月刊・経済Trend 2010年4月号 巻頭言

練習ハ不可能ヲ可能ニス

宗岡副会長 宗岡正二
(むねおか しょうじ)

日本経団連副会長
新日本製鐵社長

4月になり、桜とともに、希望に満ちた若者が会社や学校で新しい一歩を踏み出す季節が巡ってきた。最近ではスポーツや囲碁、将棋の世界などで溌剌とした若者の活躍が目立つ一方で、生きがいを見つけられず、無為に日々を過ごす若者も増えているように思う。家庭での躾や学校教育の問題に景気の低迷や将来への不安や閉塞感なども加わり、若者が生きがいを見つけにくい時代ではあるが、ここでは解決への一つの手掛かりとして、スポーツの効用を挙げてみたい。

慶應義塾の塾長であった小泉信三氏は、「スポーツが若者に与える3つの宝」として、「練習は不可能を可能にするという体験を持つこと」「フェアプレー精神の体得」「友を得ること」の3点を挙げている。私自身、幼いころより柔道に打ち込んできたゆえに、ことさら共感できるのかもしれないが、「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉もあるように、スポーツを通じて若者の心身を徹底的に鍛えることの重要性は、古今東西、社会の共通認識でもあろう。

また、変化の激しい現代社会において、充実した日々を送るためには、対応すべき変化には直ちに即応する柔軟さを身につけると同時に、一方で周囲の変化に惑わされることなく、変えてはならぬ目標にはひたすらに自己研鑚を続ける愚直さも不可欠であろう。その何ものにも流されぬ強い意志を形成するためにも、若い時期に一つのことに徹底的に打ち込み、練習などを通じて、「不可能を可能にする」経験を持つことは、誠に大きな財産となるはずだ。

もちろん、スポーツではなく学問や芸術でもよいのであって、若者には自らが情熱を持って打ち込める何かをぜひ見つけてもらいたい。そしてわれわれは、若者たちにそうした機会が少しでも多く与えられるように、そして彼らが失敗しても、何度でも再挑戦できる社会の実現のために、力を尽くさなければならないと思う。

今年もまた満開の桜を見るにつけ、若者たちの前途に幸多かれと願わずにはいられない。


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