Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策  防衛計画の大綱に向けた提言

2022年4月12
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

わが国の安全保障環境は厳しさを増している。北朝鮮は本年1月以降、ミサイルを発射し続けており、核の脅威も依然として存在する。中国は国防費を大幅に増加させ、最先端の装備品を開発して軍事力を質・量ともに急速に拡大し、太平洋や南シナ海への海洋進出を活発化している。ロシアは2月、ウクライナに侵攻を開始するとともに、3月に北方領土で軍事演習を行うなど極東地域での軍隊の活動が活発である。

加えて現在、安全保障をめぐる課題は複雑化かつ多様化している。安全保障上の領域は、従来の陸、海、空に加えて、宇宙、サイバー、電磁波にまで拡大している。近年は、AI(人工知能)を活用して、ドローンの利用を含めて装備品の無人化や自動化が進んでいる。

こうしたなか、岸田首相は昨年10月8日の所信表明演説で、国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組むと表明した。これを受けて、防衛省は11月に「防衛力強化加速会議」を設置し、防衛計画の大綱などの改定に向けた検討を進めている。今後、本年末に向け、国家安全保障戦略や防衛計画の大綱などの改定に向けた動きが本格化する見込みである。

そこで、経団連として、防衛産業の現状を踏まえ、防衛計画の大綱に向けた提言を取りまとめる。

2.防衛産業の現状

防衛産業は、防衛装備品の開発・生産、維持・整備、運用のライフサイクル全般に関わり防衛の一翼を担う。厳しい安全保障環境のもと、自衛隊の活動範囲が拡大するなかで、防衛産業の役割は一層重要になっており、有事における装備品の調達や修理等の対応、改修や能力向上などへの迅速な対応を通じて、高い可動率#1の維持に貢献している。

政府独自の工廠がないわが国においては、民間の防衛関連企業が防衛装備品を生産する。防衛装備品は多数の部品から構成されており、防衛産業のサプライチェーンにおいては、大企業から中小企業まで、多くの企業がそれぞれ重要な役割を果たしている。

近年、防衛産業にとって厳しい環境変化が続いている。国産の防衛装備品の調達予算の横ばい傾向が続くなか、海外からの装備品調達が増加しており(図1)、2019年度は米国からのFMS(対外有償軍事援助)による装備品調達額は約7,000億円となった(図2)。また、装備品の高度化と複雑化により、調達単価が上昇し、調達数量が減少している。こうした傾向が続けば、製造の空白期間や、年度ごとの調達量の増減が生じ、防衛産業は安定的な操業ができなくなり、人員規模を縮小せざるを得ない。

図1:国内向・国外向の調達額および輸入比の推移#2

図2:FMS予算額の推移

わが国の防衛関連企業では、欧米の企業に比べて防衛事業が売上に占める割合や利益水準が低いため、防衛事業を維持する必要性について、ステークホルダーへの説明に苦慮している。厳しい経営環境において、将来性が見通せず、防衛事業から撤退する企業が相次いでおり、事業の承継も容易でない。その一方、防衛産業の顧客は防衛省のみにほぼ限定され、市場規模の拡大が見込まれないなか、防衛産業に参入する企業は少ない。こうした防衛産業の特徴により、防衛産業基盤が一旦失われると、回復することは極めて困難となる。

3.防衛産業政策の具体的施策

本年末の国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の改定において、防衛産業の位置付けおよび防衛産業基盤の整備・強靭化の方針について明記し、わが国の防衛産業政策の一貫性を担保すべきである。わが国としての外交・安全保障政策のもとで、防衛産業は国防を担う重要なパートナーであると位置付け、防衛産業基盤の整備・強靭化に資する政策を体系的に実施すると表明する必要がある。特に、防衛計画の大綱はわが国の防衛の基本方針を示すものであり、防衛産業政策が安全保障政策の構成要素の一つであることを明記すべきである。中期防衛力整備計画においては、適正な予算の確保について明記することが求められる。

また、防衛産業政策を効果的に実施するためには、防衛省と防衛産業が双方の課題を正しく理解し、ともに解決していくことが重要である。防衛省が防衛産業を支援して課題を解決する新たな枠組みについて、米国をはじめとする諸外国の取組みも参考に、現行制度で解決できないものについては、必要に応じて法整備を含めて検討されるべきである。

防衛産業政策の具体的な施策として、以下の5つが挙げられる。

(1) 防衛生産・技術基盤の維持・強化

① 「防衛生産・技術基盤戦略」の改定

防衛省が2014年6月に策定した「防衛生産・技術基盤戦略」では、防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けた諸施策が示された。しかし、前述のとおり、国産の装備品調達の予算が横ばいのなか、海外からの装備品調達が増えており、防衛産業をめぐる環境は厳しい状態が続いている。このような状況を踏まえて、防衛計画の大綱に基づいて同戦略を改定すべきである。

防衛計画の大綱に基づく装備品調達の最適化を図るため、防衛産業の育成の観点も含めた基本方針を策定し、防衛生産・技術基盤戦略において具体化を図る必要がある。わが国として、安全保障の観点からも防衛装備品の国産化を念頭に置きつつ、調達の自律性を確保することが重要である。その観点から、国内に生産・技術基盤を保有・維持する装備品、国際共同研究開発を推進する装備品、ライセンス国産を推進する装備品、輸入する装備品の明確化が求められる。

近年、海外調達が増加しているなか、FMSを含め海外から輸入した装備品のなかには、中核技術がブラックボックスとなっており、国内での修理・整備の対象とならないものがある。国内の生産・技術基盤を維持・強化するため、海外調達した装備品の技術開示を進め、修理・整備の対象の拡大を図る必要がある。とりわけ、日米共通の装備品の修理・整備基盤の強化という戦略的な観点も踏まえると、米国から輸入する装備品のサプライチェーンに、わが国の防衛関連企業が参画し、国内での維持・整備や米国への部品供給が行えるようにすることが重要である。

防衛生産・技術基盤戦略の実施にあたり、装備品の開発、調達、整備・運用の効率化が求められる。開発期間の短縮や、部品の共通化による調達価格の抑制、整備や運用の共通化により、ライフサイクルコストの抑制等を図ることが可能である。例えば、装備品の開発期間を短縮して、運用面でのニーズに迅速に対応するためには、試作品の運用実証と装備改善の反復を行う開発手法を実施することが有効である。

国産装備品の継続的な調達により予見性を確保し、国内の防衛生産・技術基盤を維持・強化するためには、長期間にわたる適正な予算の確保が求められる。装備品の長期的な運用構想を明示したうえで、研究開発、調達、維持・整備に関する予算を継続して確保することが重要である。適時に必要な技術を獲得するため、長期的な装備構想のもとで、技術の研究開発を継続的に実施する必要がある。

② 防衛産業のサプライチェーンの整備・強靭化

防衛関連企業の撤退が相次ぐなかで、国内の防衛産業のサプライチェーンの維持は危機的な状況にある。防衛産業のサプライチェーンを整備・強靭化するため、防衛事業の予見性を確保する観点から、中期防衛力整備計画の別表に示された調達予定数量について、確実な達成を図るべきである。中期防衛力整備計画の別表に示されていない装備品の安定的な調達も図ることが求められる。

防衛関連企業への支援としては、以下の3つが重要である。

  • 防衛産業のサプライチェーンにおける防衛関連企業の倒産や撤退に関する情報共有
  • 防衛関連企業の撤退が生じた場合、サプライチェーンの再構築に必要な初期投資への支援
  • 防衛装備品向け工場設備や施設を維持・確保するための企業の負担を軽減する措置として、防衛省が資産にかかる費用を負担#3

(2) 調達制度改革

わが国の厳しい財政状況のなか、防衛装備品の調達制度のさまざまな改革が行われてきたが、依然として課題が残っている。企業努力を明確に評価し、コストダウンを実現した企業が報奨を確実に受け取れる仕組みを構築することにより企業のインセンティブを引き出し、限られた予算で効率的な調達を実現することが重要である。企業と防衛省の双方にメリットがある契約制度を構築するため、さらなる調達制度改革に向けた以下の施策が必要である。

① 適正な利益水準の確保

契約締結時の利益率に上限が課せられているなか、想定していないもしくは想定困難な追加コストが契約履行中に発生した場合、企業側は利益からこれを負担せざるを得ないのが実情である。この結果、利益が定常的に悪化し、防衛事業から撤退する企業が相次ぐ一因となっている。

このような企業側の負担を軽減するため、契約履行中に生じる不可避なコスト高騰(材料・部品等の大幅な値上がり等)を反映できる契約変更または契約履行後の精算の仕組みを含め、欧米の事例#4も広く参考にしながら、わが国の調達制度を改善して官民の適切なリスク分担を実現するべきである。

加えて、企業側が過度に不利にならないような経費率の見直し等により、中小企業も含めた防衛関連企業の適正な利益水準を実現することで、新たな設備投資や技術開発を行う好循環を形成する必要がある。これにより、企業が株主をはじめステークホルダーに対して、防衛事業の維持の必要性について説明しやすくなる。

② 調達手続の効率化

防衛事業の人員を増やすことが難しいなか、調達手続を見直して業務の効率化を推進していく必要がある。中央調達や地方調達における手続の共通化および簡素化・短縮化、契約関連書類のデジタル化を強く推進するとともに、作業効率化促進制度#5など企業側の負担が大きい制度については、見直しと効率化を図ることが重要である。

③ 契約条件の見直し

防衛関連企業にとって調達数量の予見性を向上させるため、長期契約および一括契約の活用を推進すべきである。その際、契約履行中に直接材料費#6や経費率の変動を補正できる制度を合わせて導入し、企業のリスクを軽減することが重要である。

また、企業に責任を問えない特殊な事情が発生し、契約で定められた納期までに装備品を納入できない場合への対応も必要である。例えば、近年、装備品の部品となる半導体の供給が不足し、生産納期の遅延や、開発・生産コストの増加などの課題が生じている。こうした場合には、納期の延長や、契約金額への一定の配慮を行う必要がある。

支払い条件については、キャッシュフローが重視される企業環境や、他の公共事業の状況を踏まえながら、前払いや中間払いなどの工事の進捗に合わせて支払いの時期や回数を柔軟にし、前金調整率の撤廃等を実施することが求められる。政府の支払遅延利息より高率となっている延納金制度を見直すことも必要である。

④ 長期的・総合的に評価する入札制度の検討

現行の総合評価落札方式では取得価格以外の要素を含めて評価しているが、装備品の可動率の向上に注力している国内企業の開発技術力や製造体制、ライフサイクルコスト、補給・整備体制(サプライチェーン)を維持できる能力の有無等を長期的かつ総合的な視点から評価する入札制度を検討すべきである。

特定の1社による入札が続いている量産品の調達については、随意契約も適宜活用していくことが有効である。

(3) 先進的な民生技術の積極的な活用

急速な技術革新に伴い、防衛分野においても高度に先端的な技術が必要とされている。防衛技術と民生技術の境界はなくなりつつあり、防衛装備品に適用可能な技術領域が拡大している。防衛省と関係府省、防衛産業と他産業等が有機的に連携することで、わが国全体として研究開発の効率性と戦略性を向上させることが重要である。

経済と安全保障の関係が深まり、米中をはじめとする各国の技術覇権の争いや、サイバー攻撃の激化などにより、企業からの機微技術の流出が大きなリスクとなっている。安全保障上の観点から、わが国の技術優位性を確保するため、技術を保全して育成していくことが求められる。政府は2月、先端的な重要技術の開発支援や、特許出願の非公開に関する制度を創設すべく、経済安全保障推進法案を通常国会に提出した。

先進的な民生技術を持つ企業が、防衛技術の研究開発を推進できる環境を整備するため、以下の施策が重要である。

① 先進技術開発の推進

先進技術を活用して防衛装備品を開発するためには、企業が新しい技術開発にチャレンジできる制度の整備が必要である。

まず、先進技術開発の推進に向けて、防衛事業を有しないスタートアップなどの企業や研究機関等が、防衛産業と連携し、あるいは単独で、装備品を開発する取組みを推進するための制度の整備が必要である。例えば、スタートアップなどの企業が有する安全保障に資する可能性がある技術シーズを効果的に見つけ出して活用するための仕組みの構築などが挙げられる。その際、米国の国防総省のDARPA(Defense Advanced Research Project Agency:国防高等研究計画局)が実施している民間の多様な技術研究の先進性を比較して評価する事業などが参考になる。

また、現在、防衛省が検討している「登録認証制度」と「早期装備化特区制度」は、安全保障環境の急速な変化に対応するため、先進的な民生技術を活用し、早期の装備化を実現する制度であり、効果的な制度になることを期待する。制度設計にあたり、防衛省に先進技術を登録した企業は、装備化が実現した際に、調達における先行者利益などのメリットを認めるように留意することが求められる。

② 研究開発ビジョンの継続的な見直し

防衛関連企業が長期的な観点から研究開発を行えるようにする必要がある。要素研究から装備開発までを見据え、また、海外移転や共同開発等も想定して、具体的な装備品の運用構想と研究開発ビジョンを継続的に見直すべきである。安全保障環境の変化に応じた装備品の研究開発を行うとともに、防衛関連企業の投資の予見可能性を向上させるため、同ビジョンを見直す際には、官民が意見交換を行う場の設置が求められる。

また、装備化までのロードマップを示したうえで、研究開発予算を増額すべきである。研究開発の対象としては、昨今の安全保障環境の変化に対応できるよう、重点的な投資分野を決める必要がある。例えば、無人化・省人化、スタンド・オフ火力、宇宙、サイバーセキュリティ、5Gなど次世代通信、AI、量子技術などが挙げられる。

(4) 防衛装備・技術の海外移転

防衛装備・技術の海外移転は、わが国の安全保障を強化するために、米国をはじめ価値観を共有する諸国との防衛協力を推進する重要な方策の一つであり、わが国の防衛生産・技術基盤の強靭化にもつながる。

2014年に政府が防衛装備移転三原則を閣議決定して以来、部品や構成品の海外移転の実績はあるが、完成品の輸出は1件にとどまる。海外移転の推進のため、政府主導のもと、防衛省をはじめ関係省庁が横断的に連携する体制を強化したうえで、以下の施策を講じることが重要である。

① 海外移転の方針の策定

防衛計画の大綱では、政府の外交・安全保障政策に則って、防衛装備・技術の海外移転を実施する方針を策定する旨を明記すべきである。海外移転の方針に盛り込むべき点は以下のとおりである。

  • 外交・安全保障政策に基づく国・地域別の戦略
    装備移転の対象国・地域や、移転の対象となる装備品や技術を定めた戦略が必要である。そのうえで、官民が連携して、情報共有を図る取り組みが重要である。
  • 国際共同開発への対応方針
  • 政府間協定(技術移転協定や情報保護協定)の締結の方針
  • 海外に提供する装備品・部品・役務等に関する具体的基準 など
② 官民連携による海外移転の推進

海外移転においては、防衛装備品以外の取引条件(オフセットなど)や装備品の国内の調達体制や企業の契約範囲を超える内容を含むことから、相手国政府には、日本国政府が対応して交渉することが基本である。装備品(完成品・部品)の海外移転に関する案件の形成を推進するため、政府主導のもと、官民が連携して以下の3点に取り組む必要がある。

  • 政府首脳へのトップセールスなど外交ルートの活用
  • 装備品の維持・整備、教育や運用支援を含めたパッケージ型提案
  • 政府間交渉(オフセットを含む)や情報収集 など
③ 海外移転を推進する措置

わが国の防衛関連企業が装備品を海外移転する際には、長年の実績を有する海外の政府・防衛関連企業と競合することは避けられない。したがって、海外移転を意識した国内開発の実施や、官民の協力体制や支援体制を構築する必要がある。

防衛産業の競争力を向上させ、事業性を確保する観点から、海外移転に伴う初度費や技術資料の使用料の改善、設備投資への支援が重要である。加えて、装備品の海外移転に伴い、他国への技術情報の開示や共有が必要になった際に、防衛装備移転に関連する手続の迅速化を図るべきである。

海外移転が実現した後は、わが国から相手国に対して、第三国移転に関する技術管理を求め、自衛隊による教育も含んだ運用支援を行うことになる。また、政府間でオフセット交渉などを行う海外移転の案件について、企業が契約上のリスクを負うことは難しい。こうした課題を解決するため、日本国政府が外国政府から防衛装備品の発注を受けて、わが国の防衛関連企業が日本国政府に納品し、日本国政府が外国政府に装備品を移転する仕組み(日本版FMS制度:日本政府経由での装備移転)の創設を検討することが求められる。

(5) 防衛産業サイバーセキュリティ基準への対応

防衛省は情報保全強化の観点から、米国政府が企業に適用しているガイドライン(NIST SP800-171)に準拠する防衛産業サイバーセキュリティ基準を本年4月1日に策定し、2023年度の契約から適用を予定している。防衛関連企業としては、サプライチェーンに属する中小企業も含めて、同基準に対応する必要がある。

制度の運用にあたっては、防衛産業サイバーセキュリティ基準において保護対象とすべき情報の具体化、要求基準を満たす具体的対策の明確化、情報の秘匿性やセキュリティに関するインフラの進化を考慮した基準の見直しなど、弾力的な対応が求められる。

また、企業に過度な負担が生じないように配慮すべきである。防衛関連企業の多くでは、情報システムを含む社内のインフラの多くを防衛以外の事業に依存している。防衛事業独自の情報システムの構築、維持、管理にあたり、ハードとソフトの初度費だけでなく、維持・運用にかかる経費も契約金額に反映することが重要である。

同基準に対応するため、専用ネットワーク化や情報管理を行う保護施設等の特殊なインフラの整備が急務である。同基準の適用にあたり、セキュリティシステムの構築や維持の容易化にも配慮して、所要の予算を確保する必要がある。

同基準の制定を契機に、サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ強化に向けた取組みを推進することも重要である。政府およびサプライチェーンを構成する企業が、サイバー攻撃に関する情報や対策を共有するプラットフォームを充実させることが必要である。

4.おわりに

経団連は長年にわたり、防衛計画の大綱の改定の機会などにおいて、防衛産業政策のあり方に関する提言を公表してきた。2000年代以降の提言においては、防衛産業の厳しい経営環境を踏まえ、防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けた政策や、装備品の海外移転の推進などを求めた。

こうした活動もあり、政府の防衛産業政策には2010年代に一定の進展が見られた。しかし、防衛事業から撤退する企業が相次ぎ、装備品の海外移転が進まないなど、防衛産業をめぐる状況は依然として厳しく、防衛産業政策のあり方を改めて見直すことが求められている。

本年末の国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の改定は、防衛産業基盤の強化を図るための制度改革を加速する機会である。防衛産業としては、政府の方針のもと、わが国の安全保障に貢献する装備品の開発・維持・整備や海外移転、先進的な技術開発に努めていく。

防衛産業の機微技術の流出を防ぐことは、わが国の国益に直結する。今後、防衛省による防衛産業サイバーセキュリティ基準を踏まえ、防衛関連企業は情報保全やサイバーセキュリティ対策の取組みを強化していく。

経団連としては、防衛産業の発展に努め、わが国の安全保障に貢献していく所存である。産業界全体として防衛産業基盤を強化する取り組みを推進し、関係方面への働きかけを行っていく。

以上

  1. 装備品を運用したい時に正常に動かすことができる時間の比率。
    戦闘機の場合、航空戦力(可動機数)=配備機数×可動率。
  2. 金額は、当初予算額(物件費(契約ベース))の合計である。「国外向」とは、物件費(契約ベース)のうち為替対象額(FMS、一般輸入、国産装備品中の部品輸入および開発分担金)の合計。「国内向」とは物件費(契約ベース)から為替対象額を差し引いたもの。また、「輸入比率」は物件費(契約ベース)に対する為替対象額の比率を算出したもの。
  3. 例:防衛省が設備投資をして、企業に無償で貸与すること。または、生産設備の維持費や更新費を装備品の予算に計上すること。
  4. 欧米の主要な防衛関連企業の利益率(2017年)は10%以上である。また、防衛省の契約制度研究会(第36回)においても、事業面を評価して利益率を採用する米国の制度の検討について言及されている。
  5. 装備品や修理の価格を原価計算方式により決定して請負契約を締結している契約企業の作業効率について作業現場における実態調査・分析を行い、防衛省と企業が共同して作業の効率化の方法を探求する制度。
  6. 製品の製造に伴って直接発生する素材費、原料費(中間製品を含む)、部品費等の主要材料費。