米倉弘昌 (よねくら ひろまさ) 日本経団連副会長 住友化学社長 |
2001年11月に始まったドーハ・ラウンドの交渉期限が、年末に迫っている。交渉を進めるための作業計画については一月末に合意が成立したものの、具体的な中身となると、いまだ合意には程遠い。これからが最後の踏ん張りどころだが、いずれにせよ、加盟各国にとって痛みを伴う結果が待ち受けていることだけは間違いない。
しかしながら、痛みの程度は各国まちまちだろう。わが国農業も痛みに耐えうる取り組みを模索している。昨年秋にまとめられた「経営所得安定対策等大綱」が、そうしたわが国農業の変貌を物語る。
「大綱」は、明治以来の大改革と言えるかもしれない。その根幹をなすのは、担い手を重視し、規模拡大および農業経営に主眼を置いた政策で、いわばわが国農業のインダストリー(産業)化宣言である。
こうした最近のわが国農業の変化を一言で表現すれば、始発の普通列車には乗り遅れたが、その次の急行列車に飛び乗って、先行する世界の農業国に何とか追いつきつつある、ということだろう。
もっとも、次の駅までに先行列車を追い抜くためには、農機具や肥料、収穫された農産物などの物流過程の合理化・効率化も、喫緊の課題であることを忘れてはならない。
こうした国内での農業の変革を受けて、国際社会向けの政策にも、以前とは一味違った積極性が感じられる。その一例が、さまざまな既存の施策の寄せ集めといった批判はあるにせよ、昨年12月の香港閣僚会議の直前に発表された、発展途上国向けの包括的な「開発イニシアティブ」である。
「イニシアティブ」に盛られた施策の一つに、アジアの経験をアフリカに伝播するための協力プログラムがある。世界的な景気上昇を受け、貧困にあえいでいたアフリカ諸国も、徐々にとは言え、成長への足掛かりをつかみつつある。
今こそわが国の農業は、今まで国内対策に向けていたエネルギーや高品質の農産物を生み出す優れた技術を、アフリカの大地に緑の革命を起こすために役立てて欲しい。われわれ産業界はもちろん、国民がこぞって声援を送るのは間違いない。