Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)
パブリックコメント募集に対する意見

2021年10月4
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会

今回提示された、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(以下、長期戦略)の改訂案は、非連続なイノベーションを通じて2050年カーボンニュートラルを目指すという基本的考え方を堅持するとともに、昨今の情勢変化やイノベーションに関する具体的な最新動向を反映するなど、概ね評価できる内容となっている。

その上で、下記の点について意見を述べる。

第1章:基本的考え方

2.我が国の長期的なビジョン(p.3~4)

[意見]

  • 改正地球温暖化対策推進法において、2050年カーボンニュートラルの目標は、「基本理念」として法定化されたことを明記すべき(p.4 4行目)。

[理由]

  • 法律上の位置づけを明確にし、読者に誤解のないよう配慮すべき。

3.2050年カーボンニュートラルに向けた6つの視点
(1) 利用可能な最良の科学に基づく政策運営(p.5)

[意見]

  • p.5 8~17行目に記載の「最良の科学」について、IPCCのものに加え、例えば、「いぶき2号」の開発・運用によるデータ収集など、わが国が世界に貢献できる「最良の科学」についても盛り込むべきである。

[理由]

  • 幅広く「最良の科学」を利用して政策運営を行うことを明確にするとともに、わが国として「最良の科学に」貢献する意思を示すべきである。

(2) 経済と環境の好循環の実現(p.5~6)

[意見]

  • p.5 21~23行目について、「積極的な温暖化対策への取組を、産業構造や経済社会の変革を通じた、大きな成長につなげていく。そういった発想の転換が必要である」とすべき。

  • 続く23~24行目について、「環境対策は、」の前に「政府の」を挿入し、「~その鍵となるものである。」を「~その鍵となるものであり、政府は主体的に責任をもってその実現に向け努力していく。」と修正すべき。

  • さらに、「経済と環境の好循環」を生み出す鍵はイノベーションであり、その促進のため、財政支援に限らず、様々な長期的支援策を積極的かつ戦略的に講じていく姿勢についても打ち出すべき。

[理由]

  • 気候変動対策に取り組みさえすれば成長につながる訳ではなく、むしろ、能動的に成長につなげていく必要があることを明確にする必要。原案の「環境対策は、経済社会を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるものである。」という表現は、政府が目標設定さえすれば、自然と力強い成長がなされると受け取られかねない。政府として、社会の変革、産業構造の転換、力強い成長に自らコミットし、これらをもたらす施策について具体的に記載すべきである。

  • 「(2) 経済と環境の好循環の実現」で記載されている通り、2050年カーボンニュートラルに向けては「あらゆる政策を総動員する」ことが必要不可欠であるため。

(6) 世界への貢献(p.8~9)

[意見]

  • わが国として、各国に対し、野心の向上や脱炭素に向けた取組の強化を積極的に働きかけていく旨も記述すべき。

[理由]

  • 温室効果ガス削減は、途上国・新興国を含むすべての国が取り組まなければならない課題である。わが国としては、気候変動外交においてリーダーシップを発揮し、欧州・米国等とも連携しながら、各国の野心の向上や脱炭素に向けた取組の強化を積極的に働きかけていくべきである。

第2章:各部門の長期的なビジョンとそれに向けた対策・施策の方向性
第1節:排出削減対策・施策

1.エネルギー
(3) ビジョンに向けた対策・施策の方向性(p.15)

[意見]

  • 10~11行目「~2050年カーボンニュートラルを実現するために、」と「再生可能エネルギーについては~」の間に「政府が強いコミットメントを示し、」を挿入すべき。

[理由]

  • 水素等の安価・安定供給、供給インフラの整備などの課題解決に向けて、政府が果たすべき役割があることを明確にすべき。

① 電力分野に求められる取組
(b) 原子力における対応(p.18)

[意見]

  • 原子力発電所のリプレース・新増設についての方針を記載すべき。

[理由]

  • 2050年カーボンニュートラルの実現には、原子力の果たす役割が必要不可欠である。将来のビジョンである長期戦略においては、リプレース・新増設もロードマップを伴った形で示しておくことが重要と考える。

2.産業
(1) 現状認識
② 産業界における自主的取組(p.25~26)
③ グローバル・バリューチェーン(GVC)を通じた削減貢献(p.26~27)
④ 長期的な視点に基づく企業の取組(p.27)

[意見]

  • 「チャレンジ・ゼロ」、「長期ビジョン」といった、温室効果ガスの長期・大幅削減に向けた経団連の主体的取組を記載したことを高く評価する。

  • GVCを通じた削減貢献についても、経団連が取りまとめている「コンセプトブック」について記載すべき。
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/102.html

[理由]

  • 経団連は、GVCを通じた削減の重要性を国内外で啓発すべく、様々な業界・企業による、多種多様な製品・サービス等の削減貢献量の「見える化」事例を、「コンセプトブック」として毎年改定・公表しており、長期戦略においても、こうした日本経済界の主体的取組を内外にアピールすることが重要と考える。

第3章:重点的に取り組む横断的施策

4.予算(グリーンイノベーション基金)(p.93~94)

[意見]

  • p.94 17-19行目「世界のESG資金約3,500兆円も呼び込み、我が国の産業競争力強化による所得・雇用の創出と、革新的技術の社会実装による温室効果ガス削減につなげる。」に続けて、「こうしたグリーンイノベーション基金に関する運用プロセスについては不断の見直し・評価を行い、対策として不十分な場合には、大胆に追加予算も検討していく。その際、EUおよび各国政府が脱炭素化に取り組む産業に対して、研究開発から社会実装段階までの各フェーズに応じて周到な支援策を講じていることを踏まえ、環境と成長の両立を実現しうる政策パッケージの策定と技術の社会実装まで含めた必要な予算措置を講ずる。」と追加すべき。

[理由]

  • 欧米等が前例のない大規模な財政支援(グリーンディール政策)を打ち出す中、わが国政府としても、イノベーションの国際競争に打ち勝つことで、グリーン成長につなげるべく、革新的技術開発から社会実装までを視野に入れた、より大規模な支援を行っていく姿勢を示すべき。

5.税制(p.94~95)

[意見]

  • p.95 3行目「~後押ししていく。」を「~後押ししていくとともに、わが国の産業全体のコスト競争力の観点から、カーボンニュートラルに資する設備を含む償却資産に対する固定資産税の減免等についても検討する。」と追加すべき。

[理由]

  • 省エネルギー・再生可能エネルギーも含め、カーボンニュートラルに資する設備投資を促す税制上のインセンティブを講じていくことが重要であるため。

7.成長に資するカーボンプライシング(p.95~96)

[意見]

  • 政府の「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」が取りまとめた「中間整理」に記載されている、成長に資するカーボンプライシングの基本的な考え方、すなわち、

    1. 企業の研究開発や設備投資の意欲・能力を削ぐものではなく、イノベーションや積極的な投資を促すものであること
    2. グローバルビジネスの潮流を踏まえて、他国とのビジネス上の競争環境に不利が生じない制度設計を行うこと
    3. 脱炭素に向けた行動変容を促すシグナルは、制度や価格、市場の存在、見える化など、様々な形態が存在することを踏まえて、負担の増大よりもメリットの提供を優先させつつ、主体ごとに最適なポリシーミックスで対応すること
    4. カーボンニュートラルに向けた道筋は各企業が取り扱うビジネス領域で千差万別であり、分野ごとの代替技術の確立状況やマクロ経済状況を踏まえた、適切な時間軸を設定すること
    5. カーボンニュートラルに資する商品が市場で選択されるよう、需要家の行動変容を促すこと

    の5点を最初に引用すべき。

[理由]

  • 成長に資するカーボンプライシングとは何かについて、原案では何も説明がされていないため。

以上