月刊・経済Trend 2008年11月号 巻頭言

エネルギー問題への提言

長谷川副議長 長谷川閑史
(はせがわ やすちか)

日本経団連評議員会副議長
武田薬品工業社長

ここのところ沈静化傾向がみられる原油価格の動向は、短期的には投機マネーによる高騰部分が是正されてきていることによるものと思われるが、中・長期的にみれば供給を上回る需要の伸びが続き、結果として原油価格の上昇傾向は続くとみるべきであろう。

このように安価な原油価格に支えられた成長のパラダイムは既に崩壊しており、原油や石炭等の化石燃料に依存した経済構造からの脱却が急がれる。日本は、産業分野での省エネ・省資源対策では世界の最先端をいっていると言われているが、昨今のエネルギー資源の高騰を受けてさらなる省エネのための技術革新が求められている。一方、オフィスや家庭等の民生部門では産業界ほどに省エネは進んでおらず、大いに改善の余地があろう。

省エネ対策として国家が取り組むべきは、太陽光発電等の自然を利用した再生エネルギーの活用も重要であることは論をまたないが、これらがエネルギー供給のメインストリームになることは期待薄であるだけに、当面取り組むべきは原子力発電の増強であろう。さらには、原子力発電のCO2削減効果を考えると、わが国にとってはまさに一石二鳥の施策であることも見過してはならない。

幸い日本は世界最先端の原子力発電技術を有しており、高速増殖炉やプルサーマル技術の商業ベースでの実用化が実現すれば、核燃料の再利用も可能となる。確かに、地震による柏崎刈羽原子力発電所のトラブルをみれば安全性に対する懸念も理解できるが、逆に言えば、二十数年前に建設された原子力発電所が想定を遥かに超える揺れに対して大事故を起こすことなく停止したというのは賞賛に値する。ましてや、これらの経験を踏まえて最新の地質学と建設技術の粋を結集すれば、さらに安全なものができることは確実であろう。

また、電力の大消費地である東京や大阪近辺には原子力発電所はなく、ほとんどが地方に立地していることも一つの論点となろう。もちろん安全保障上の問題を考慮する必要はあるが、それでも大消費地が自ら率先垂範することを真剣に考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

唯一の原子爆弾被災国として核に対するアレルギーは十分に理解した上で、この国の将来の発展を考えて敢えて問題提起する次第である。


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