7月11日/元SECチーフ・アカウンタント サットン氏との懇談会
日本経団連では5月21日に「証券市場の活性化を求めて─日本版SEC(証券取引委員会)の設立を」を取りまとめ、市場監視体制の充実を訴えている。一方、米国においては、エンロンやワールドコムをめぐる会計不祥事を契機として、会計制度、市場監視体制など証券市場をめぐるさまざまな制度の見直しが求められている。
そこで、7月11日、元米国証券取引委員会チーフ・アカウンタントで現在は会計・監査コンサルタントを務めるマイケル・サットン氏の来日を機に、同氏から「エンロン事件後のSECの対応と今後の課題」について説明をきき、意見交換した。
今回の米国の会計不祥事にはさまざまな要因が考えられる。これまで、経営者は生産性を向上することが重要であり、その見返りが株価の上昇であるとして、その報償がストック・オプションであると考えられていた。
しかし、この株価を経営者の報酬にリンクする考え方は、数字の操作を誘惑するという問題があった。それでも経済が成長し、株主に見返りがあるうちはあまり問題にならなかった。ところが、ITバブルが崩壊し、SECの能力にも限界があるという中で、このたび、エンロン、ワールドコムなどの粉飾決算が露見した。
これにより年金基金への被害を通じて多数の定年退職者を含む米国の投資家が被害を受けたこと、また今年11月に中間選挙を控えていることから、一連の事件は政治問題化し、共和・民主両党でも改革策づくりに躍起になっている。
両党ともSECを批判している。確かにピット委員長が就任時に、前任者より企業に友好的でありたいとのシグナルを出したことは反省しなければならない。しかし、不正な報告書にリステイトメントが出されたのはSECの行動の結果であり、手抜かりがあったわけではない。むしろそうした事態に至ることを防ぐ手段が必要である。
米国政府、企業、監査人、会計基準設定主体、証券会社、アナリスト、投資家の共通認識は、ビジネスの成功のために米国の資本市場は不可欠であり、投資家の信頼がなければ、資金調達ができず、財務報告は時間の無駄となるということだ。改革の対象は、
会計監査人に対する信頼が今ほど低下した時はない。米国の公認会計士協会は、これまで政府の介入に対して抵抗してきたために、今回は自主規制による信頼回復のチャンスを逃してしまった。
これに対し、SECは自主規制機関である公認会計士協会をSECの力で改革することを提案している。共和党が優位な下院でも同様の法案が準備されており、民主党が優位な上院では、上場企業の監査人に登録を義務付けた上で、その監査人に対して品質管理基準を適用し、登録した監査法人に対しては継続的検査を行った上で、監査の失敗については懲戒などの手続をとるとしている。
ワールドコム事件は損益計算書に計上すべきものを貸借対照表上の資産に計上するという単純な問題であった。一方、エンロン事件は平均的な投資家やアナリストにとって理解が困難な複雑な取引を行っており、未成熟な会計基準がついていけなかった。特定目的会社(SPE)についての米国の会計基準は、SPEとそのスポンサーとの関係を捉えきれていない(第三者がSPEの資産の3%以上を出資していれば連結対象外)。投資銀行や金融仲介業者の圧力により米国財務会計基準委員会(FASB)は時代遅れのルールを看過し、企業の抱えるリスクを覆い隠してきた。
今後は、
エンロン事件を受けてSECや証券取引所などが報告書を公表している。これらの中ではコーポレート・ガバナンスのあり方について、特に監査委員会の権限を強化し、独立性を高めるべきだとしている。
困難な道のりではあるが、我々は投資家の信頼の回復を必ずや達成する。米国資本市場の将来を楽観している。