月刊・経済Trend 2004年9月号 巻頭言

「科学技術創造立国」を支える人材の育成を

谷口副議長 谷口一郎
(たにぐち いちろう)

日本経団連評議員会副議長
三菱電機会長

ようやく回復基調に入った日本経済は、デジタル家電をはじめさまざまな先端技術が切り拓いてきた産業が中心になって支えている。日本経済の持続的発展は、今後も競争力のある製品や事業を創造する科学技術に大きく依存することは言うまでもない。また、燃料電池や太陽光発電など環境・エネルギー分野をはじめとする最先端の科学技術は、将来にわたるわが国の国際社会への貢献という面でも大きな役割を担っている。

今後、わが国の科学技術の振興を図る上で鍵となるのは、それを支える人材である。科学技術に携わる人材の育成は、大学等の教育現場における対応だけでなく、産業界としても自らの問題として取り組むことが必要である。実践教育の面では、インターンシップ制度の充実を図り、単に学生に対して知識を提供するのではなく、企業の研究開発に携わる機会を提供し、視野を広げ柔軟な発想を育てることが重要である。たとえば、教育現場からやる気のある優秀な学生を長期間派遣してもらい、企業は学生にも明確な役割や目標を与え、役割や成果に応じた処遇を実施することなどが考えられる。また、長期的な視点からは、科学技術と触れ合うイベントの開催など、子供の頃から科学への興味や創造性を育む機会を産業界が提供していくことも必要である。研究開発においては、今後もさまざまな分野の技術の融合や視点を変えた発想が必要となり、自分の専門外であっても興味を持ち、畑違いの分野であっても果敢にチャレンジするような柔軟性が必要である。短期・長期の両面で、柔軟で創造性あふれる人材が育つ環境を作っていくことが有効であろう。

今後の人材育成方策も含めた科学技術政策については、平成18年度から始まる第三期科学技術基本計画の議論が行われている。実効性のある方策を構築し、「科学技術創造立国」実現を支える人材を育成していくことが、産学官共通の重大な責務であると考えている。


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