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Policy(提言・報告書) 経済政策、財政・金融、社会保障 少子化対策の今後の推進に向けて

2020年5月26日
一般社団法人 日本経済団体連合会
人口問題委員会企画部会

政府が5月1日に公表した少子化社会対策大綱案(以下、大綱案)のとおり、少子化の進行と人口減少は深刻さを増している。わが国の出生数は、2019年に90万人を割る見込みであり、総人口は2008年以降、減少し続けている。少子化の進行、人口減少は、たとえば、労働力人口の減少、消費需要をはじめとする国内市場・経済の縮小、地域や社会の様々な活動の担い手の減少、社会保障の将来の支え手の減少等、わが国の将来の経済社会の構造に大きな影響をもたらすことが強く懸念される#1

少子化対策は政策効果が現れるまで20年程度の長期の時間を要し、大綱案のとおり、時間的な猶予はない。深刻な少子化の進行と人口減少に対する危機意識を今一度、社会全体で高め、具体的な行動を一体的かつ継続的に進めることが欠かせない。若い世代に寄り添い、「働きながら希望する数の子どもを産み育てることが経済的にも社会的にも尊重される社会」の実現を今後の対策の基本的な考え方として掲げるべきである。

この考え方のもとで、若い世代の希望の実現、さらには中長期的な人口の安定に向けて、少子化対策とさらなる働き方改革を一体的かつ継続的に進めることが極めて重要である。また、足もとでの新型コロナウイルス感染症の流行は、大綱案のとおり、少子化対策の直接の対象となる当事者にも大きな影響を及ぼしている。経済界としては、政府の緊急事態宣言の発令を踏まえた非常時の対応への協力とともに、平時においても、Society5.0 for SDGsの視点も加味して、仕事と子育てを両立できる環境整備等に努めていく。

そこで、下記の通り、経済界としての見解を改めて述べる。

1.安心の未来を確かなものにする官民を挙げた経済社会の基盤づくり

  • 大綱案が示すとおり、今後の少子化対策を進めるにあたって、若い世代が結婚前から、結婚、妊娠・出産、子育てに至るライフステージごとの希望を見出せるための環境整備が重要である。特に、雇用機会の安定的な創出、仕事と子育ての両立等、さらなる働き方改革への取組みが求められる。

  • 安心の未来を確かなものにする基盤は、安定的で持続的な経済成長の回復、さらに新しい時代に対応した強じんな経済社会の構築である。

  • まずは、官民挙げて、事業の継続と雇用の維持に全力を尽くし、今回の新型コロナウイルス感染症に伴う難局を打開しなくてはならない。同時に、ポストコロナを展望し、経済社会の多様なニーズに応えるためのデジタル技術の社会実装を加速度的に推進していく必要がある。

2.経済界の取り組み

(1) 働き方改革のさらなる推進

  • 企業においては、長時間労働の是正や年次有給休暇の取得促進等に引き続き取り組むとともに、働き手のエンゲージメントに焦点を当てながら、価値創造力を高めて、生産性をより一層向上させる働き方改革フェーズⅡへと深化させることが必要である。

  • たとえば、テレワークやフレックスタイム制等の活用は、多様で柔軟な働き方を実現するだけでなく、新型コロナウイルス感染症の拡大を防止しながら事業を継続する観点からも、極めて重要である。また、仕事と子育ての両立等ワーク・ライフ・バランスの推進とも親和性が高い。

  • さらに、価値観やキャリアに対する考え方の多様化に対応した人事・賃金制度へと再構築することは、若い世代の結婚や出産等ライフステージごとの希望を叶える観点からも好影響が期待できる。職務内容に応じた公正で納得性の高い評価制度の整備とともに、年齢や勤続年数に応じた昇給から、評価に基づいた賃金改定のウェートを高め、若年・中堅層の処遇改善につなげることが望ましい。パートタイム・有期雇用労働者についても、働き方改革関連法を踏まえた対応を着実に進める必要がある。

(2) 育児への男女共同参画の促進~経営トップによる積極推進~

  • 家庭での夫の育児・家事時間の長さが、第二子出産の希望の実現を大きく左右するとの調査結果#2がある。働きながら夫婦で育児を行い、女性もキャリアアップができる環境を整えることが重要である。

  • まずは、家庭における育児・家事の負担が夫婦のいずれかに過度に偏らないよう、企業においても、長時間労働の是正、育児休業や短時間勤務、テレワークの活用等の浸透・定着に向けた継続的な取り組みが求められる。

  • 男性社員が育児休業等を取得しやすい職場づくりは、育児への男女共同参画を推進するために欠かせない。経営トップが、育児は夫婦共同で担うものであるという価値観を発信し、その上で管理職を含めて旗振り役となり、仕事と育児の両立についての情報共有や相互理解を促し、職場の雰囲気を変えていくことが極めて重要である。たとえば、妻が出産を控える男性社員や子育て期の社員を含め、幅広い層を対象にした仕事と育児の両立支援等の意見交換や懇談の機会を設けるだけでなく、経営層や管理職も率先して参加することで、取組みの効果を高めるべきである。さらに、業務の棚卸しを通じて標準化や可視化を進め、代替要員の確保等の社内体制を整備することも重要である。

  • 加えて、女性の活躍推進、晩産化への対応という観点から、出産・育児によるキャリアの中断等によって十分な経験を積みにくい状況を改善していく必要がある。経営トップのリーダーシップの下、管理職が率先して両立支援策を活用しやすい職場風土を醸成するとともに、キャリアプランの作成支援やロールモデルの提示、復職に向けた自己研鑽支援等もキャリア継続・アップを図る上で重要である。

(3) 少子化対策・子育て支援におけるデジタル技術の積極活用

  • 経団連ではかねてより、少子化による人手不足に対し、幅広い分野において革新技術を最大限活用することで課題解決を図り、持続可能な経済成長を実現することを提案してきた#3

  • 結婚、妊娠、出産、子育て、保育等の各分野においても、デジタル技術を活用して、様々な社会的課題を解決しようとする動きが生まれ、徐々に広がり始めている#4。例えば、オンラインによる婚活マッチングサービスや、ベビーテック(BabyTech#5)と呼ばれる、IoTやICT技術を活用し、妊活から妊娠・出産のサポートや、見守り等、育児の安心・安全の確保や負担軽減をもたらす商品・サービスである。

  • また、新たな保育の受け皿を整備していくためには、子供の安全の確保を大前提に、行政とのやり取りを含む保育現場の業務の効率化、保育士の負担軽減も解決が急がれる社会的課題である#6。家庭内に限らず、保育現場や保育に関わる行政においても、ICT・IoT活用の余地は大きい。

  • 少子化対策・子育て支援においても、デジタル技術を積極的に活用し、当事者の様々なニーズに応えることが重要である。

(4) 政府の取り組みに対する協力

  • 経済界は、企業が負担する事業主拠出金を財源に、待機児童の解消に向けて、企業主導型保育事業や放課後児童クラブの受け皿拡充#7に協力してきた。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、様々な業種・規模の企業が大きな影響を受ける中で、事業主拠出金事業に関する特例措置にも対応してきたところである#8

  • 引き続き、事業主拠出金事業の運営規律の徹底を求め、効率的な運営や、状況変化に適切に対応した見直し、積立金規模の適正化等を前提に、子育て環境の整備に協力していく。

  • 今後の事業主拠出金事業のあり方に関して、積立金規模の適正化や「量的な拡大」に限定した使途といった運営規律の徹底を大前提に、拠出金率の引下げも含む再検討が必要である。

3.政府の取り組み

(1) 現行プランの着実な実行

  • 保育所の待機児童の解消に向けた「子育て安心プラン(2020年度末まで)」や、放課後児童クラブの拡充を図る「新・放課後子ども総合プラン(2023年度末まで)」に着実に取り組み、受け皿を整備すべきである。

(2) 検証・評価に基づく実効性ある少子化対策の展開

  • 大綱案のとおり、少子化対策においても、具体的な数値目標を設定してPDCAを回し、施策の効果や環境の変化に応じて見直す等、柔軟に対応していくことが求められる。この考え方に沿って、2020年度末で期限を迎える現行の「子育て安心プラン」に続く施策のあり方を検討すべきである。

  • 具体的には、若年層および子育て層の実態やニーズを適切に把握し、政策に反映するため、こうした層を対象とする施策の有効性に関する調査・検証を実施する必要がある。その結果を踏まえ、生活地域や年代・選好等の属性に応じた実効性のある施策を国と地方が連携して展開すべきである#9

(3) 少子化対策に関わる財源

  • 少子化の進行は国民共通の課題であり、子ども・子育てを社会全体で支えるとの考えを基本に対策を進めるべきである。子ども・子育て支援新制度に係る「質の向上」を含め、少子化対策に係る安定財源の確保を検討する場合、まずは高齢者に偏った社会保障給付を見直し、世代間のアンバランスを是正すべきである。

  • これを図ってもなお、追加的な財源の確保が必要な場合、税財源による対応を検討すべきである。

(4) 児童手当の在り方の見直し

  • 児童手当制度については、給付の必要性や施策効果を考慮しない過度な再分配は必要なく、適正化すべきである。具体的には、高所得者世帯への経済的支援の必要性は低いことから、所得制限額の上限に配慮しつつ、世帯合算の導入を図るとともに特例給付の廃止を行うべきである。また、適正化によって得られた財源は、保育サービス等の現物給付の充実に充てるべきである。

(5) 企業における子育て環境整備への支援

  • 「2.経済界の取り組み」で提起したとおり、企業において、規模や業種に関わらず、仕事と子育ての両立等様々な職場環境の整備が一層進むよう、引き続き、企業側のニーズにきめ細かく対応したインセンティブとなる支援の充実を図っていくことが求められる#10

  • 育児休業制度について、男性の育児休業取得促進の観点から、たとえば、分割取得の拡充を検討することも考えられる。その際、企業の労務管理の観点や、企業規模により異なる事情を踏まえた代替要員の確保等の支援策とあわせて検討することが求められる。

以上

  1. 経団連では、2030年を展望した将来ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」(2015年1月)や「人口減少への対応は待ったなし~総人口1億人の維持に向けて~」(2015年4月)において、人口1億人の維持に向けて少子化対策等に取り組む必要性を指摘。また、「経済成長・財政・社会保障の一体改革による安心の確保に向けて~経済構造改革に関する提言~」(2019年11月)において、社会保障制度(医療、介護)の持続可能性確保に向けた給付・負担のあり方の見直しを提言している。
  2. 出所:厚生労働省「21世紀成年者縦断調査(2012年成年者)及び21世紀成年者縦断調査(2002年成年者)の概況(2015年)」
  3. 「Innovation for SDGs -Road to Society 5.0-」(2018年7月)「8.働きがいも経済成長も」において指摘するとともに事例を紹介している。
  4. このほか、足もとでの新型コロナウイルス感染症拡大の防止を図る中で結婚や出産を希望する若年層や子育て世帯に向けて、デジタル技術を活用した新たなサービスが生まれ、活用されつつある(エウレカ「ビデオデート」、ベネッセ「オンライン幼稚園」等)。
  5. https://babytech.jp/about/
  6. コドモン(https://www.codmon.com/)等、保育施設など向けのICT支援ツール
  7. 事業主拠出金は、児童手当(0~2歳)、保育給付(0~2歳)、放課後児童クラブ、延長保育、病児保育等に活用されている。
    2016年度にスタートした企業主導型保育事業は、待機児童対策への貢献、企業の従業員の多様な働き方に対応、等の意義が指摘されている(出所:内閣府「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会報告(2019年)」)。
  8. http://acsa.jp/images/babysitter/2020/special_measures20200430.pdf および
    https://www.kigyounaihoiku.jp/wp-content/uploads/2020/05/20200512-01-01.pdf
  9. 詳細は「経済成長・財政・社会保障の一体改革による安心の確保に向けて~経済構造改革に関する提言~」(2019年11月)参照。
  10. 現在、企業向けの支援制度としては、くるみん、プラチナくるみん認定企業の公共調達における加点評価や両立支援等助成金がある。

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