月刊 Keidanren 2002年 3月号 巻頭言

わが国農業の競争力強化と活性化に向けて

香西副会長 香西昭夫
(こうさい あきお)

経団連副会長
住友化学工業会長

 さる1月13日、わが国にとって初めての自由貿易協定(FTA)がシンガポールとの間で調印された。FTAとは、二国間あるいは隣接する国や地域どうしが関税を撤廃して共同市場を形成するバイラテラルな取組みである。

 世界貿易機関(WTO)を中心とした多国間貿易主義は、加盟国の拡大等によって合意形成に時間がかかるようになった。こうした中でFTAを締結しようとする国が急速に増加し、FTAは世界の潮流となりつつあるが、日本はWTO体制を重視する立場から取組みが遅れていた。

 しかしながら、今回のシンガポールとの締結を皮切りに、小泉首相はさらにアセアン諸国全体に対しても日本との間のFTAを含む包括的経済連携構想を提案し、関係各国からも高い評価を得ている。また、経団連では昨年来、日韓両国のFTA締結に向けて全経連と話合いを進めており、これまでの合意に基づいて「日韓自由貿易協定に向けた共同コミュニケ」を公表し、両経済団体は協力して日韓両国政府にFTAの早期締結を働きかけている。

 FTAの交渉にあたってわが国の泣き所は農業である。実質上すべて(Substantially all)の分野にわたって関税を撤廃することが必要なFTAにおいて、シンガポールのように農業生産がほとんどない国と違って、韓国にせよ他のアセアン諸国にせよ農産物市場の開放が課題となる。

 昨年12月、総合規制改革会議は、農業の国際競争力強化には農業経営の株式会社化を一層推進する必要があるとして大胆な規制緩和を答申し、政府も検討を開始した。かたや農村にあっても、少子高齢化の影響で今後ますます後継者難が深刻化していくだろう。

 いかにしてわが国農業の生産性向上と国際競争力の強化を図り、若い世代が夢や希望を持って働ける産業として農業を活性化するか。わが国農業再生のビジョンを早急に打ち立ててその市場経済化へ向けた大胆な政策転換を、政治が決断する時がきたように思う。


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