会長コメント/スピーチ 記者会見における会長発言  定例記者会見における中西会長発言要旨

2018年6月11日
一般社団法人 日本経済団体連合会

【G7首脳会議】

G7サミットの中で踏み込んだ議論が行われ、首脳宣言も取りまとめられたと承知している。自由貿易を守り、経済成長を推進するべきという、経団連がこれまで主張してきたこともしっかりと盛り込まれている。他方、トランプ大統領はディール外交を展開し、あらゆることを交渉の材料に用いている。これまで国際社会が築き上げてきた国際経済秩序と矛盾することもあるのは事実である。こうしたことがG7の新たな課題になってはいるが、今回のG7首脳会議でも、各国とも主張すべきことは主張できたと思う。北朝鮮問題を抱えているから、貿易問題で日本政府の立場が弱かったという指摘もあるが、そうしたことは決してなく、むしろ安倍総理は今回のG7や二国間の首脳会談などのチャネルを通じて、米国にうまく対峙できていると思っている。

新興国市場からの資金の引き揚げについてはまだ顕著ではないと認識しているが、一つのリスクではある。新興国の中には、中国という大国もある。中国の動向は日本経済にも影響を及ぼす。こうした動きもしっかりと注視していく。

【日米経済関係】

7月より、日米の間で「自由(Free)で公正(Fair)かつ互恵的(Reciprocal)な貿易取引のための協議」(FFR)が始まる。厳しい交渉が予想されるが、悲観視はしていない。既視感がある。1980年代の日米貿易摩擦を経て、今日の日米経済関係がある。米国は強大な国であり、時にこうしたことが起きる。これまで安倍総理はトランプ大統領と個人的な信頼関係を築き、交流を深めてきた。今後、これまで以上にさまざまなチャネルを通じて交渉することも求められてくるかもしれない。相互依存度が極めて高い日米経済関係を前提に、政府は引き続き、米国と経済関係の強化、通商問題の解決に向けてあらゆるツールを使って、対応してもらいたい。日本政府は外交面でしたたかさも持ち合わせているので、期待している。経団連も米国が一筋縄でいかないことはよく承知しており、ワシントンDCでロビー活動するだけではなく、各州の政府、経済界との関係強化に向けて活動を展開してきた。引き続き、力を入れていく。

【通商問題】

WTOは、何か物事を決めるという観点からは、加盟国が多いため、有効に機能できなくなっている。ただ、WTOには司法(裁定)機能があり、昨今の通商問題を巡っては、これを有効に活用していくべきである。日本政府も同様に考えていると承知している。他方、単に「WTO違反」という決着の付け方では、ある局面は打開できたとしても、それで次の合意も当然得られるというものではない。とりわけ、今のデジタル化時代においては、データの取扱いという課題に対して、WTOで物事を決めるのは容易ではなくなっている。

【米朝首脳会談】

一度の首脳会談ですべてが解決することはなく、一喜一憂しても仕方がない。まずは第一歩として、首脳同士が真正面から話し合うことを歓迎すべきである。今回の首脳会談が、朝鮮半島の緊張緩和にどのように結びつくのかをしっかりと見極めながら、さまざまな機会を活用して、日本としても主張すべきことを主張していくことが必要である。

【新潟県知事選】

選挙戦を通じて、柏崎刈羽原発の再稼働が論点の一つとなった。民意を前向きに受け止めて、それを醸成していく方が選ばれたという点で良い結果であった。勝ち・負けばかりに焦点を当て、与党候補が勝ったがどうか、と問われるが、民意を反映できる人が知事に選出されたということであり、歓迎したい。

安全性が確認された原発については、地元の理解を得て、早期に再稼働してほしいというのが経団連のスタンスである。安全性が確認された柏崎刈羽原発については、早期に再稼働してほしい。避難計画等を含め原発の安全性をいかに確保するかについて、住民や地域に理解してもらい、考えを共有してもらえるかが鍵である。

【大学改革】

わが国の大学のあり方については、私立大学の赤字の問題のみならず、国立大学の定員の問題や研究力の低下、30年前と同じ学科・講座での教育、適切な大学の運営・経営、建前だけの学長・総長への権限の集中など、課題が山積している。今月発表する経団連の提言では、こうした問題についてかなり網羅的に指摘している。

かつて「文系の学科は不要」と経済界が要望したとされたが、そのような要望はしたことはなく、議論が出ること自体がおかしい。技術だけ分かる、数学だけ分かる人材では、ビジネスの世界では通用しない。文化的背景に関する理解があることが不可欠である。文系・理系という分類から変えていかなければならない。

【外国人材の受入拡大】

人手不足だから移民を受け入れるのかと問われれば、そうではない。日本の産業競争力や研究力、学問のレベルを向上させるために、多様性(ダイバーシティ)を増していくことは必須である。基本的に日本語を話すのは日本人だけであり、それでいて日本人は外国語が上手いわけではなく、コミュニケーションの面でハンディを負っている。日本の側から、この日本語というハードルを課してしまっているとも言える。大前提として、もっと多様性のある社会であるべきである。他方、異なる文化・社会を背景に持つ方々を受け入れるにあたっては、社会的なコストも考慮に入れなければならない。移民という形にこだわるのではなく、海外の人にもっと気軽に日本を訪れてもらい、働いてもらおうというのが安倍総理の真意だと受け止めている。

以上