月刊・経済Trend 2005年12月号 巻頭言

日墨経済連携成功のカギは人材交流

小枝委員長 小枝 至
(こえだ いたる)

日本経団連日本メキシコ経済委員長
日産自動車取締役共同会長

日墨経済連携協定(EPA)は、両国政府の精力的な交渉の結果、2004年3月に基本合意に達し、国会での批准手続きを経て、今年4月に発効した。

貿易面では輸出入の品目が多様化し、総額の増加が期待される。投資面でも日本企業はより積極的かつ戦略的にメキシコへの投資が実施できるようになった。投資の増加は、メキシコの雇用を創出し、ひいては地域経済の発展につながる。日墨EPAは双方にとって大きなメリットをもたらすことが期待されている。

先日カバーニャス駐日メキシコ大使から、「メキシコには日本人観光客が年間8万人程度しか訪れない」との話を伺った。日本とメキシコは、支倉(はせくら)常長の訪墨や日系メキシコ人の活躍など、古くから昵懇(じっこん)の間柄だが、現在の日本人海外旅行者数が年間1600万人を超える中で、8万人という数字はあまりにも少ないという印象である。

メキシコは観光資源として三つの強みを持っている。第一に優れた自然である。アカプルコは行ったことのない人でも一度は耳にした地名ではないだろうか。また、メリダやカンクーンなどには雄大で美しい自然がある。第二にその歴史である。マヤ、アステカといったメソアメリカ文明を象徴する壮麗な神殿ピラミッドなどの遺跡の数々は、一見の価値ありだ。第三にメキシコの人々である。メキシコではどこへ行っても、フレンドリーな国民性に触れることができる。メキシコに渡航する日本人旅行者の数が増えれば、メキシコに対する理解が深まり、両国の人材交流の一助にもなるだろう。そのためにも、メキシコ政府にはこのような強みをぜひともアピールしていただきたい。

日墨EPAは発効してからまだわずか8カ月であり、その成否が問われるのはこれからである。お互いの理解を深め、Win-Win の関係を築くことができれば、両国の経済連携に絶大なる効果をもたらし、EPAの成功例として世界に胸を張れる日が来ると信じてやまない。


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