月刊・経済Trend 2007年11月号 巻頭言

グローバル視点の“食の安全”

池田副議長 池田弘一
(いけだ こういち)

日本経団連評議員会副議長
アサヒビール会長

中国山東省で展開している農業事業が順調である。レタス、スイートコーン、イチゴの出荷に続き、乳牛の飼育も始まった。

アサヒビールでは、昨年5月に伊藤忠商事、住友化学と共同で山東省莱陽市に農業法人を設立し、山東省との協力体制のもとで、大規模な農業経営を展開している。トレーサビリティの確保や循環型農法などの先端技術を導入し、中国都市部で高まる安全・安心でおいしいというニーズに応えた農作物を生産し、徹底した品質管理のもとで中国国内に供給していく。中国における食生活の向上に貢献したいと考えている。

ところで、中国産品の安全性が大きな問題となっている。いまや世界第3位の貿易大国となった中国の製品が、世界各国に与える影響は大きい。中国政府には、安全性を高める努力をお願いしたい。

一方で、日本企業が果たすべき役割も大きい。日本の経済・産業は、中国との関係なくして成り立たなくなってきている。小売店の店頭でも、中国製の食品がたくさん並んでいる。“食の安全”は自国内だけの問題にとどまらず、グローバルな視点が求められる。

まず、食品の輸入基準の厳格化だ。5年前の中国産ホウレンソウの残留農薬問題を機に昨年導入された「ポジティブリスト制度」は、一定の成果を上げている。中国の日本向け農作物の産地で、安全・安心に対する意識が高まっているようだ。

さらに、世界で一番厳しいお客様の選択眼に鍛えられてきた日本企業は、長年培ってきた知識やノウハウを中国へ提供することだ。アサヒビールが取り組む農業事業の重要な使命である。

しかし、日本国内に目を転ずると、今年も食の信頼を揺るがす企業不祥事が相次いだ。足元の品質管理が万全であることが、大前提である。過去のさまざまな事件を教訓に、お客様の信頼を得なければ企業の存続はないと学んできたはずだ。「品質最優先」「法令順守」の企業風土を創り上げていくことが、企業経営者の重要な使命である。


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