月刊・経済Trend 2006年6月号 巻頭言

現実主義・楽観主義・合理主義

御手洗会長 御手洗冨士夫
(みたらい ふじお)

日本経団連会長

経営者にとって、問題解決に向けた第一歩は現実を直視する「現実主義」である。

たとえば、注目を集めているBRICs諸国の台頭をはじめとするグローバルな競争を取り上げてみよう。

中国とロシアの貿易黒字額はすでに日本を超えている。21世紀に入って以降、日本の成長率は年平均1%強にとどまっているのに対し、中国は9%強、ロシアとインドはともに約6%といずれも高率の成長を続けている。GDPは、概ね10年後には中国に追いつかれ、約20年でインドに追い抜かれるとの予測もある。

こうした数字だけにとらわれるとパス(打開の道)は見えてこない。問題を解決するには「楽観主義」的にモノを考える必要がある。

巨大な人口を有するBRICs諸国が高い成長を続けることは、世界市場の拡大以外の何ものでもない。21世紀に入ってから、対中国向け輸出は年平均20%強、対ロシア向けに至っては50%強、インド向けも約8%の伸びを続けている。また、アジアを生産拠点として欧米に輸出する三国間貿易も増加しており、日本の受け取る仲介貿易手数料は同期間に7.5倍に増加している。

このようなプラス思考に立ち、「合理主義」的に考えた対応策を講じれば、BRICs諸国の台頭は脅威ではなく、大きなビジネスチャンスとなる。必要な対応策は、第一に、日本がイノベーションセンターとして、世界レベルでの好循環を創り出すことである。製造業を例にとれば、日本で新製品・新技術を開発し、マザー工場で高付加価値製品を製造する。一方、汎用的な製品の量産は海外で行い、基幹部品は日本が供給するという、成長構造の確立である。第二に、FTA/EPAをできる限り早期に締結し、さらなる市場開放、投資ルールの整備など、最適な協働・分業関係の形成できる基盤を整備することも重要である。

グローバル競争の激化のみならず、社会保障制度改革など日本が直面する課題は少なくない。しかし、現実を直視し、プラス思考に立ち、合理的な解決策を模索すれば道は開ける。

レーガン大統領は、かつて「人間の叡智、想像力と探究心は無限であり、成長に大きな限界はない」と述べた。日本経団連としても、こうした姿勢で、日本の直面する課題に取り組んでいきたいと考えている。


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