月刊Keidanren 2001年4月号
経済広報センターセミナー

ブッシュ新政権下の日米関係

経団連特別顧問
近藤たけし

■ ブッシュ新大統領が引き継いだアメリカ

ブッシュ新大統領は、12年前に大統領になった父親のブッシュ(シニア)時代とは様変わりしたアメリカを率いることになる。第一に、冷戦が終わり、アメリカは、第二次大戦後初めて「普通の国」になった。いわば「平時」のアメリカを率いる初の大統領である。第二に、ゴア氏との選挙戦の結果は五分五分で、小さな政府を目指すのか、政府の役割をより重視するのか結論が出なかったように、国論が「分裂」した国になっている。第三に、80年代に比べると、経済面、軍事面では、著しく自信を強めている。

■ 前政権と対照的な「古きよきアメリカ型」政権

新政権の組閣人事を見ると、歴代政権の経験者が多数配置され、思想面より実績重視の「古き良きアメリカ型」政権と言える。財務長官に初めて製造業(アルミメーカー「アルコア」)からオニール氏が配置されたことも象徴的である。余談だが、ホワイトハウスも、クリントン政権のスタッフはジーパン姿だったが、ブッシュ政権になってからはネクタイが不可欠になり、秩序と規律を重んじる運営となっている。

■ 経済のソフトランディングが最大の課題

当面、新政権の最大の課題は、本年4月で丁度10年間にわたって成長が続くアメリカ経済を的確にソフトランディングさせることである。マーケットは、短期では多少の混乱を予想しているが、中長期的には楽観視している。財政・金融政策を発動できる余地が大きく、グリーンスパン連邦準備制度理事会議長はじめ財政金融当局への市場の信任が厚いことがその理由である。
第二の課題は、分裂した世論の中で選挙公約を着実に実施することである。この点、減税実施など幸先の良いスタートを切った。減税の中身を見ると、所得税引下げ、共稼ぎ世帯の優遇、育児控除拡大、相続税の段階的廃止など、保守主義のアジェンダ実現に向けた新大統領の決意を見て取ることができる。
第三に、対外政策の面では、経済をソフトランディングさせるため、国際経済の持続的成長を実現しなければならない。そのためWTO新ラウンド交渉の早期スタートに努力するとともに、米州内やシンガポール、さらには欧州との自由貿易協定を積極的に推し進めることになろう。安保政策については、新政権の姿勢は「節度ある国際主義」と言え、積極的に介入する課題と、他国と共同対処する課題を選別することになろう。

■ 日本に求められるのは政治的リーダーシップの発揮

米国経済が減速する中で日本の内需拡大が国際的に重要なことから、ブッシュ新政権は、日本に対し構造改革の推進を強く求めてくるであろう。一方、安全保障面では、極東・アジアにおいて積極的役割を果たすよう求めてくるだろう。
わが国としては、政治が強力な指導力を発揮し、経済構造改革を大胆かつ迅速に進めるとともに、安全保障面でも積極的に対応しなければならない。冷戦時代には、わが国は経済構造協議をはじめ対米交渉に十分対応できた。しかし、現在、日米間の対話チャネルが弱体化しており、私はこのことを強く懸念している。日米の経済界は結びつきを強めているが、政治面でも対話チャネルを抜本的に強化しなければならない。とくに今後は、アメリカの主張に受動的に対応するのではなく、わが国としてどうすべきかという観点から日米間の対話を深めていく必要がある。これは行政問のやりとりではできない。議員外交等を通じ政治がその役割を発揮すべきである。

(3月1日 経済広報センター主催セミナーより)

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