月刊keidanren 1997年 4月号 巻頭言

サロー教授の『資本主義の未来』を読んで

齋藤評議員会議長

齋藤 裕
経団連評議員会議長


 米国の著名な経済学者レスター・C・サロー教授の近著『資本主義の未来』を読んで大層啓発された。本著は「誰にも否定できない資本主義の優位性、つまり成長、完全雇用、金融の安定、実質賃金の増加といったものは、資本主義の敵が消えると同時に、消えてしまったように思える。そうなったのは資本主義のなかの何かが変ったからだ。資本主義が生き延びるとすれば、こうした受け入れがたい結果を修正するために、何かを変えねばならない。しかしその‘何か’とは何か、‘何を’‘どのように’変えればいいのか」が命題となっている。 もとより大部の論述を紹介する紙数はここにはないが、教授の所論を背景とする日本経済の見方が数々述べられているのが大いに参考となる。

 教授は日本語版に寄せて、「今後、日本にとって必要になる変革は、バブル景気とその破裂の際に求められたものよりもはるかに大きい」、「これまで半世紀にわたって日本は世界の工業国のなかで最も成功を収めてきた。しかし、いま起こっている変化は根本的なものであり、これまで50年間において成功をもたらした方法にしがみついていては今後の50年間を乗り切れるとは思えない」、「しかし日本はこれまで成功を収めてきただけに、世界が変化していることを認識するのは、極めてむずかしいだろう」、「そこで認識できたとしても、それに合せてみずからを変えていくのは極めて困難だろう」とかなり悲観的である。われわれはそうであってはならぬと思うが、教授は本書で地質学から「プレートテクトニクス」、生物学から「断絶平衡説」という二つの概念を借りて、新しい経済の動きを分析していて、非常に説得的である。

 われわれは、本書により日本の危機を深く認識して対応せねばならないと思う。広く一読をお勧めする。

(さいとう ひろし)


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