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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 国別報告事項の2020年レビューに関する公開諮問文書に対する意見

2020年3月6日

OECD租税政策税務行政センター
 国際協力・税務行政課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

国別報告事項の2020年レビューに関する公開諮問文書に対する意見

1.はじめに

国別報告事項(CbCR)に対しコメントする機会に感謝する。

BEPSプロジェクトのもとで、事業者のコンプライアンスコストを考慮に入れつつ、税務行政の透明性向上を図るという観点から、多国籍企業グループに対して、ハイレベルなリスク評価を行うCbCR及びマスターファイル、ローカルファイルの3種類の文書を税務当局に提出または準備することとされ、その際、各国がCbCRの「守秘・一貫性・適切な利用」という入手及び利用の条件を確実に遵守し、OECDとしてその執行状況をモニタリングすることとされた。この移転価格文書化の取り組みは非OECD加盟国も含め、関係国間での移転価格文書に係る認識の統一を図るうえで、一定の役割を果たしつつあると評価できる。

もっとも、3種類の文書に必要な情報を特定し、収集・整理する企業の負担は決して軽くはない。マスターファイルについては各国における個別の記載事項・言語にも対応しなければならない。今回のレビューにあたっては、CbCR、マスターファイル、ローカルファイルという移転価格文書の3層の構造を踏まえ、相互の役割分担を前提として、記載の重複を排除し、事務負担を軽減するという視点が重要になる。ハイレベルなリスク評価を行うCbCRの記載事項が必要以上に求められれば、事務負担が重くなるだけではなく、CbCRの適切な利用という制度の目的に沿わない各国の恣意的な運用・課税につながるおそれがあることを強く懸念する。CbCRにのみ頼った制度は健全ではない。CbCRへの対応は日本企業にとっても大きな課題となったが、日本企業の税務ガバナンスの構築に資するものとなっている。CbCRは制度の安定化の段階であり、拙速な見直しは避けるべきである。また、仮に見直す場合であっても十分な移行期間を設けるべきである。

なお、EUで依然として検討課題とされているCbCRの公開提案については、CbCRの守秘という条件に反するものであり、引き続きこのような公開の動きには同意しない。

これらを踏まえ、以下、各質問項目についてコメントする。

2.質問項目への回答

(1) 2. CbCRの適切かつ効果的な使用

CbCRの最初の提出からまだ多くの年数が経過したわけではなく、実際に各国の税務当局から問い合わせを受けている企業は多くはない。適切かつ効果的な使用に関しては、引き続き継続的なレビューが必要となる。

企業としては情報の秘匿性の観点から、最終親会社所在地国当局を通じた条約方式による情報提供が望ましいと考えている。多国籍企業グループの進出先国で守秘・適切な利用がなされていないことを原因として、CbCRのピアレビューで勧告を受けている場合、権限ある当局間の合意(CAA)が結ばれず、最終親会社所在地国の当局から情報提供がなされない場合がある。守秘・適切な利用は各国がCbCRを活用するうえでの前提であり、このような国に対しては、勧告に従った改善がなされるまでの間、当該国に所在する子会社を経由したCbCRの提出を猶予できるとする必要がある。

(2) 3.BEPS行動13最終報告書の他の要素

マスターファイルについては、当初より懸念を伝えた通り、いくつかの国でOECDのテンプレートを大きく逸脱した各国独自の様式が乱立しており、各国毎に対応したマスターファイルを作成する手間が大きくなっている。具体的には、(1)子会社の名称、住所及び役員の情報、(2)連結総売上高または総資産、もしくは利益の少なくとも10%以上を占めるグループ会社個社に係る機能、資産及びリスク分析、(3)親会社の大株主の株主名及び持ち分比率、(4)研究開発以外の重要な役務提供に関する取り決めの詳細、(5)グループファイナンスに係る取引当事者名、元本、金利などの具体的な情報、(6)全世界の研究開発活動の人員状況等、(7)非関連の借入先上位10社、(8)二国間APAに関する情報等の記載を求めているケースなどの各国独自のルールが存在する。少なくともマスターファイルの提出を制度化している国に関しては、ミニマムスタンダード化することも視野に、様式・記載事項を統一し、親会社が作成した一つのマスターファイルを修正することなく提出すれば足りるようにすべきである。ファイル形式の指定や字数制限などを各国が個別に追加することも、統一的な取扱いの妨げとなる。

また、提出期限について会計年度末から数ヶ月での提出を要求する国もあり、企業としては、短い期限に応じて内容をとりまとめて提出せざるをえず、負荷が大きくなっている。提出期限についても最終親会社所在地国の提出期限が各国で尊重されるようにすべきである。

あわせて、翻訳に係る事務負担や内容の齟齬を回避する観点から、各国で英語での提出を許容すべきである。

(3) 6.連結グループの収入金額基準のレベルを下げる必要があるか。

BEPSプロジェクトの行動13の最終報告書のなかで、連結グループの収入金額の基準について、企業全体の収入金額のおよそ90%を占めるものとして、750百万ユーロという閾値が提示されていた。今般、閾値を下げるべきということを合理的に説明できる新たな事象が生じたとは考えていない。収入金額基準の引き下げは慎重に検討すべきである。グループ収入金額が比較的少ない企業グループ全体では、人員・資金のリソースも十分ではないため、規模の大きい多国籍企業と比べ移転価格文書化に対応する負担が相対的に重くなる。また、これらの規模の小さい企業グループでは海外での売り上げも相対的に少ないことが想定されるため、租税回避のリスクも大きくなく、ハイレベルなリスク評価の対象とする必要性についても大いに疑問である。

連結グループの収入金額基準は、現在、BEPS包摂的枠組みで検討中の経済の電子化に伴う課税のあり方の見直しに係る第1の柱の利益A及び第2の柱における所得合算ルールの閾値としても参照される可能性があり、新たな課税の対象となる企業を絞り込むという観点からも、基準は変更しないことが望ましい。

(4) 7.ユーロ以外の通貨で示された連結グループの収入金額基準を有する法域は、定期的に基準をリベース(再設定)することを要求または許可すべきか。

閾値を随時に見直すとした場合、収入金額が閾値の前後にある会社が毎年報告の要否を検討しなければならないおそれがあり、実務上負担となる可能性がある。CbCRが制度の安定化の段階にあることを踏まえれば、基本的には当面、見直す必要性は乏しく、見直す場合でも、例えば見直しの期間は5年超、かつ、数値の乖離が10%を超えた場合に限定するなど、一定の基準を安定的に活用できるように見直すことも一案だと考える。

(5) 11.MNEグループの直前の会計年度が12ヶ月以外の期間である場合、連結グループ収入金額の閾値(または、直前の会計年度の連結グループ収入金額)を調整して、除外すべきMNEグループかを決定すべきか。

直前決算期の長短の影響は排除することが基本的には望ましい。12ヶ月以外の事業年度について調整を行う場合には、その方法を簡易なものにする必要がある。

(6) 12.表1の情報は、国(法域)ごとではなく事業体ごとによって提示されるべきか。

CbCRの制度趣旨はハイレベルなリスク評価を行うことにある。その趣旨を逸脱し、詳細な移転価格分析を行うことなしにCbCRに基づいた課税を行うなど、不適切な利用がなされるおそれが高くなるおそれがあるため、事業体アプローチには賛成できない。また、課税当局からの質問・調査が増加するおそれがあることも懸念する。

子会社が孫会社とサブ連結を行っている場合に、それぞれの構成事業体のレベルの情報を取得することは困難である。仮に情報を取得しようとする場合には、システムの抜本的な改修が必要となる。また、現地で子会社が連結納税を行っている場合には、税金費用の各子会社への分配など、追加的な事務負担も発生する可能性がある。また、事業体別になれば、現地通貨による情報の提供を求められるという懸念が払しょくできない。子会社方式のリスクがあるなかで、情報の秘匿性の観点から、子会社等を経由して各事業体の情報を提出することにも懸念がある。個別の事業体の情報は各国の税務申告書や他の移転価格文書で確認すべきであり、ハイレベルのリスク評価のための文書であるCbCRには不要と考える。

(7) 13.表1では、合計データ(aggregate date)ではなく連結データ(consolidated data)を使用する必要があるか。

合計データを連結データに見直すことについては、実務負担が非常に大きく、実施が難しいため、賛成できない。

国ごとの連結は現在の実務では行っておらず、負担の大幅な増加が避けられない。企業実務では、ビジネスラインごとに会計データ等の情報をとりまとめて、業績を管理していることが多く、国ごとの連結データは基本的に存在しない。また、企業のビジネス上、有用なデータでもない。

連結したデータを採用する場合、同一国内における関連者間の取引に係る収入金額や未実現損益、資本金額を特定し、相殺して消去する必要がある。関連者間の取引と非関連者間の取引を区別する必要が生じるため、取引レベルまで遡った区分が求められるが、独自のシステムの開発が必要となり、多大な負荷が生じることになる。国をまたいだサブ連結を複数行っている企業もあるため、その整理の作業も非常に煩雑となる。

CbCRの集計対象となる構成会社に関しては、重要性を理由に会計上の連結対象から除外された子会社も相当数が対象に含まれることとなるが、それらの非連結子会社については、会計上、連結消去に関する情報を収集していないため、新たに情報を収集するための負担が生じる。多国籍企業の子会社数は1,000社に達する場合もあり、非連結の子会社の数についても相当数に上る(全事業体数の2割を超えるケースもある)。非連結の子会社は、一般的に小規模の会社であるため、紙で保管している関連者間の取引データを識別・電子化する必要があり、情報の収集・集計には多大な負荷を要することになる。また、関連者の国外PEとの取引を把握することは実務上非常に困難であり、構成会社各社において、取引データを細分化して管理する必要が生じるため、負担が大きい。

なお、同一国の構成事業体間の未実現利益の額が大きい場合には、税引前利益と発生税額との比較による実効税率分析が困難となる場合があることにも留意すべきである。

(8) 14.表1に列を追加する必要があるか。

現在、とりわけ、関連者・非関連者に対する使用料所得や役務提供所得および関連者・非関連者に対する利子、使用料、役務提供に係る費用については、親会社及び子会社のシステムにおいても把握していないことが多い。また、利子所得についても現状、収入金額で関連者・非関連者ごとのデータの収集をしていない企業とっては、システム改修費用が負担となる。会計上の勘定科目と合致しない項目もあり、追加的に集計する場合には、事務負担やシステム改修に係る費用が増加することになる。事務負担を軽減する観点から、少額の場合には記載を省略できる閾値を設けることも検討すべきである。

追加的に記載する事項について、CbCRのハイレベルなリスク評価のツールという性質を超えて、課税の直接の根拠とされるおそれがあることを懸念する。利益分割法の分割ファクターとして考慮されれば、税務当局と納税者の間での紛争の増加につながることとなる。

追加される項目の定義や範囲についても明確化される必要がある。例えば、研究開発費用とは、会計上の研究開発費を指すのか、税法上の研究開発費を指すのか明確ではない。また、親子間で研究開発の委託・受託を行っている場合に、どちらで記載するのか明確にする必要がある。

なお、繰延税金は回収可能性に基づく、評価性引当金の変動により影響を受けるため、必ずしも実効税率分析の観点で役立つわけではないことにも留意すべきである。

(9) 15.どの税務上の法域にも所在していない構成事業体をCbCRのために分類する方法と、これらの事業体に関する情報を表1に報告する方法について変更する必要があるか。

透明な事業体及びその他の無国籍の事業体について、その属性に基づき個別に報告を行うことについては、事務負担の観点から課題が多い。企業実務を踏まえ、負担の少ない方法を検討すべきである。

(10) 16.BEPS行動13最終報告書のCbCRテンプレートに含まれていないXMLスキーマに必要なフィールド(納税者番号など)をテンプレートに組み込む必要があるか。

XMLスキーマで求められている納税者番号について、現在の実務でも当該情報を収集しており、CbCRのテンプレートとして組み込むことは制度の明確化に資する。

また、関連する論点として、構成事業体に関する税務当局への通知のタイミングがある。BEPS最終報告書のモデル立法例のなかで事業年度末を通知期限としているものの(3条)、立法例が括弧書きで表示されている通り、実際の立法では事業年度末にこだわらず、後ろ倒ししている国も多く存在している。会計上の連結子会社はCbCRの構成事業体に該当するところ、連結決算の実務上、連結子会社が確定するのは事業年度末の翌月以降となるため、事業年度末時点の情報だけで構成会社等を確定させるのは困難であり、当該モデル立法例については事業年度末までの通知を一律に求めるものではないことを明確化すべきである。

(11) 17.標準化された業界コードを表2に含める必要があるか。

SICコードなどの詳細な産業分類を追加することになれば、最終親会社において、統一的な産業コードへの該当に係る確認のプロセスが発生することとなり、手順が複雑化し、事務負担が非常に大きくなる。複数の事業を行っている場合、どのコードに該当するのか、特定が困難である。そもそもCbCRはハイレベルのリスク評価を行うものであり、CbCRで提供される情報は広範であるべきではない。また、CbCRで情報を出すことでローカルファイルの記載と解釈の齟齬が生じ、無用な紛争を生じさせることを懸念する。

(12) 18.表3に、フリーテキストに加えて、所定のフィールドを追加する必要があるか。

フリーテキストが引き続き活用できるのであれば、記載事項が標準化することで、様式3の内容が簡素化することには賛成できる。もっとも、追加的な実務負担を避ける観点から、追加する内容は親会社がすでに把握している情報を前提とすべきである。具体的には、例示1の使用した会計原則、例示2の情報ソース、例示6の還付金が含まれている勘定、例示7のマイナスの利益剰余金の有無など、ガイダンスで記載が求められ、かつ、適否が明確に判断できる内容に限るべきである。また、マスターファイルなどとの記載の重複は避けるべきである。

以上

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