経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

企業行動憲章部会(部会長 小野敏夫氏)/10月3日

新しい企業行動憲章に向けての提言


企業行動憲章部会では、11月末を目途に「経団連企業行動憲章」の見直しを図るべく、現在、検討を進めている。第3回部会では、中島経営法律事務所の中島茂弁護士を招き、新しい企業行動憲章に向けて注意すべき点などにつき説明を聞き種々意見交換した。またその後、トヨタ自動車の栗波法務部主査よりトヨタにおける企業倫理への取り組みについても説明を聞いた。

  1. 中島弁護士説明要旨
    1. 企業を取り囲む環境の変化
    2. 経団連が初めて企業行動憲章を発表した91年当時と現在を比べると、幾つかの点で企業を取り囲む環境が変化している。その中でも私が重要視しているのは株主による企業監視の強化である。
      株主代表訴訟に関する商法規定の改定にり、より簡単に代表訴訟が起こせるようになった結果、株主による企業監視は単に表面的なものではなく、法的制裁も伴うより厳しいものとなった。また、住専問題やHIV訴訟によって、企業が監督官庁の行政指導に従っているだけでは、問題を防げないことも明らかになっている。
      こうした変化により、企業には今後、行政への依存から脱却し、自己責任による経営を確立することがますます求められる。

    3. 新しい企業行動憲章に関する提案
    4. 企業行動憲章を改定するにあたり、是非検討してほしい項目を以下に企業を取り囲むステークホルダーズごとに述べたい。
      従業員との関係では「快適な職場環境を保全することは企業の法的義務である」と指摘したセクハラ訴訟に対する92年4月の福岡判決を指摘したい。この判決を踏まえて、新しい憲章では、従業員に対し快適な職場を確保する上での企業の責任について言及してはどうか。
      社会との関連では、企業による社会貢献も勿論重要だが、現在、一般国民の関心がより集まっているのは、企業が反社会的行動の禁止に対して、どのような姿勢を示すかという点である。反社会的行動は断固として禁止し、万一、不祥事が発生した場合は、原因究明と再発防止策の検討を徹底的に行なうという決意の表明が必要であろう。
      消費者との関連では、PL問題における企業の責任を検討してほしい。その際、企業は製品を世に送り出してからそれが廃棄されるまで、つまり廃棄物処理にまで責任を持つという視点を加えてほしい。
      株主との関係では、適正な企業情報のディスクロージャーが最も重要である。しかし株主尊重は、突き詰めて考えれば配当性向の問題である。
      取引先との関連では、独禁法遵守も重要だが、独禁法の理念である「価格と品質による競争」をもっと全面に出してはどうか。諸外国の日本の企業行動への批判も、品質と価格以外の要因で競争が左右されている点にある。
      また環境問題については、環境に配慮するという段階から一歩踏み込んで、環境保全は企業の義務であるという考えを示してほしい。

    5. 経営トップの姿勢が最も重要
    6. 企業の危機管理は経営トップの責任である。企業不祥事を防ぐためには、経営トップが反社会的行為や違法行為は断固として行なわないという姿勢を社内外に示すことが最も大切である。その他に社内の危機管理体制を作ることや、不祥事が起きた際には率先して原因究明や再発防止に努めることもトップの役割だろう。
      また行動憲章自体は、経団連の会員企業向けであっても、憲章を発表することによる一般への広報効果はかなりあると思う。その意味で憲章は、なるべく簡潔でわかりやすいものにすべきである。また新しい憲章を発表した後は、会員企業に憲章の周知を図るとともに、遵守状況などを調べるためにフォローアップ推進委員会のようなものを設置してはどうか。

  2. トヨタ自動車 栗波法務部主査説明要旨
    −トヨタにおける企業倫理への取り組み
    1. トヨタ基本理念の策定
    2. トヨタの基本理念としては、1935年に豊田佐吉の考えを継承し社内に周知徹底するために策定された「豊田綱領」がある。
      しかし、その後の経営の国際化、環境問題への関心の高まり、企業の社会的責任・役割の変化などを受けて、92年1月、21世紀に向けた新しい感覚の「トヨタ基本理念」を策定した。

    3. 基本理念の展開
    4. 基本理念の内容を実践するために、まず社内での理念の周知徹底を図っている。具体的には、基本理念をポケットサイズ版で作成し全社員に配布している他、解説書の配布、基本理念についての社員研修などを実施している。
      さらに、理念を実際の企業行動に反映させるために、組織面での整備、各種マニュアルや行動指針の作成などを行なっている。
      具体的には、輸出取引管理委員会、社会貢献活動委員会、企業行動倫理委員会、環境委員会などを設置し、基本理念に基づく行動方針や経営姿勢のチェックなどを行なっている他、独禁法遵守マニュアル、機密管理マニュアル等を作成し、社内各部署に配布すると共に、重点部署の社員には説明会を開いている。
      また、環境分野での「地球環境憲章」「環境取り組みプラン」や、経済活動の国際的協調をめざした「新国際ビジネスプラン」などの行動指針を策定し、理念を具体化するための行動計画を示している。

    5. 今後の課題
    6. 今後の課題としては、
      1. 社内において基本理念についての展開活動をいかに継続的に実施するか、
      2. 子会社や関連企業に対し、いかに基本理念の展開を図るか
      等が指摘される。


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