Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業  Innovating Migration Policies ―2030年に向けた外国人政策のあり方―

2022年2月15
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.はじめに

経団連は「。新成長戦略」(2020年11月公表)において、年齢、性別、国籍、障がいの区別なく、多様な主体による価値協創が促進され、社会課題の解決と社会全体の生産性向上が実現する姿を描いた。外国人が日本国内で活躍できる環境を整えることは、人口減少と高齢化が進む日本において、力強い経済成長を実現するために必要不可欠な施策である。

2019年の出入国在留管理庁設置により政府の在留支援が本格稼働し、生活者としての外国人の定住・定着に向けた議論や取り組みが活性化してきたものの、あるべき将来像を見据えた包括的な検討は緒に付いたばかりである。

足許では、新型コロナウイルス感染症の拡大もひとつの契機として、デジタル・データの活用が加速度的に進展し、様々な分野で社会課題解決の新たな方向性を提示している。我々はグローバル化、少子高齢化に加えて、出入国・在留管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を前提に、外国人政策を考えていく必要に迫られている。

また、ポストコロナを見据えた国際的な人材獲得競争は激化の一途を辿り、日本は競争に劣後しつつある。製造業、サービス産業、医療・福祉等の現場で働く、いわゆる現場人材の労働力不足が年々深刻化するなか、アジア全体の少子高齢化と日本の相対的な魅力低下も相俟って、人材確保は危機的な状況にある。加えて、人権とダイバーシティは大きな潮流となって国際社会やビジネス環境を変革しており、これを踏まえた受入環境の整備は待ったなしである。

そこで本提言では、日本の産業競争力の強化と持続的成長に向けて、2030年の外国人政策のあり方と、その実現に向けた具体的施策を提言する。出入国在留管理庁はじめ政府・関係各所において、中長期的な将来像に関する議論を重ね、そのうえで、日本で活躍する多様な外国人材が安定的な生活を営めるよう、ライフサイクルを通じて適切な施策・支援策を講じていくことを求める。

Ⅱ.基本的考え方

1.2030年のビジョン ― 点的政策から面的政策へ

Society 5.0時代が目指すのは、外国人を含めた多様な人材が、デジタル技術を駆使して価値を最大限に発揮している姿である。本提言が実現することで、2030年の日本社会では、国籍に関係なく人材が活躍できる環境が以下のように整う。

世界各国から優れた才能や技能・新しい価値観がリアルあるいはオンラインで集まり、活躍することで、イノベーションと社会課題の解決が加速し、産業競争力の強化と持続的成長に貢献している。

社会においては、国境を超えて多様な価値観・文化に対する理解が進み、social cohesion(社会的一体性あるいは社会的結合)が形成されている。日本で生活する外国人が、子どもから大人まで、ライフサイクルを通して暮らしやすく学びやすく働きやすい環境がハード・ソフト両面で整っており、外国人が単なる労働力・消費者ではなく社会のインフラを担う市民として地域に定着している。これにより、外国人本人はもとより、受入国の企業・地域社会、送出国も含めてwin-win-winとなるサステイナブルな関係が構築されている。

人々は、多様なキャリアパスを選択・形成している。国内外で日本人と外国人との交流機会が増加し、偏見や差別的感情に囚われることなく多様な価値観を理解する心のグローバル化が進展する。

政策においては、外国人のライフサイクルを通じたシームレスな面的支援が整備されている。出入国・在留管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)により、デジタル・データを最大限活用した透明性・効率性の高い出入国等審査や在留管理が実現している。政府のみならず、自治体・企業・市民社会、あるいは個人等の横断的つながりにより、きめ細かい在留支援が実現している。

2.ビジョン実現に向けた3原則

上記ビジョンを実現するためには、政府はじめ関係各所が様々な政策・取り組みを検討・展開するうえで、デジタル技術を最大限活用し、以下の3原則を順守することが重要となる。

(1)「受入」から「戦略的誘致」へ

日本に来る外国人を単に「受け入れる」国から、必要とする外国人材を戦略的かつ積極的に「誘致する」国へと入管政策における発想を転換すること。すなわち、国際的な人材獲得競争の激化と人口動態・産業構造の変化等を踏まえ、高度人材・現場人材ともに日本の産業競争力の強化・持続的成長に必要なターゲットを明確に定め、その誘致に注力することが求められる。

外国人の受入は、日本の将来像を見据えた、質量両面で十分にコントロールされた秩序あるものとしなければならない。

(2)ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

外国人が「活躍できる」国となるために、人権・尊厳を担保することは当然のこと、社会全体として多様な考え方や価値観を互いに尊重し合う包摂的な環境の整備に努めること。企業においては、外国人を含む多様な個人が個性や能力を発揮して、安心して働き暮らすことができる社内外の環境構築に努める必要がある。また、企業や市民社会等、多様なステークホルダーが活動しやすい環境を整備することが不可欠である。

(3)ライフサイクルを通じた支援

出入国のみに焦点を当てた既存の点的政策、一部在留資格について追跡する線的政策から大きく転換し、学ぶ、住む、働く、家族を形成する、引退するという外国人個人のライフサイクル全体を俯瞰した、面的政策を検討・立案・実施すること。

【図表1:2030年のビジョンと3原則】

Ⅲ.制度横断的な施策

1.基本理念の制定と政府の推進体制の構築

政府は「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下総合的対応策)の改訂や日本語教育の推進に関する法律制定、外国人在留支援センター(FRESC)の設置、外国人や国民の声を聴く制度・調査#1の新設等、在留支援に関する取り組みや省庁内・省庁間連携を強化しており、この動きを評価する。しかし、外国人の在留に関する政策は多くの省庁・自治体に跨っており、より包括的かつ根本的な対応が必要となっている。

(1)外国人政策に関する基本理念・基本法の制定

日本では、外国人政策に関する基本理念・基本法が不在の状況が続いており、まずはこの制定に着手すべきである。総合的対応策や出入国管理及び難民認定法(以下入管法)、外国人雇用管理指針#2等、外国人政策に関連する様々な法制度・施策に通底するべき基礎的な理念を示し、出入国・在留管理、雇用管理、定住化、社会統合等をスコープに入れて、目指す姿、国や地方の推進体制、更には地域に根差した支援団体等の地域社会との協力等を明確化する必要がある。

(2)政府の推進体制の構築

外国人政策を効果的に推進するうえで、必要な施策を一元的に推進できる司令塔が必要である。政府においては、外国人の受入環境整備に関する企画・立案と総合調整を行うこと目的として2019年に出入国在留管理庁を設置したものの、施策の一元化やリーダーシップの発揮には未だ課題が残っている。まずは出入国在留管理庁において、総合調整機能のみならず、司令塔機能を強化することを求める。ここでは、国際環境の変化や国・地域社会の産業構造・労働需給に関する調査・研究を踏まえた戦略的な人材誘致施策の立案・実行、各省庁・自治体等が保有するデータの連携の主導、縦割りを打破して省庁横断的な施策を効果的に連動させるといった役割を果たす必要がある。そのうえで、より強力な推進機関についても検討すべきである。

2.出入国・在留管理におけるDX

デジタル・データ活用については、在留資格のオンライン申請や、法務省の外国人に関する情報と外国人雇用状況届出情報の情報連携等がスタートした。出入国・在留資格審査や在留支援におけるDXの推進は、外国人のみならず、日本人にとっても利便性の向上に資する。実現に向けて、以下の取り組みを求める。

(1)データ基盤の整備と活用の促進

必要なデータ連携に向けて、出入国在留管理庁はデジタル庁と連携して、在留管理におけるマイナンバーの徹底活用を実現すべきである。まずは在留カードとマイナンバーカードとの一体化が必要であり、法改正やシステム開発等、必要な措置を可能な限り前倒しで推進することを求める#3

マイナンバーを通じて、地方税関係情報・住民票関係情報・他の社会保障給付に関する情報、更に法務省の外国人に関する情報と外国人雇用状況届出情報も含めた全体でのデータ連携が実現すれば、行政において、外国人のライフサイクルを通じた必要な情報を一元的に把握できる仕組みとなり、適切な出入国・在留管理や各種の公的支援時に必要な現況把握にも活用できる。これにより、外国人が各種行政サービスを享受するうえで必要な申請・届出および添付書類を可能な限り不要とするとともに、マイナポータルのお知らせ機能を効果的に活用し、日本の行政手続に不慣れな外国人の利便性を飛躍的に向上させるべきである。

また、こうしたデータ基盤を活かすことで、外国人本人がマイナポータル等から自身の出入国履歴・就労資格等を含めた公的情報を一元的に把握・取得し、履歴証明として活用できるようにすることが重要である。この証明は、外国人にとって困難の多い銀行口座の開設や住居・オフィスの賃貸借契約、金融機関での与信審査、更に就職活動や入園・入学等、様々な場面において活用できる余地があり、生活基盤の確立を円滑化することが期待される。

加えて、在留資格「技能実習」によって入国する技能実習生については、技能実習の適正な実施および技能実習生の保護を目的として設立された認可法人外国人技能実習機構(OTIT)が、実習生や実習計画について把握している外国人技能実習情報管理システムを有している。また、在留資格「特定技能」について、出入国在留管理庁は、受入企業等の委託により特定技能1号の外国人支援計画を実施する登録支援機関の申請を受け付けており、認定機関に関する情報を有している。こうした既存のデータについても相互に連携し、登録情報の整合性を担保することで、誤記や不備の早期発見をはじめ、適正な在留管理に活かすことも可能となる。

まずはスケジュールを検討して期日を区切ったうえで、システムの整備に着手していくことを求める。なお、個人情報保護法上の必要な手続、データの改ざん・悪用の厳罰化と十分なセキュリティ管理、プライバシーへの配慮は必須である。

【図表2:外国人が自身のデータを生活の様々な場面で活用するイメージ】

(出所:経団連事務局作成)

(2)在留申請手続の更なる電子化・利便性向上

オンラインでの在留申請の拡大に向けて、まずは原則としてすべての在留資格をオンライン在留申請の対象とすべきである。また、現在、オンライン申請可能な在留資格であっても、オンライン申請に必要な初回登録や申請内容の訂正連絡等は対面・書面に限定されているなど、各所に書面規制が残り、却って手続が煩雑化している。確実な本人確認とセキュリティを確保しつつ、デジタルで完結する仕組みの構築が急務である。

申請時に要求されている添付書類は、マイナンバーはじめ行政間のデータ連携によって、可能な限り撤廃すべきである。これは誤記等で生じる手続コストを削減するとともに、偽造等犯罪の抑止にも効果を発揮する。

政府は、民間のオンラインサービスに提供するマイナポータルAPIの活用等により、マイナンバーカードによる在留資格申請を2021年度中に実現することとしている#4。在留申請手続は煩雑でわかりにくいとの声も多く、オンライン利用率の着実な引き上げに向けて、継続的にユーザインターフェース(UI)およびユーザエクスペリエンス(UX)の改善に努め、誰もが容易に申請可能な環境を整備することが不可欠である。

将来的には、外国人受入企業の人事データベース等と一部連携することで、在留資格更新手続の自動化も期待される。

(3)出入国のデジタル化

デジタル活用による出入国の効率化・円滑化は、利用者の利便性向上と行政コストの削減に資する。政府は日本への入国等に係る一連の手続について、スマートフォン等の利用を通じたデジタル化を2022年度にも運用開始することとしており#5、着実な実現を求める。将来的には、搭乗手続から検疫・税関・出入国に至るプロセスの無人化に向けて、指紋認証・顔認証システムの更なる活用や民間航空事業者とのデータ連携等も検討すべきである。

コロナ禍ではワクチン接種記録システム(VRS)等に基づく水際対策も導入されたが、他の感染症の発生・拡大も見据え、さらなる手続・システムの改善が欠かせない。今後は電子化を推進するとともに、民間航空事業社の予約システムと連動させるなど、特に必要な外国人材が安全かつ迅速に出入国可能な体制を整備すべきである。

3.「ビジネスと人権」への対応

2020年10月、日本政府が国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に関する国別行動計画(NAP)を公表し、企業に対して、国際的に認められた人権を尊重し、人権デュー・ディリジェンス(人権DD)のプロセスを導入することに期待を表明した。人権DDとは、企業が自らの事業活動に関連して、人権への負の影響を回避、軽減、対処するための取り組みであり、自社だけでなくサプライチェーンにおける外国人労働者も対象に含まれる。欧米諸国では、法制化の動きも含め指導原則に基づく取り組みが強化されており、日本企業にも影響を及ぼす可能性が高い。

経団連では、会員企業の行動原則である「企業行動憲章」について、2017年に「人権の尊重」に関する独立した条文を新設するとともに、2021年12月には「企業行動憲章 実行の手引き」を見直し#6、人権DDの継続的実施等、ビジネスと人権に関する自主的取り組みを一層推進するよう会員企業に働きかけている。

このような国内外の動きも踏まえ、外国人政策において以下の対応が急務となっている。

(1)企業による人権DDの促進・支援

外国人材の受入企業は、雇用主として労働法令の遵守を徹底し、従業員たる外国人材への支援と在留・雇用管理を適確に行う必要がある。人権DDを適切に行い、人権課題を把握し改善に向けて努力していることを示すことは、競争力強化の観点からも重要である。

政府においては、中小企業やスタートアップを含めあらゆる企業が適切に人権DDに取り組めるよう、情報提供や取り組み強化に向けた支援策を講じるべきである。その際、個社のみならず、業界レベルやセクター横断的な連携イニシアティブ等の取り組みの支援を通じて、人権DDに関する知識や経験の共有・蓄積、影響力の強化、費用の分担・削減等、人権DDを効果的に実施できる環境を整備すべきである。また、これら施策の推進にあたっては、このような分野で活動する法律家等の専門家やNPO/NGO等と連携して取り組むことが望ましい。

(2)技能実習制度の適正化

とりわけ外国人技能実習生に対する人権侵害や労働関連法違反等の不適切な事例に対して懸念が高まっており、徹底的な是正と防止は人権政策上の最優先課題のひとつである(具体策は後述)。社内はもとより、サプライチェーン上の関係先が技能実習制度を活用している場合には、特に人権DDの積極的な実施が求められる。

また、技能実習生が実習先を変更するいわゆる「転籍」については、省令において「やむを得ない事情がある場合」に認められており、具体的には実習実施者の経営上・事業上の都合や実習実施者における対人関係の諸問題等が生じた場合にのみ可能となっている。人権上の課題が生じる恐れがある場合等も含めて、これまで以上に柔軟に転籍を認める必要がある。

政府やOTITは受入企業との連携のもと、諸外国に対してこうした制度の適正化の状況や好事例を発信し、日本に対する評価の向上に努めるべきである。

4.中長期的な社会統合

外国人材がサステイナブルに活躍し続けられる社会の形成に向けて、人材の中長期的な定着・社会統合の視点は不可欠である。政府においては、総合的対応策のもと、日本語教育の改善に向けた「日本語教育の参照枠」#7策定や日本語教師の新たな資格の検討を進めている。また、出入国在留管理庁が設置した「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」の意見書(2021年11月公表)では、介護等も含めた「ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援」が盛り込まれた。

社会統合に向けた支援策・環境の整備は道半ばであり、自治体や企業によっても対応に差が生じている。関係省庁と自治体との連携、更に受入企業との連携を強化し、以下の施策を推進すべきである。

(1)生活環境の整備
① 多言語対応、「やさしい日本語」の普及・促進

出入国在留管理庁が実施した「在留外国人に対する基礎調査」(2021年2月公表)等においても、言語を原因として必要な情報へのアクセスに課題を抱える外国人は3割を超えた。英語をはじめとした多言語対応や、「やさしい日本語」の普及・促進が求められる。

自治体の窓口におけるオンラインおよび対面での各種手続、暮らしに必要な生活・防災情報の発信、公共交通機関や公共施設、病院の案内表示等については、自治体との窓口役を務める受入環境調整担当官との連携のもと、地域の外国人統計も十分に活用して、必要な言語対応を早期に進めるべきである。その際、デジタル技術を最大限活用するべく、デジタル庁は自治体に対して、AIを利用した多言語音声翻訳アプリやオンライン会議システム等、デジタル機器の普及・活用方法の周知を通じて、スピーディーかつ効率的な体制整備を支援すべきである。

グローバル・ビジネスにおいて世界共通語となっている英語については、日本人の根本的な語学力向上も重要な課題であり、大学入試の見直しやEdTechの活用により、初等・中等教育段階から実践的な英語力を身に付ける教育環境の整備の加速が求められる#8

また、「やさしい日本語」は、英語を母語としない外国人にとっても理解しやすく、日本人住民とのコミュニケーション手段として重要な役割を担うことが期待されており、積極的な普及が求められる。外国人が多く居住する自治体においては、ホームページ上に「やさしい日本語の手引き」や、「やさしい日本語」に書き換えたページを掲載しており、政府や全国知事会等はこうした取り組みを積極的に横展開すべきである。企業・国民に対しても、「やさしい日本語」に関する理解を深め、活用を促すよう呼びかけることも必要であり、経団連としても取り組んでいく。

② 感染症・災害時の体制整備

コロナ禍では、外国人にワクチン接種の情報が伝わっていなかったり、医療機関での症状の正確な伝達が難しい等の混乱も生じた#9。政府や自治体は、こうした経験も踏まえ、今後の感染症拡大や災害発生を見据えて、多言語での迅速な情報発信ツールを整備・普及すべきである。また、多言語対応可能な医療機関の把握に努めるとともに、医療機関に対して、外国人傷病者やその家族等とのコミュニケーションを支援する、多言語医療コーディネーターの配置あるいはオンラインでの連携、多言語対応アプリの活用を促すことも重要である。なお、多言語対応アプリについては、医療提供の質的向上の観点から、導入後も必要に応じた見直しと改善を促していく必要がある。

(2)日本語教育、文化・社会理解の推進
① ライフステージに沿った日本語教育の推進

日本語を学ぶ外国人は、留学生から労働者、その家族も含めて多様であり、どのライフステージにあっても日本語を円滑に学習できる環境を整備することが必要である。とりわけ一旦学校を卒業すると良質な日本語教育へのアクセスが困難になるとの指摘もあり、政府としてオンライン学習ツールの充実・発信に努めるべきである。福井県や広島県では、地域経済を担う外国人の雇用と定着を目指して、企業と連携してオンライン日本語教育講座を導入しており、他自治体においてもこれらを参考にした取り組みが期待される。

また、日本語に不安のある外国人子女が国内の学校に円滑に馴染めるよう、自治体や学校による包括的な支援が不可欠である。学齢期の外国人子女の約16%に不就学の可能性があるという調査結果もあり#10、経団連提言#11でも指摘したとおり、地方自治体の現状把握および学習支援が求められる。折りしもGIGAスクール構想のもとで、小中学生に対して一人一台の教育用端末が整備され、学習者の理解度や習熟度に応じた習得型学習が期待されている。政府は、外国人子女の日本語教育や日本語での授業を補助する手段として、教育用端末を通じて学習教材・アプリ・コンテンツを効果的に活用できるよう施策を講じるべきである。

② 日本語教育機関・教師に関する制度整備

良質な日本語教育の環境を確保するうえで、日本語教育機関および教師の質的・量的確保は喫緊の課題である。まずは教師の国家資格化を早期に推進することが必要である。また、「日本語教育の参照枠」の活用を一層促進するため、政府は活用の手引き等を作成し、自治体や企業も含めた日本語教育の現場に広く普及すべきである。

③ 日本文化や社会に対する理解の推進

日本語教育とあわせて、日本の文化や社会について理解を深める機会の提供も重要となる。ドイツでは2005年に移民法で「統合コース」#12を設立し、外国人の自立を目指して、定住を希望する外国人にドイツ語や文化等について学ぶことを義務付けている。また、英国では5年を超えて在留する外国人は英語能力試験や英国文化#13に関する試験に合格して永住権を取得することが義務づけられている。

こうした制度も一部参考にしつつ、外国人向けに日本文化や社会に関する公的なハンドブックを国として作成し、外国人本人および地方自治体・支援団体等が活用できるようホームページ等で広く公開・普及すべきである。

(3)ライフサイクルを通じた支援実施、相談体制の拡充
① 支援に関する実態調査・手続円滑化

日本で生活する外国人が、その出産や介護、障がい等の対応に直面することを想定した支援策について検討すべき時期に来ている。政府においては、「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」の意見書も踏まえ、外国籍の子どもの入園・就学状況や高齢外国人の生活に関する実態調査を実施すべきである。

あわせて到着したばかりの外国人でも、子女教育、介護・保険・年金等に関わる必要な手続に円滑にアクセスできるよう、デジタル庁とも連携して、行政手続のUI・UXの改善と利便性の向上を図る必要がある。政府では、あらゆる国民・外国人住民向けオンライン申請・届出等がスマートフォンから簡単・迅速に完結できるよう、対応を各府省庁・自治体に要請する方針を示しており#14、早期の実現を求める。

並行して、特に外国人労働者におけるシェアが高いベトナム、インドネシアについては、外国人本人による保険料の二重負担を防ぎ、送出国の年金制度における加入期間を円滑に通算できるよう、早期に社会保障協定を締結すべきである。

そのほか、各国でのキャッシュレス化の進展も踏まえ、給与・賞与等のデジタルマネーでの支払いを早期に容認すべきである。

② 相談体制の整備・拡充

外国人が日本で生活するうえで直面する様々な課題について、相談先が明確となるよう、行政における相談体制の一元化と窓口間の情報共有の必要性が指摘されてきた。この点で、法務省、厚生労働省、外務省、経済産業省の関係機関が連携して2020年8月に設置した「外国人在留支援センター(FRESC)」#15は重要な役割を担っており、一層の機能強化が欠かせない。具体的には、入居機関間の相談に関するデータを連携するとともに、申請・届出等の実際の行政手続までを可能とし、真のワンストップ化を実現すべきである。そのうえで、全国の自治体と連携して早期に全国展開する必要がある。

③ 地域社会との連携強化

こうした支援・相談体制の構築にあたっては、公的な枠組みですべてをカバーすることは困難であり、外国人自身が所属するコミュニティ、NPO/NGO等の地域に根差した支援団体、弁護士等の専門家との連携は不可欠である。こうした民間の活動は、すでに日本語学習ボランティア、コロナ禍の生活相談、メンタルケア等様々な場面で外国人の暮らしを支えている。民間の力を支援して活用して社会全体で支援のネットワークを広げていくことが必要であり、政府は地域社会との連携強化や活動環境の整備に取り組むべきである。

(4)永住権取得要件の見直し

外国人が永住権を取得するには、原則として引き続き10年以上本邦に在留していること(この期間のうち就労資格又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していること)が要件となっている。しかし、人材獲得競争の相手となる韓国・台湾等においては5年の在留で永住権を取得可能であり、競争環境のイコールフッティングの観点から、在留期間の要件を諸外国の状況も踏まえて見直すべきである。

あわせて、永住権取得後の公的義務の履行状況等については、第7次出入国管理政策懇談会の報告書#16も踏まえ、永住者の実態について調査を行い、その情報を広く社会・国民に提供していくことを求める。

(5)受入企業の取り組み加速

外国人材が活躍し定着するうえで受入企業が果たす役割は極めて大きい。まずはD&I経営および人権DDの推進による社内の意識・体制の改革が不可欠である。

すでに外国人材を積極的に受け入れている企業においては、メンターの配置、英語習得支援をはじめとする社内インフラ・環境の改善、人事制度の見直し、日本語習得支援、地域との連携等を進めている。こうした先進的な事例を参考に、受入企業の取り組みを加速する必要がある。

社内制度の見直しにあたっては、ジョブ型雇用の導入・活用も有効である。ジョブ型雇用は、主体的なキャリア形成と専門性の高い働き方を望む働き手にとって、自身の能力を発揮できる職務に従事し、成果に応じた処遇が得られる魅力的な制度となりうることから、多様な背景を持つ外国人のキャリア形成における選択肢を拡大することが期待できる。あわせて海外を含めたグループ共通の人事評価制度の導入も考えられる。

「日本語教育の推進に関する法律」#17では、企業は雇用している外国人とその家族に対して、日本語学習の機会の提供その他日本語学習に対する支援に努めることとされている。政府におけるオンライン教材拡充の動きとも連携して、外国人従業員に日本語習得の機会を提供する等、受入企業側の一層の取り組みが必要である。

企業の中には、外国人材が居住する地域に溶け込めるよう、自治体と連携して、地域活動への参画を支援する取り組みも始まっている。外国人材の定着や登用を推進する企業と対応不十分な企業の格差の是正に向けて、経団連としても先進的な事例の発信に努めていく。

(参考)外国人材受入企業における取り組み事例

受入企業の取り組みはここ数年でますます多様化している。経団連が会員企業等に実施したヒアリング調査によると、主立った事例は以下のとおり。

1. メンターの配置

  • 先輩外国人/日本人社員等がメンターとして業務内外の活動を支援。入国当初の携帯電話や電気・ガス・水道の契約、行政手続まで、マンツーマンでアドバイス

2. 社内インフラ・環境の改善

  • 勤怠管理やマニュアル等を多言語化
  • 入社時のチェックリストやe-ラーニング等いつでもアクセス可能な社内ポータルサイトを日英で整備
  • 社内公用語を英語化、社員の英語習得を徹底支援
  • 「やさしい日本語」「やさしい英語」に関する言語トレーニングを提供、外国人・日本人それぞれが半歩ずつ寄り添う社内文化を形成
  • 日本人社員の意識改革に向けた異文化理解の研修を実施
  • 社員食堂が宗教やビーガンといった多様な食の規律等に対応
  • 人事担当部門の日本人職員が、外国人職員の研修に参加することで、外国人にとって必要となる人事制度や支援の気づきを得る機会を確保
  • 英語対応の託児所整備

3. 人事制度の見直し

  • 本人の特性にあった配置・育成、職務の明確化、ジョブ型雇用の導入
  • 年功序列制度や長時間労働といった雇用慣行の是正
  • 帰国のための長期休暇や病気休暇を取りやすい制度の整備
  • グローバルで人事評価制度を統合・再構築し、各拠点での受入を円滑化
  • 高度人材専用のキャリアパス・報酬水準の整備

4. 日本語習得支援

  • 社内で日本語学習講座を設置、社外での日本語学習や受験費用を負担

5. 地域との連携支援

  • 自治体と連携して、外国人従業員が地域のお祭りや清掃活動に参加する等の地域参画の機会を創出

(コラム)「移民」とは誰か? ― immigration と migration

しばしば「『移民』政策を取るべきか」という議論がある。しかしここで注意が必要なのは、議論をしている当事者間で、「移民」についての共通の理解があるのかである。往々にして、「移民」は話し手によって定義が異なるか、曖昧であることが多い。

国語辞典を紐解けば、広辞苑は「労働に従事する目的で外国に移り住むこと」、大辞泉は「個人あるいは集団が永住を望んで他の国に移り住むこと」と定義する。この他、単純労働者を受け入れるべきかという意味で「移民」政策を使うケースもある。

実は、「移民(immigration)」について国際的に共通の定義は存在しない。国連は1998年に各国の統計データを整備するために検討#18を行ったが、ここでは移民(immigration)を定義せず(というより、結局結論を得ることができず)、1年以上母国や定住地以外に滞在する「長期移住(long-term migration)」と3カ月以上1年未満の滞在となる「短期移住(short-term migration)」の2種類に外国人の定義を分けた。

一方、国際移住機関(IOM)は、永住を目的として入国する外国人を「移民」と定義している#19。日本政府はこの定義を元に、日本は移民政策を取らないとしている。自民党でも「『移民』とは、入国の時点でいわゆる永住権を有する者であり、就労目的の在留資格による受入れは『移民』には当たらない」とする文書を公表した#20

なお、移民とは別に、移住(migration)という言葉が学術的にも国際的にもしばしば用いられている。国境を越えて移住する場合は国際移住(international migration)となり、目的や滞在期間を問わず、一般的に外国人の入国・滞在を示す言葉として使われる#21

本提言では、話す人によって定義が異なる「移民」は用いず、「外国人」で表記を統一している。ただし、この「外国人(foreigner)」という定義も国際的には共通していない。日本では、日本国籍を有しない人を「外国人」と定義する(入管法)。一方で、米国、カナダ、豪州などの「移民国家」では、国籍ではなく出生地で外国出生者(foreign-born)と国内出生者(native-born)を区別し、foreign-bornを「外国人」として統計処理する#22。各国の統計を比較する際には、定義の曖昧さを認識しておく必要がある。

政策には論理的な議論が欠かせない。重要な用語の定義に曖昧さや主観性が混じってしまえば、論理的な議論ができないことはもちろんのこと、単なる水掛け論に終始してしまう。「移民」を議論する前に、もう一度、私たちの思い込みを問い直してもいいのかもしれない。

Ⅳ.各在留資格における施策

1.高度人材#23

日本の産業競争力強化に向けて高度人材の戦略的な獲得は不可欠であり、政府においては、高度人材ポイント制度の創設と要件緩和、高度外国人材に関する情報発信・支援提供基盤である「高度人材活躍推進プラットフォーム」の設置、国家戦略特区での特例措置の導入・全国展開といった取り組みを重ねてきた。しかし高度人材ポイント制度の活用が特定の国・地域に偏っているなど、高度人材の誘致に向けて改善すべき点が残っている。高度人材をめぐる人材獲得競争は今後も厳しくなることが見込まれることから、世界各国の優秀な人材に魅力的と感じてもらえるようなインセンティブと受入環境の整備が求められる。

(1)ターゲットの明確化と戦略的誘致

国として必要な高度人材についてターゲットを明確化し、戦略的・集中的な誘致活動を行う必要がある。具体的には、優れたデジタル開発環境を構築するうえで不可欠な技術保有者、世界トップ企業の研究開発拠点やアジア拠点、各地方大学が独自の強みとして打ち出す重点研究分野の研究人材、政府が目指す国際金融センターの実現に必要な海外金融機関・世界トップレベルのベンチャーキャピタル(VC)、更にスタートアップの振興に資する起業家・スタートアップや海外アクセラレータ#24等のアジア拠点等である。

こうしたターゲット人材・企業に対しては、徹底的なプロモーションとサポート体制が必要となる。まずは日本貿易振興機構(JETRO)が運営する「高度人材活躍推進プラットフォーム」も活用しながら、関係する大学・企業・国際会議等において、日本の強みや優遇措置について積極的に発信する必要がある。特に高度人材ポイント制度は親や家事使用人も帯同できるなど特例措置を持つが、十分に周知されているとは言い難く#25、魅力発信が不可欠である。

実際の来日に結びつけるうえで、特に重要なターゲット人材・企業に対しては、政府と自治体が一体となって、住居やオフィスの手配、携帯電話・電力会社の契約から会計士等専門家との面談等のビジネスインフラ面の支援、子女の入学支援まで、ホスピタリティを持って徹底的に支援することも考えられる。

また、優れた研究を呼び込む観点から、特に重点研究分野等を対象に、特許庁審査の迅速性・確実性を引き続き強化するとともに、対外的な発信に努めるべきである。

(2)在留資格取得の円滑化

ビジネス展開のスピードが加速する昨今、優秀な人材を迅速かつ円滑に受け入れるため、高度人材については特に在留資格の取得手続を見直す必要がある。申請手続の完全電子化と問合せ対応の英語化を一層推進し、スタートアップを含めた様々な企業が初めて日本に進出する場合でも、スムーズに手続が完結できるよう配慮すべきである。

在留資格「高度専門職」「企業内転勤」は法人番号に紐づいているため、企業のグループ再編やM&A等、組織に変更がある度に全外国人従業員の在留資格の更新手続が必要となっている。行政・企業双方の負担を軽減するためにも、一括届出制度の導入等の改善措置を取る必要がある。

在留資格「企業内転勤」は現在、本店、支店、その他の事業所において在留資格「技術・人文知識・国際業務」に相当する業務を行う場合に活用が可能となっている。しかし、受入企業においては、グループ間でのグローバルな人事異動の需要が生じており、受入企業の責任を明確化したうえで、幅広くグループ企業内の転勤が認められるよう要件を緩和すべきである。また、海外拠点の生産部門に勤務する主任レベルの人材(勤続年数10年相当を想定)についても対象となるよう、対象職種の拡大を検討する必要がある。

(3)多様な家族関係への対応

ライフスタイルや結婚観の変化等により、欧米を中心に事実婚・同性婚・養子はじめ家族のあり方が多様化している。日本の婚姻・家族制度に基づく出入国在留管理制度では、こうした多様な家族関係のあり方に十分対応できず、優秀な人材が日本で活躍する機会を奪う結果となりうる。現在、日本では同性婚のパートナーは入管法上の「配偶者」には含まれず、当事者双方の本国で有効に婚姻が成立している場合に限り、在留資格「特定活動」による滞在を認めている。他方、事実婚の場合は適用対象外となっており、実際に高度人材の来日を阻害したケースもある。高度人材受入の拡大に向けて、様々な価値観、考えの人を包摂する制度設計が必要である。

2.特定技能

2019年4月の運用開始以来、2.9万人(2021年6月末時点)の外国人が在留資格「特定技能」によって在留している。「出入国在留管理基本計画」(2019年4月策定)では、2年後を目途に制度を見直すことが明記されているが、コロナ禍での出入国制限の影響もあり、具体的な制度改正は未だ行われていない。短期的にはポストコロナにおける需要の急拡大、中期的にはアジア地域の少子高齢化も含めた深刻な労働力不足が見込まれるなか、必要な人材を確保するためにも、戦略的誘致に基づく特定技能の活用が急がれる。

(1)受入規模の拡大・適正活用に向けた制度の見直し
① 受験者および就労者の拡大

ポストコロナにおいては、まず、コロナの影響で中止・延期となった試験の再開と入国の平常化が求められる。これに先立ち、試験実施国および年間の実施回数が十分かどうか改めて検討するとともに、国内外での制度の周知や煩雑な申請手続の改善、外国人側で生じている受験コストの見直しも重要である。

② 対象業種・職種の追加

現在、政府は対象14業種の範囲拡大を検討している。コンビニエンスストア業、鉄鋼業はじめ、社会のインフラ・産業を支えるうえで深刻な労働力不足に直面している業種については、対象を拡大すべきである。技能実習制度にあって特定技能にない対象職種、既存の対象業種における職種の追加等も検討が期待される。対象の拡大にあたっては、客観的な指標・調査に基づき、業種の範囲を特定しつつ、透明性の高い適切なプロセスを経て、判断がなされるべきである。

③ 手続改善・適正活用

特定技能に基づく外国人材の受入は各所管省庁が個別に運用しており、コロナ禍での対応や必要な手続等について足並みが揃っていないことから、司令塔機能のもと連携を強化する必要がある。なお、建設業において、人材の技能レベルや就業履歴を横断的にデータ化する「建設キャリアップシステム」は、外国人材のキャリア形成に貢献するものであり、他業種においても参考になると考えられる。

制度の適正活用に向けて、特定技能ではOTITのような監視機関が存在せず、その必要性について改めて検討が必要である。また、適正な受入の確保と問題是正に向けた円滑な協議のためにも、送出国政府との間で特定技能に関する二国間の協力覚書を締結する必要がある。送出国の上位3か国のうち、ベトナム、フィリピンについては締結済となっており、残る中国についても早期に締結すべきである。

(2)特定技能2号の制度整備

特定技能2号は将来的に永住権の取得が可能であり、企業としても幹部登用等も見据えた中長期的視点から人材育成ができることから、優れた人材の定着を促進したい産業において重要な役割を持つ。しかし、法律上の在留資格は整備されたにもかかわらず、2年以上経っても具体的な制度設計はなされていない。特定技能1号から2号への変更を目指す外国人や雇用者にとっては許可基準が早期に明確になることが望ましく、「特定技能外国人の受入れに関する運用要領」#26に2号の受入に関する規定を設けるべきである。

また、現在は2業種のみ2号が認められており、選定基準および選定プロセスの透明性を確保したうえで、他業種に拡大すべきである。

(3)技能実習からの円滑な移行支援

技能実習2号等を適正に修了した技能実習生は、一定の高い技能や日本語能力を習得した重要な現場人材であり、本人が特定技能への移行を希望する場合には、その移行がスムーズに進むよう支援すべきである。技能実習の監理団体と特定技能の認定登録支援機関は、同一の機関が兼ねているケースもあるが、連携が不十分な場合も多い。OTITや国際人材協力機構(JITCO)は技能実習生のトラブル対応や生活支援に関するノウハウを蓄積しており、特定技能の移行者への支援を継続することも有益である。

また、帰国した元技能実習生が特定技能での滞在を希望する場合に、容易に情報にアクセスが可能となるよう、技能実習制度のOB/OGネットワークを公的に構築した上で、情報提供をウェブ上で行う等の施策も検討すべきである。

3.技能実習

外国人技能実習制度は技能等の移転による国際協力を推進することを目的に掲げ、その理念のもと、有益な研修の場として多くの技能者を育成してきた。とりわけ企業単独型については不適切事例も少なく、日本企業の海外拠点における人材育成を支援する仕組みとなっており、日本企業の競争力強化にも貢献している。今後もこうした制度の趣旨に合致した取り組みを後押しするため、優良な受入企業については手続の円滑化をはじめとした優遇措置を検討していくことが必要である。

一方、労働力不足を要因とする受入も見られるとして、矛盾が指摘されているのも事実である。人権侵害等の不適切事例も生じるなか、政府は技能実習法の制定やOTITの設立により適正化を進めているものの、不適切事例の減少は思うように進んでいない。「ビジネスと人権」に関心が高まる中、国際社会・市民社会の視線も一層厳しくなっており、国際協力という技能実習制度の本来の目的を果たすとともに、適切に活用している企業がサステイナブルに活用しつづけられるよう、実効性のある措置が必要となっている。

(1)デジタル・データ活用による適正化

技能実習生の人権を徹底的に保護する観点から、技能実習生本人の同意のもと、送出機関・実習先に関する情報や実習先における就労状況・賃金支払状況等のデータについて、OTIT等が一元的に把握できるデータベースを構築すべきである。これにより、送出機関に対して過大な借金を抱えているケースや、賃金が支払われていない等の人道的問題を早期に発見・把握し、是正措置を取ることが期待される。加えて、「技能実習生手帳」アプリ等を通じた通報制度が確実に全員に行き渡り、正しく活用されるよう、監理団体・受入企業とも緊密に連携して普及・活用に注力すべきである。

そのためにも、OTITは可能な限り早期に各種申請・届出資料のオンラインシステムを整備し、申請の電子化を実現すべきである。また、技能実習生の在留カード番号、マイナンバー、OTITにおける登録番号は将来的な活用も見据えて連携可能としておくべきである。

(2)関係団体等の機能強化

上記データベースの整備等とあわせて、OTITの組織体制の見直しも重要となる。まずは違反事例の詳細や改善指導の内容等、技能実習制度に関わる情報をこれまで以上に積極的に公表・発信することを求める。足許では監理団体数が急増していることを踏まえ、OTITの適正な監視キャパシティを改めて把握するとともに、必要に応じた計画認定件数の調整と監視体制の増強が求められる。

技能実習生の第2位の送出国となっている中国については、送出機関の基準明確化や適正かつ円滑な受入のためにも、早期に二国間取り決めを締結すべきである。

(3)職種区分の見直し・柔軟化

技能実習生の人権が適切に保護されていることを前提として、より効果的な人材育成・技能移転に向けた制度の改善も必要である。

日本の製造業の強みは現場力に支えられた高品質なモノづくりであり、これらは横断的な技能を習得した多能工や熟練した専門職によって支えられている。こうした人材の育成こそが日本から技能移転できる強みとなるが、技能実習制度の対象職種(移行対象職種)は85職種156作業(2021年現在)と細分化されており、それぞれの必須業務・関連業務の時間数が固定化されていることによって、却って必要な実習の実施や多能工の育成を阻害している。

多能工・熟練専門職の育成に向けて、特定の産業範囲を限定したうえで、職種横断的かつ必須業務の一部を柔軟化した実習計画の策定容認を検討すべきである。その際、人手が足りない部門に自由に配置できる人材調整として本制度が使われることのないよう、受入企業・監理団体における適切な配慮が求められる。

(4)申請手続の簡素化

技能実習はその不正な利用を防ぐために膨大な書類提出が求められているが、企業単独型において、受入企業が海外の工場等に技能移転をする際も、既存の煩雑かつ厳格な申請手続が大きな負担となっており、却って技能移転を阻害している。また、在留資格の取得に3カ月程度要することで、受入現場に研修実施の余力がある適切なタイミングでの受入も困難になっている。法令違反の少ない受入企業かつ企業単独型に限るといった条件を付したうえで、手続書類の大幅な削減と審査の迅速化を行うべきである。

4.留学

大学院・大学等の高等教育機関を卒業した外国人留学生の就職率は36.9%(2019年度)と2014年度の27.0%から上昇傾向にあり#27、政府においては2025年度末までに50%とすることを目指して#28、就職活動や起業準備期間における在留資格「特定活動」の期間限定での付与も進めている。留学生は高度外国人材確保の有力な手段であり、誘致から国内での就職・起業、そして定着まで、より面的な施策を展開する必要がある。

誘致について、コロナ禍の入国制限によって国内の留学生は、2019年末の34.6万人から2021年6月末には22.8万人へと大きく減少した。ポストコロナに向けた各国の人材獲得競争が激化するなか、優秀な留学生の来日に向けた取り組み強化は不可欠である。特に日本における留学生の95%がアジア地域出身者であることも踏まえ、研究・教育現場・就職先での多様性を確保していくためにも、より幅広い国・地域からの受入努力が欠かせない。

【外国人留学生の出身国】

(出所:出入国在留管理庁「在留外国人統計」に基づき作成)

また、卒業後の活躍・定着に向けて、重点研究分野を修了した外国人材については、国内での起業・就業を手厚く支援することが必要である。修士・博士課程を修了した場合、学士と比較して帰国率が高くなっている。JETROでは高度外国人材の採用に関心のある企業が登録し、国内の留学生や海外在住の高度人材に向けて情報発信が可能な「高度外国人材関心企業情報」(OFPリスト)#29を運用している。今後は、OFPリストの一層の活用を促進するとともに、大学が有する情報とも連携すべきである。

起業支援については、国家戦略特区において、在留資格「経営・管理」の取得に必要な事業所要件についてコワーキングスペースでも可能とする特例措置を導入している。特区の事例を精査した上で、早期に全国展開すべきである。また、起業準備期間について、本邦大学等を卒業した後、外国人起業活動促進事業または国家戦略特区外国人創業活動促進事業により自治体から起業支援を受ける外国人起業家に対しては、在留資格「特定活動」によって最長2年間の起業準備期間が認められている#30。制度の活用促進に向けた要件緩和も検討すべきである。加えて、法人設立ワンストップサービスの英語対応等、外国人材がスムーズに会社を設立できる環境の整備も望まれる。

就職支援について、全課程を英語で修了可能な大学・大学院は外国人にとって魅力的である一方で、当該学生が日本で生活したり就職・起業活動を行う場合に困難に直面するケースもあることから、政府において丁寧な就職・日本語能力習得支援が必要となる。

さらに、日本の専修学校の専門課程において、実務教育や日本語教育を受けて、高等教育の資格である専門士・高度専門士を取得する留学生が日本国内で就職し、日本社会で活躍する事例が増えている。現行では、留学生が専修学校の専門課程(2年制、3年制、4年制)を修了し、専門士・高度専門士を授与されると、在留資格「技術・人文知識・国際業務」を取得して就職することが可能となっているが、専攻科目と従事予定の業務内容との関連性について厳格に審査されるとともに、実際の職務内容も厳しく制限されている#31。これにより就職や就職先での職務の遂行が阻害されており、出入国在留管理庁は短期大学士の事例も踏まえ、制限の緩和を検討すべきである。

Ⅴ.おわりに ― 残された課題

国際環境が大きく変わるなか、今後検討が必要な課題もある。

第1に、機微技術の流出防止をはじめとする経済安全保障である。政府では、特定の分野への留学生・外国人研究者の受入を厳格化することを検討しているが#32、その対象は安全保障の観点から必要な分野に限定することで、外国人材の活躍と両立を図ることが求められる。

第2に、DXの進展とコロナによって拡大しつつある、国境を超えたグローバルテレワークやグローバルでの副業・兼業への対応である。所属拠点と実際業務の乖離が発生した場合に、これまでの伝統的な在留資格や課税制度では対処が困難な事例が増えると思われる。また、安全配慮義務等の労働に関するルールの検討・整備をはじめ、DX時代、グローバル時代にふさわしい制度の構築に向けて、国際的な議論が必要となろう。

第3に、真に保護を必要とする難民の受入である。難民の受入は難民条約に基づく人道的措置であり、経済政策とは切り離して検討する必要がある一方で、難民一人ひとりが技能・経験を活かして日本で活躍することができれば、双方にとってwin-winとなる。実際、諸外国では難民やその子孫が移住先で活躍し、受入国の経済社会の発展に寄与しているケースは珍しくない。こうした観点から、難民審査の適正化・透明化はもとより、難民に認定された外国人が日本国内で活躍できる環境の整備を本格的に検討していく必要がある。

上記施策の検討にあたっては、中長期的な社会統合について積極的に国民的な議論を重ね、理解を得るプロセスが不可欠である。

以上

  1. 「『国民の声』を聴く会」開催、「御意見箱」設置、「在留外国人に対する基礎調査報告書」の公表等
  2. 厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」
  3. 「デジタル社会化重点計画」(2021年12月24日閣議決定)では、「マイナンバーカードと在留カードの一体化について中長期在留外国人がより高い利便性を得られるものとするための検討を更に深め、関係府省庁において法令等の整備及びシステム改修を経て、令和7年度(2025年度)から一体化したカードの交付開始を目指す」旨明記
  4. 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2021年12月24日閣議決定)
  5. 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2021年12月24日閣議決定)
  6. 経団連「企業行動憲章 実行の手引き『第4章 人権の尊重』の改訂および『人権を尊重する経営のためのハンドブック』の策定」(2021年12月)
  7. 「日本語教育の参照枠」とは、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に、日本語の習得段階に応じて求められる日本語教育の内容・方法を明らかにし、外国人等が適切な日本語教育を継続的に受けられるようにするため、日本語教育に関わる全ての者が参照できる日本語教育、教授、評価のための枠組み(文化庁)
  8. 経団連「Society 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第一次提言」(2020年7月)、経団連「Society 5.0時代の学びⅡ~EdTechを通じた自律的な学びへ~」(2021年3月)参照
  9. 「在留外国人に対する基礎調査」(2021年2月公表)
  10. 文部科学省「外国人の子供の就学状況調査結果」(2020年3月公表)によると、学齢相当の外国人の子どもの住民基本台帳上の人数は小学生相当8万7,033人、中学生相当3万6,797人の合計12万3,830人で、そのうち1万9,471人に不就学の可能性がある
  11. 経団連「Society 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第二次提言」(2020年11月)
  12. 社会統合に必要不可欠なドイツ語およびドイツの歴史や文化、信仰の自由、男女同権等、ドイツで尊重されている権利や義務等について学ぶことができるコース。ドイツ語については、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の6段階中下から3番目の言語レベルへの到達が期待され、これにより移民のドイツ社会での自立を目指している。
  13. 英国の歴史や文化を紹介したLife in the UKというハンドブックから試験の問題が出題される。
  14. 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2021年6月閣議決定)
  15. 留学生の受入促進・就職、高度外国人材の受入促進、外国人材・家族の人権擁護、法律トラブル、査証相談、労働基準・労働安全衛生等、地方を含む外国人の雇用促進等に対する支援等の施策を一括して実施することにより、効果的・効率的な支援を可能とするため、各機関の関係部門を集約させた外国人の在留支援に関する拠点。2020年7月に開所。
  16. 第7次出入国管理政策懇談会「今後の出入国在留管理行政の在り方」(2020年12月)
  17. 国内および海外における日本語教育の充実を促すための法律。国と地方公共団体が連携して日本語教育の機会を拡充させ、教育水準の維持向上を図ること等を定めている。2019年6月成立。
  18. United Nations Department of Economic and Social Affairs, Recommendations on Statistics of International Migration, Revision 1 (1998)
  19. IOM, International Migration Law No. 34 - Glossary on Migration (2019)
  20. 自由民主党政務調査会労働力確保に関する特命委員会資料
  21. IOM, International Migration Law No. 34 - Glossary on Migration (2019)
  22. OECD, International Migration Outlook 2016
  23. ここでは、「高度専門職」、「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格を取得している大学卒のいわゆるホワイトカラー層を主に対象とする
  24. スタートアップが成長するために必要な経営・資金面の支援、投資家等とのマッチング機会を提供する企業等
  25. 政府の委託調査「令和元年度欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査 報告書」(2020年3月)によると、外国企業115社にヒアリングしたところ、高度人材ポイント制については51%が「聞いたこともない」、23%が「詳しくは知らない」と回答。また、使用実績の有無について、「使用実績有り」と回答した企業は106社中7%に止まる
  26. 出入国在留管理庁「特定技能外国人の受入れに関する運用要領」(2021年10月改訂)
  27. 独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「外国人留学生進路状況・学位授与状況調査」
  28. 対日投資促進戦略(2021年6月対日直接投資推進会議決定)
  29. 2022年2月現在316社が登録
  30. このほか「留学生就職促進プログラム」の採択校若しくは参画校又は「スーパーグローバル大学創成支援事業」の採択校を卒業した場合等にも最長2年間の在留が可能
  31. 例えばホテル業に関する専修学校専門課程を卒業した場合、ホテルの宿泊部門(フロント、ベル、ドアパーソン、客室管理等)のうち、訪日外国人客への接客が伴うフロント業務には従事可能だが、客室管理の業務は認められない。また訪日外国人客向けであっても、料飲部門(レストラン、ラウンジ、バー等)や宴会部門(バンケット)への配属も認めていない(レストランサービス技能検定の国家資格取得者の業務等も含む)。日本旅館の仲居のようにすべてを担当するマルチタスクの場合も許可されない。
    また、コンビニエンスストア業においては、店舗運営管理や通訳・翻訳を主たる業務として許可された場合、店舗で勤務している場合に当然必要になるレジ接客、品出し等の業務(加盟店主や店長であっても必要に応じて実施するもの)が認められない。
  32. 「経済財政運営と改革の基本方針2021」(2021年6月閣議決定)では、「留学生・研究者等の受入れの審査強化に資する体制整備等を推進する」と記載