月刊 keidanren 1997年 9月号 巻頭言

高度情報化の時代に思うこと 標準化と独自性

那須副会長

那須 翔
経団連副会長


かつて東西ドイツの厚い壁が、ラジオなどを通じ自由主義世界の良さを知った東側の人々の手で壊された事実でも明らかなように、情報化は社会変革に大きな影響を与える。

とりわけ、ネットワークによりどこにでも接続可能となる高度情報化は、従来以上に情報のボーダレス化とグローバル化を加速させ、制度や仕組みの国際的な標準化を進展させる。他の良いところを知り、学び、それを取り入れようとする行動が今まで以上に速いテンポで起きるからである。情報がボーダレスに行き交う国際社会では、国際的な整合性に留意しなければ、グローバル経済から取り残されてしまう。仮に、そうした動きを特定の利害で遮ろうとすれば、経済社会全体として退歩となることは明らかである。

しかし、標準化を目指すだけで、世界に比べ遜色のない国づくりが本当にできるであろうか。私は、国際的に標準化が進めば進むほど重要となるのは、実はその国独自のアイデンティティだと考えている。言い換えれば、金太郎飴のような他との横並びに陥らず、主体的に独自の強さをどうつくりあげていくかが重要になってくるのだと思う。そしてその独自性は、世界の潮流に目を閉ざすという独りよがりのものであってはならず、あくまでも他国の良いところは取り入れ、そこに独自の価値をしっかりと付加していくことによって生まれてくると考えている。

例えば、私の本業のエネルギー分野について言えば、欧米では競争の導入、市場化が進み、わが国もお客さまの立場に立ってそれを積極的に進めている状況にあるが、同時に、無資源国としてエネルギー・セキュリティの問題を欧米以上に真剣に考えざるを得ないわが国は、さらにどのような価値を加えていくかが重要になっている。またエネルギーの大消費国としての立場から、環境保全の視点も不可欠である。

わが国が長期にわたって強く豊かな国であり続けるためには、そしてさらに発展途上国からも頼りにされる国際的共生の兄貴分として生きていくためには、このような観点から、今後の原子力政策やエネルギー産業のあり方を考えていく必要があるとつくづく思う今日この頃である。

(なす しょう)


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