/010.html
    経団連「Society 5.0を実現するデータ活用推進戦略」(2017年12月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/104.html
    経団連「Society 5.0実現に向けたサイバーセキュリティの強化を求める」(2017年12月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/103.html
    経団連「Society 5.0の実現に向けたイノベーション・エコシステムの構築」(2018年2月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/010.html 等を参照。
  2. 経団連・ACCJ「日米IED民間作業部会共同声明2016」(2016年2月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/015.html
    経団連・ACCJ「インターネットエコノミーに関する日米政府への共同書簡」(2017年4月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/031.html 等を参照。
  3. 米国のAppleが1位、Alphabet(Google)が2位、Microsoftが3位、Amazon.comが4位、Facebookが8位、中国のテンセント(騰訊)が6位、アリババ(阿里巴巴集団)が7位(2018年3月末)。
  4. 米国のUberやAirbnb、中国のディディチューシン(滴滴出行)やシャオミ(小米科技)など。
  5. 言語別使用人口として、中国語を母国語とする人口は約12億人を超え、第二言語としても約2億人が使用していると言われている。英語を母国語とする人口は約4億人、第二言語として約14億人が使用しているとも言われる。一方、日本の人口は約1億2700万人程度である。
  6. ALBRIGHT STONEBRIDGE GROUP, "DATA LOCALIZATION: A CHALLENGE TO GLOBAL COMMERCE AND THE FREE FLOW OF INFORMATION" (September 2015)
    https://www.albrightstonebridge.com/files/ASG%20Data%20Localization%20Report%20-%20September%202015.pdf
  7. IDC InfoBrief, "Unlocking the Economic Impact of Digital Transformation in Asia (アジアにおけるデジタルトランスフォーメーションの経済効果調査)" (2018年2月)
    「データ活用による売り上げやビジネスの拡大」「プロセス・サービス効率」「製品・サービスのイノベーション」などの項目で遅れている。
  8. 「Society 5.0 for SDGs」を実現するビジネスモデルについては、「『Society 5.0実現ビジネス3原則』による新たな価値の創造~『知財戦略ビジョン』策定に向けて~」(2018年5月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/042.html を参照。
  9. ヘルスケア産業などにおいても世界でデータ争奪の攻防が繰り広げられているが、まだ勝負はついていないと言える。経団連「Society 5.0時代のヘルスケア」(2018年3月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/021.html で掲げたような取り組みを進めることが必要である。
  10. 具体的な考えは、経団連「Society 5.0の実現に向けたイノベーション・エコシステムの構築」を参照。
  11. 「経団連サイバーセキュリティ経営宣言」(2018年4月)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/018.pdf
  12. 経団連「今後のエネルギー政策に関する提言 -豊かで活力ある経済社会の実現に向けて-」(2017年11月14日)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/090.html
  13. 総務省「G7情報通信・産業大臣会合の開催結果」(2017年9月)
    http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin06_02000103.html
    経済産業省「平木経済産業政務官がイタリア共和国へ出張しました」(2017年9月)
    http://www.meti.go.jp/press/2017/09/20170927001/20170927001.html
    Industry and ICT Ministerial Meeting
    http://www.g7italy.it/en/industry-and-ict-ministerial-meeting