月刊・経済Trend 2010年11月号 巻頭言

政治的決断をもってEPA推進を

勝俣副議長 勝俣宣夫
(かつまた のぶお)

日本経団連評議員会副議長
丸紅会長

間もなく、APEC(アジア太平洋経済協力)閣僚・首脳会議が開催される。かつて、先進エコノミーはボゴール宣言にて、自由で開かれた貿易・投資を2010年までに達成するとコミットした。今年はその最終目標年に当たるとともに、「ボゴール後」の方向性を見極めるうえでも重要な節目となる。

これまで、日本は10カ国・1地域との間でEPA(経済連携協定)を締結した。数としては決して少なくはないが、貿易のウエイトが小さい国が中心であり、経済への波及効果は限定的なものにとどまろう。一方、韓国はEUと来年7月に協定発効に至る予定であり、すでに署名済みの米国とも発効に向けて全力を傾けている。このままでは、EU・米国といった巨大市場への日本企業のアクセスが韓国企業と比較して大きく不利になるおそれが出てこよう。

しかも、現状、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の拡大、ASEANを中核とした地域統合が議論され、さらには環太平洋地域を網羅する自由貿易圏構想も視野に入っている。10年や20年前であれば、こうした経済統合に日本を組み入れることは当然のこととされたであろう。しかし、新興国の台頭と日本の国力の相対的低下という環境変化のなかで、このまま「半鎖国状態」を続けていれば、ジャパン・パッシングは着実に進み、新成長戦略で謳われたアジアの活力の取り込みも困難を極めよう。

EPA推進には農業分野の開放がカギといわれるが、よく考えれば、大規模化や集約化、かつ経営の視点を取り入れた「強い農業」をつくりあげるための支援制度の構築が本来あるべき姿といえる。しかも、外圧を待たずして、自らの意思と判断によって農業改革を始動させることが重要である。何もEPAと農業は相対するものではない。

経済産業省が6月に発表した産業構造ビジョンにおいては、日本の競争力低下の要因を分析し、輸出を中心とした「対外戦略」と海外からのヒト・モノ・カネの流入を促す「内なる国際化」の双方向の施策が必要であることを明示した。APECを機に、一気に遅れを取り戻すべく賢明なる政治的決断を行い、スピード感をもってEPAを推進することを強く求めたい。


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