月刊・経済Trend 2005年9月号 巻頭言

買収防衛策をめぐって

氏家副議長 氏家純一
(うじいえ じゅんいち)

日本経団連評議員会副議長
野村ホールディングス会長

上場企業の間で、買収防衛策に対する関心が高まっている。直接のきっかけは、言うまでもなく、今年2月以降話題を呼んだ、ライブドアとフジテレビによるニッポン放送の経営支配権をめぐる争いだ。

ある日突然、自社の株式が買い集められ、新たに登場した大株主によって経営方針の大きな転換が迫られる。そんな状況には、中長期的な観点から日夜戦略を練っている多くの企業経営者は、決して直面したくないだろう。予期しない敵対的買収の脅威から企業を守る防衛策に関心が集まるのは当然だろう。

しかし、世の中には、明確な戦略や展望を欠き、与えられた経営資源の潜在的な可能性を十分に引き出せない経営者がいるのも、残念ながら事実だ。敵対的買収には、そうした経営者に退場を迫り、結果として株主や従業員に利益をもたらすという側面もあるように思われる。機関投資家を中心に、過剰な買収防衛策に対する懸念が示されているゆえんである。

幸い、ニッポン放送の事案に続き、代表的な買収防衛策とされる、いわゆる「ポイズン・ピル」をめぐって裁判所の判断が示された。証券取引所や経済産業・法務両省によるガイドラインも発表され、節度ある買収防衛策の姿が明確になってきた。すなわち、予め株主総会の承認を得て防衛策を導入しておけば、買い占めた株式の高値買い取りを迫る「グリーン・メーラー」など悪質な買収者はいつでも撃退できることになる。

また、裁判所の一連の決定をみる限り、事前に防衛策を講じていなくても、友好的な引受先への第三者割当増資を実施することで、悪質な買収者から企業を防衛することは許容されるはずである。さらに言えば、最善、最強の買収防衛策は、絶えず企業価値の向上と実力相応の株価の維持を図り、つけいられる隙を与えないことなのではなかろうか。


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