月刊・経済Trend 2011年12月号 巻頭言

未来に向けての絆

小島副会長 小島順彦
(こじま よりひこ)

経団連副会長
三菱商事会長

21世紀が始まった2001年には、9・11同時多発テロが発生し、その10年後には3・11大震災が日本だけではなく全世界に大きな衝撃を与えた。この10年間、先進国の凋落と新興国の台頭、世界的金融危機など、世界は激動し、その変化の幅と速度はますます激しくなっている。

ユーロ圏の問題が世界中に大きく影響するように、もはや一つの国や限られた地域のなかで問題が完結することはない。グローバル化が進む一方で、金融や景気の動きが不安定化しているとの印象は否めない。国際社会では新興国が存在感を増すなど多極化している。従来の先進国主導の秩序、ルールが不十分となり、多極化の時代にふさわしい新たな秩序が模索されている。転換期の市場や経済で不安定な動きが多発し、しかも、グローバル化そしてネット化の結果、それが急速に世界中に伝播するのであろう。

日本のこの10年間を振り返れば、世界的金融危機など激変に翻弄されたという意味では世界とともに歩んできた。しかし、10年前にすでに21世紀の日本の課題とされていた少子化への対応、税制改革を含む財政の再建、主要国とのFTA(自由貿易協定)の実現と活用、農業の競争力強化などは、いまだに将来の課題のままである。国内では問題は常に先送りされ、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加にかかわる決断の遅れに象徴されるように、世界の変化のスピードに取り残されたのが、この10年の日本の姿であった。

大震災の悲劇のなかでも、人々は礼節、自制、共助といった日本の伝統的美徳を失うことはなく、社会の絆の重みが再認識された。ありがたいことに海外からの熱意に溢れる支援の輪も広がり、国内のみならず海外との絆も強く意識された。しかし、絆は受け入れるだけのものではない。われわれが次の10年間にどれだけ自らを改革することができるかが鍵であり、スピード感を持ち、広く国際社会を視野に入れ対応していくべきである。世界にとって21世紀が繁栄の世紀となるために、日本が貢献できることは少なくないはずである。


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