月刊 Keidanren 2001年1月号 巻頭言

決意を新たに新世紀に臨む

―勇気をもって構造改革を進め、活力溢れる国を築く―

今井会長 今井 敬
(いまい たかし)

経団連会長

 私たちは、いよいよ21世紀という新たな歴史の扉を開きました。
 顧みますと、20世紀において人類は、科学技術の飛躍的な進歩によって陸から空、さらには宇宙へとその活動領域を拡げ、交通手段や情報通信技術の発達とも相まって、世界の距離は縮まり、時間の観念もまた大幅に短縮されました。
 21世紀においても、技術革新はこれまで以上のスピードで私たちの暮らしに変化をもたらし、社会・経済のグローバル化が一層進むことは間違いありません。こうした中では、時代の変化を的確に捉え、社会・経済の構造改革を迅速かつ果敢に実行しうるか否かが、一国の盛衰を左右することになります。今世紀初頭の数年間、わが国はまさに重大な岐路に立っていると申せましょう。

 わが国にとって喫緊の課題は何よりもまず、世界に例を見ない少子・高齢化社会の本格的到来への対応であります。
 財政面で巨額の負の遺産を抱える中、生産や消費の担い手が減り続け、かつ高齢化していくわが国が、今後とも持続的な経済成長を実現するために、痛みを伴う改革は避けて通れません。政治による力強いリーダーシップのもと、財政・社会福祉・医療などを包含したグランドデザインの策定と、その一日も早い実行が不可欠です。

 一方、経済社会の新たな発展の鍵を握っているのが、ITやバイオテクノロジーなどの新分野における技術革新です。
 国を挙げてIT革命を成功させた米国が、インフレなき持続的成長を実現させ、かつての深刻な財政赤字を一掃し、黒字に転じたことは、私たちに大きな示唆を与えます。日本におけるIT革命はまだ緒に着いたばかりですが、i−モードに代表される多機能型携帯電話の急速な普及など、わが国独自の情報基盤は着々と整備されております。今後とも技術開発を急ピッチで推進し、世界最先端のIT社会構築を目指すべきであります。
 併せて、画期的な新薬開発や、遺伝子情報に基づくテーラーメイド医療などを可能にするバイオテクノロジーの進展は、わが国におけるエージレス社会実現の観点からも、誠に大きな意義を有しております。ミレニアムプロジェクトにおいて着手されたヒトゲノムに関する研究についても、国家的戦略テーマとして継続して追究することが求められます。
 ITやバイオテクノロジーのような、わが国経済を牽引するリーディングインダストリーを育成するためには、政府・企業・大学間の密接な連携と協力のもと、商品化などの成功事例を着実に積み上げていくことが重要でありましょう。

 また、20世紀における工業社会の飛躍的発展の一方で発生した地球環境問題への反省を踏まえ、環境や自然と調和のとれた経済社会を実現することも大きな課題です。リサイクル技術、燃料電池などの技術開発を通じ、循環型経済社会システムの構築を進めるのは勿論のこと、環境先進国として環境負荷軽減の技術・ノウハウを世界へ広げていくことを、わが国独自の国際貢献として一層推進すべきであります。

 さらに、今世紀においてわが国が活力に溢れ、魅力に満ちた国となるために、これまで以上に求められるのは「個人の自立」であります。そのためには、わが国社会に見られる前例踏襲主義、結果の平等を重視する意識・価値観から、独創性を尊重し、より機会の平等を重視する方向へ変革していく必要があります。かかる観点から、教育システムの改革は国家百年の計を画す重要なテーマと考えます。

 グローバル化・ネットワーク化が一層進展する中、政府・民間企業はじめ国を挙げて社会・経済の構造改革を推し進め、持続的成長の基盤を構築することが、新世紀の劈頭に立つ私たちの責務であります。
 こうした認識のもと、21世紀の始めとなる本年、直面する諸課題の解決に向け、勇気をもって前進してまいりたいと存じます。


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