月刊・経済Trend 2010年12月号 巻頭言

資源争奪戦

井手副議長 井手明彦
(いで あきひこ)

日本経団連評議員会副議長
三菱マテリアル会長

21世紀に入り、中国、インドなどの新興経済圏の需要増大を背景に、資源価格は、一段も二段も高い水準へと上昇した。ここに来て、上昇傾向に一服感はあるものの、世界景気の底入れがみえれば、さらに高いレベルを目指すことは必至だ。価格の高騰により資源獲得の意欲を大いに刺激された各国・各企業は、激しい競争を繰り広げている。国際資源メジャーは優良資源の囲い込みと集約化で経営基盤を固め、“爆食”ともいわれる中国は、政府主導で対外資源投資を推し進めている。まさに、世界は「資源争奪戦」の様相を呈している。

安価な資源を原料に「ものづくり」を行うことができたこれまでの時代とは異なり、これからは、「ものづくり」から得られる利潤の多くが、資源国に流れてしまうおそれがある。これを避けるために、自ら資源を確保していかなければならないのは自明であるが、各国・各企業の利害が激しく衝突するなかで、資源権益を押さえることは容易ではない。

一方、消費が急速に増大し、資源の枯渇が進むことは、われわれの優れた技術を活かすチャンスでもある。わが国の省エネ、省資源・リサイクルの優れたシステムは、資源枯渇の進行スピードを減速させることに大きく寄与するであろうし、太陽光・風力発電、バイオマスといった技術が、有限資源から再生可能資源への転換を可能とする。わが国の持つ知的資源が、これからの低炭素・循環型社会の実現に向けてイニシアティブを取ること、これが極めて大切である。

歴史を振り返れば、常に、“資源”は国家間の争いの中心にあり、これからも厳しい競争は続く。官民が一体となった資源外交を展開し、権益の確保を戦略的に行う必要がある。資源に恵まれないわが国がどのように生き残っていくのか、いまこそ知恵を絞り持てる力を結集する時である。


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