Policy(提言・報告書) CSR、消費者、防災、教育、DE&I  Withコロナにおける社会経済活動の活性化に向けた提言 - 重症化率等を抑えながら社会経済活動の再開へ -

2021年9月14
一般社団法人 日本経済団体連合会

新型コロナウイルス感染症の拡大から1年半以上が経過し、ワクチン接種が進む国々は、急速な経済回復を遂げている。わが国においても、菅首相のリーダーシップの下、すでに国民の半数以上が1回接種を完了するなど、ワクチン接種は急速な進展を見せており、社会経済活動の再開・活性化が強く期待されるところである。

他方、感染力が強いデルタ株の拡大により、現在、わが国はこれまでに経験のないレベルの感染拡大に直面している。まずは足元の感染拡大と医療体制の逼迫を解消するため、政府、医療関係者、学界、経済界が総力を挙げ、国民と一丸となって取り組む必要がある

経済界としては、感染状況が厳しい地域を中心に、休暇やテレワーク等による人流削減を強力に推進することで、感染拡大の要因となりうる接触機会の削減を図っていく。加えて、ワクチンの職域接種にも精力的に取り組んできており、今後も接種の加速に貢献していく#1。さらに、先般の日本医師会からの要請を受け、軽症患者の宿泊療養や中等症の患者を対象とした抗体カクテル療法などを行うための施設として、企業の研修施設や体育館等を提供するなど、経済界を挙げて医療界と連携し、足元の医療崩壊を防ぎ、感染拡大防止・罹患者の重症化防止に向けた取り組みへの協力を惜しまない所存である

しかしながら、足元の医療体制の逼迫等を解消できたとしても、ワクチン接種が進展する諸国と同様、今後も一定水準の新規感染が生じる傾向は続くと想定される。新型コロナの感染リスクをゼロにすることは難しく、他の感染症と同じように、社会経済活動の中で、生じうるリスクとして向き合っていくことが求められる。

まずは足元の感染拡大防止の取り組みを着実に進めながら、ワクチン接種の進展や、抗体カクテル療法等の効果的な治療法・治療薬の登場、さらには諸外国の動向等を踏まえ、重症化率・死亡率が十分低減した際には、改めてこれまでの経験・教訓を生かし、社会経済活動の再開・活性化が可能となるよう、今から必要な対策の検討・準備を始めることが重要である。そうした観点から必要となる方策について、以下の通り提言する。

なお、重症化率・死亡率を低下させる取り組みとしては、国内でのワクチン・治療薬等の開発の支援をはじめとして、今後のワクチン・治療薬の安定的な確保も重要となる。政府や関係者には、こうした点についても着実な取り組みを求めたい。

1.早期治療を可能とする医療提供体制の整備

① 医療体制逼迫解消に向けた環境整備
② 重症化率等の低下を前提とした一般医療機関での治療等の検討

コロナ対応が可能な病院・病床、医師・看護師等医療スタッフが限られているうえに、入院調整等を担う保健所の業務が逼迫し、患者に早期に必要な医療を提供することが難しい事態が続いている。一定の感染者を許容する「Withコロナ」において社会経済活動を継続するためには、わが国全体として、コロナ対応が可能な病院・医療機関を増やし、対応にあたる医師・看護師等を増員し、より多くのコロナ患者の治療を可能とする必要がある。

まずは、足元の医療体制の逼迫を解消すべく、重症・中等症・軽症問わず、コロナ対応の医療人材、病床の確保・拡充に関し行政が医療機関等へ協力を要請する際には、補助金の臨時的な増額等のインセンティブの付与を含め、より協力を得られやすいような方策を直ちに検討すべきである。

その上で、新型コロナウイルス感染症のように、地域差なく全国的なまん延が確認されるような感染症への対応は、通常医療とのバランスも踏まえつつ、国が、医療機関や各地方自治体に対し、病床調整・入院調整等に関する直接的な強い指示ができるよう、抜本的な制度改正を将来的に検討すべき#2である。

さらに、現在、新型コロナウイルス感染症は、感染症指定医療機関での診療が原則的な対応となっている。この点、ワクチン接種の進展や抗体カクテル療法をはじめとする画期的な治療薬・治療法の登場も踏まえ、こうした治療薬の十分な確保や、更なる新薬の登場、ワクチン接種率、感染状況等を見極めながら、重症化率・死亡率が十分低減した際には#3、感染症指定医療機関以外の、広く一般の病院・クリニックで診療できるよう、必要な検討を今から開始すべきである。治療薬の十分な確保を前提に、より広く一般の外来等で抗体カクテル療法等が実施できれば、早期治療が可能となり重症化を防ぐことにつながり得る。また、入院調整等を担う保健所業務の逼迫を踏まえ、同様に、重症化率等が十分低減した際には、保健所を介した受診・入院調整等の対応を不要とする変更についても検討を開始すべきである。なお、仮に上記のような対応を行う場合も、検査費用や医療費については、これまでに検査・治療を受けた者との公平性や感染拡大防止の観点から、公費での負担の継続を検討すべきである。

2.積極的な検査の実施

PCR検査を補完する抗原定性検査の拡充に向けた規制緩和
(抗原簡易キットの薬局等での販売許可など)

職場や大規模商業施設、イベント等の多くの人が集まる場面において、これまでにクラスター事例が多数報告されている。社会経済活動を万全に進める観点からも、大規模なクラスターの発生を未然に防ぐ手段の一つとして、積極的な検査の実施は重要となる。その際、行政検査・民間での検査を問わず、PCR検査の拡充が重要であるが、それを補完する簡易な感染拡大防止の管理行為として、抗原定性検査の拡充に向けた各種の規制緩和を検討することも肝要である。

この点、特に、これまで職場等においては、厚生労働省認可の抗原簡易キットを活用した積極的な検査が呼びかけられており、経団連としても取り組みを推進してきた。PCR検査等、他の検査方法と組み合わせながら、より簡易な抗原定性検査を浸透させるべく、抗原定性検査については、有症状者に限らず広く活用を認め、より容易に検査にアクセスできるよう、厚生労働省認可の抗原簡易キットを薬局等で販売し、現在は医療従事者等の介在が必要とされる検体採取や測定を、被検者自身でできるようにすべきである。

なお、こうした抗原定性検査の積極的な活用は、医師による診断とは切り分けた感染管理のための行為と解され、仮に、抗原簡易キットを活用した自己測定にて陽性判定が出た場合には、速やかに行政検査を受検するよう、利用者に周知を徹底していくべきである。

3.帰国・入国後隔離措置の適正化

① 現行14日の隔離期間の短縮
② ワクチン接種者に対する帰国・入国後隔離期間の免除

ワクチン接種が進む欧米等ではすでに社会経済活動が再開し、ビジネスでの国際的な往来も再活性化するなか、わが国経済界にとっては、国境を越えた往来に関する措置の適正化も重要となる。感染拡大防止の観点から、実効ある水際措置を講じる必要性については改めて述べるまでもなく、感染拡大防止やワクチン接種の効果、各国における感染状況・規制等を見極めながら、あるべき措置を検討する必要がある。

この点、多くの国でも帰国・入国後隔離期間は10日以内#4であることから、こうした諸外国における対応と足並みを揃える観点から、ワクチン接種の有無にかかわらず、まずは現在14日間となっている隔離期間を、最長でも10日間に短縮すべきである。

さらに、新型コロナワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)を活用する諸外国では入国時検査や隔離の免除が進展している。日本でも国際的な社会経済活動の早期再開という観点から、各種変異株の動向やワクチン接種効果に関する科学的分析結果等も踏まえつつ、2回目のワクチン接種から2週間が経過している者に対する隔離期間の免除を早急に検討・開始すべきである。

関連して、現在外国人については、入管法に基づき、特段の事情がない限り原則入国が認められていないが、この点、日本政府発行のものと同等のワクチン接種証明書を有する者について査証の発給を行い、入国を認めるべきである。

他方、渡航先の流行状況やリスクに応じて一定の隔離期間を設けることはありうる。その場合であっても、検査との組み合わせ、旅行会社や企業による行動管理等を行うことで隔離期間中であっても、一定の行動を可能とすべきである。

なお、経団連提言「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」で述べた通り、ワクチン接種証明書は、出入国時のみならず、国内経済活動の場面においても活用されるべきである。特に、上述のような証明書を用いた隔離措置の適正化によるインバウンドの活性化のみならず、証明書の活用により、各種の活動制限の緩和や特典付与等による需要喚起を促すなど、国内の社会経済活動の活性化に向けた利用も期待される#5

ワクチン接種が進み、有効な治療法が確立されつつある中#6これからは「新型コロナによる重症化率・死亡率をいかに低減させながら、社会経済活動を活性化していくか」という点に、より重きを置くべきである。そのためにも、この先、社会経済活動を営んでいく上で必要不可欠な体制の構築を急ぐべきである。

経済界として、引き続き感染拡大防止に全力を挙げつつ、「Withコロナ」における社会経済活動の活性化に向け、政府・自治体・医療従事者、そして国民と一丸となって、この難局を乗り越えていく決意である。

以上

  1. ワクチンの職域接種については、引き続き積極的な推進を行う観点から、政府・地方自治体には、希望する職域へのワクチンの計画的な供給等が重要となる。
  2. 経団連では、「非常事態に対してレジリエントな経済社会の構築に向けて」(2021年2月)においても、都道府県・市区町村や公立・私立病院の境を超えた病床調整、感染症指定医療機関以外の医療機関への入院等、行政の権限で受け入れ要請・指示を行う制度の整備を提言している。
  3. 重症化率・死亡率の低減の基準については、専門家の知見を踏まえ、政府が適切に判断することが重要となる。この前提条件を満たした後に、速やかに必要な政策を実現できるよう検討の開始を求めるものであることを改めて付言する。
  4. 関連して、新型コロナの有症状者の退院基準について、WHO(世界保健機関)における退院基準の短縮に基づき、わが国でも14日から10日へと短縮している(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第5.2 版」(2021年7月)より)。
  5. 経団連では、「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」(2021年6月)において、出入国時の活用にくわえ、接種率の向上、自粛などによって委縮した地域経済や各業界の活性化に向けた、接種記録の国内での活用(①各種割引、特典付与、②国内移動、ツアーでの活用、③優先入場、④活動制限の緩和 等)について提言している。
  6. ワクチン接種は着実な進展を見せているが、引き続き接種拡大に向けた取り組みを進める必要がある。「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言」(2021年6月)でも整理した通り、接種拡大に向け、SNS等での発信をはじめ、情報伝達手段の工夫をし、ワクチンの有効性や副反応についての正確な情報を伝えていくことが重要である。